プログレ のレビュー

IQ / The Road Of Bones

2014,UK

英国のプログレッシブ・ロック・バンドIQの前作Frequency以来5年振りとなる10thアルバムThe Road Of Bones。

クールでスリリングなムードのヴァースから突き抜けるサビへの移行が鮮烈。ヘヴィなミディアム・テンポの#1。
ピアノやシロフォンをアクセントに柔らかなパッド系シンセをバックにした序盤~中盤、続く最後の2分半は荘厳なシンセストリングスとヘヴィなドラムがリードする深遠なパートへと展開するタイトルトラック#2。
軽いサンプル・ビートの上を浮遊するパッド系シンセが柔らかく包むバラード、ヘヴィな中間の歌唱パート、アコギやシンセを絡めた静謐パート、テンポアップしてのインスト・パートなど、変拍子も忍ばせながら目まぐるしく展開していく19分超のプログレ超大作#3。
トリッキーなリズム・セクションのひっかかりを持つ柔和なバラード・ナンバー#4。
ヘヴィネスとミステリアスが支配するプログレッシブなパートから、キャッチーかつメロディアスなボーカル・パートへ移行、シンフォニックな大団円を経て静かに幕を降ろす12分の大作#5。

特に冒頭3曲において、シリアスでヘヴィなパートからメロディアスで開放的なサビへの転換がドラマティックに決まっている。
アナログ・シンセやオルガン系、ストリングスなどオーソドックスながらツボを押さえたキーボードの音色、ヘヴィなビートと華麗なロールを叩き出すドラム、安定したピーター・ニコルスの歌唱と、スタイルを確立させた者だけが持つ威厳すら感じさせる重厚なサウンドが全編を覆う名作。

Track List

1. From The Outside In
2. The Road Of Bones
3. Without Walls
4. Ocean
5. Until The End

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カテゴリー: IQ

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MAGIC PIE / King For A Day

2015,NORWAY

ノルウェーのプログレッシブ・ロック・バンド MAGIC PIEの4thアルバムKing For A Day。

緩急や拍子チェンジにドライヴィングなギター・リフが切れ込むキャッチーで爽快な#1。
コーラスとメイン・ボーカルの掛け合いで進行するアリーナ・ロック風パートでスケール感を見せつけ、ヘヴィ・ロックや北欧フォークロア風味を交えたインスト・パートにメロウなパートも織り込んだ中間部を経て再びアリーナ・ロックに回帰する#2。かわいらしいオルゴールで締めるアイディアもありがちだが、琴線に触れる心憎い演出ではある。
フックの効いたQUEEN風パートやメロトロンがやさしく包み込むメロウ・パートを内包した快活なハード・ロック・チューン#3。シンセとギターの高速ユニゾンに始まるカラフルなインスト・パートには、FLOWER KINGSのような桃源郷テイストも。
ロングトーンを活かしたソフトなギターのランドスケープを継承し、メロトロン・フルートとクリーン・ギターのアルペジオによる神秘的なイントロに移行する#4。メロトロン・ストリングスが登場するメロウネスとダークなヘヴィネスを対比させたボーカル・パート、エキゾチックなメロディをまぶしたシンセやギターによるインスト・パートへと巧みに展開。
インスト・パートのシンセとギターによるハーモナイズ・フレーズがテクニカルでカッコ良い、叙情メロディアス・ハード・ロック#5。
27分超のタイトル・トラック#6。快活なロックンロールや抑えた叙情で起伏を付けたボーカル・パートとテクニックに裏打ちされたスリルを盛り込んだインスト・パートが交互に主役を張って進行するエピック・チューン。テーマのモチーフを変形・発展させながら繰り返していく手法はSPOCK’S BEARDTRANSATLANTICの奥義に迫るものがある。エンディングでのクラシカルで構築されたメロディと手癖が良い感じで融合した弾き捲くりのギターが圧巻。

時折出現するヘヴィ・メタルなタッチのシュレッドな早弾きギターに象徴されるエッジの立ったギターがサウンドのスパイスとなってMAGIC PIEとしての独自性を発揮。多層コーラスやひねりの効いた演出にMOON SAFARIっぽい部分もあるが、MAGIC PIEはストロングにも歌えるボーカルの存在感からより硬派な印象を受ける。

Track List

1. Trick of the Trade
2. Introversion
3. According To Plan
4. Tears Gone Dry
5. The Silent Giant
6. King For A Day

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BIG BIG TRAIN / Wassail

2015,UK

英国のプログレッシブ・ロック・バンド BIG BIG TRAINの2015年作EP Wassail。

イングランド西部に中世初期から伝わる伝統行事をテーマとした#1。フィドルやフルート、マンドリンが演出するトラッド風モーダルなメロディをフィーチュア。サビはBIG BIG TRAINらしく堂々たるシンフォニック。
繊細な12弦ギターとジェントルな歌唱及びコーラスによる仄かに叙情薫るキャッチーなヴァースから、テンポと拍子の大胆な変化で激情クライマックスへとドラマティックに展開する#2。GENESISの系譜を継承するBIG BIG TRAINならではの端正な英国風サウンドにストリング・セクションもマッチしている。
19世紀ロンドンの貧困層のひとつ 泥ひばりを題材にしペーソスを漂わせる、簡素なコーラス以外はほぼインストゥルメンタルの#3。序盤の9/8拍子から3拍子そして4拍子へと自然に拍子を変化させるセンスはさすが。
The Underfall Yardに収録された楽曲のスタジオライブ#4。こだまのように折り重なる多重コーラスが美しい。

直近のEnglish Electric 2部作で近代~現代英国の日常を生きる人々を温かく描写。今最も英国らしいプログレを聴かせるBIG BIG TRAINによる、新作フルアルバムへの期待を煽るEP。

Track List

1. Wassail
2. Lost Rivers of London
3. Mudlarks
4. Master James of St. George

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WHITE WILLOW / Animal Magnetism

2015,NORWAY

ヤコブ・ホルム・ルポ(G/B/Syn)、WOBBLERのラース・フォレデリク・フロイスリー(Syn)、元ANGLAGARDで最近はNECROMONKEYKAUKASUSの活躍が目覚しいマティアス・オルセン(Dr)のWHITE WILLOW及びWHITE WILLOWの派生プロジェクトOPIUM CARTELの中心メンツに、OPIUM CARTELの2ndアルバムArdorに参加していた女性ポップ・シンガー ベンケ・ナッツソン(Vo)とクラリネット奏者を加えたWHITE WILLOW名義でのシングル Animal Magnetism。原曲はSCORPIONSの同名アルバムのタイトル・トラック。有名な発禁ジャケットに登場していた犬と女性をあしらったカヴァー・アートもリスペクトが感じられおもしろい。

原曲の怪しいムードはそのままに、ギターのリフを分厚いアナログ・シンセでカヴァー。特にボーカル・パートの3連バッキング・リフをシンセのシーケンンス・フレーズ風に再構築するクラウト・ロック的解釈が斬新。まるで幻覚を見るかのようなトリップ感を醸し出している。そこにベンケ・ナッツソンの本来可憐な歌声が少々アンニュイに乗ることで浮遊感を演出。さらにソロ・パートでは、サックスかと耳を疑うほどクラリネットがアグレッシブにプレイし非日常感を増強している。

メンバーの重複度からするとWHITE WILLOWよりもOPIUM CARTEL寄りなのだが、音楽性的にプログレ寄りなのでWHITE WILLOW名義なのだろう。
今回はSCORPIONSファンだというヤコブ・ホルム・ルポの趣味から発展したちょっとした企画モノではあるが、仕事熱心な彼らからは今後も目が離せない。

Track List

1. Animal Magnetism

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カテゴリー: WHITE WILLOW

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BAROCK PROJECT / Skyline

2015,ITALY

イタリアのプログレッシブ・ロック・バンドBAROCK PROJECTの4thアルバムSkyline。

爽やかな多声コーラスで幕を開ける#1。5拍子をベースにメロディアスな歌メロを乗せ、ブラスやストリングスを要所で効果的に使用し明朗かつ希望的に展開するFLOWER KINGS風シンフォニック・ロック。
オルガン中心でELPを彷彿とさせつつ、シンセが入る部分ではELPはELPでもEMERSON LAKE & POWELLのようなポップ性も伺わせながら弾むようなリズムで爽快に進行。非常にテクニカルでありながらそうとは感じさせないメロディとアレンジの妙が際立つクラシカルなインストゥルメンタル・チューン#2。
乾いたウェスタン風フォークを軸に、端正なクラシカル・パートやヘヴィなパート、シンフォニックなインスト・パートを内包する10分超の大作#3。NEW TROLLSのヴィットリオ・デ・スカルツィ(Vo/Fl)をゲストに招き、ヘヴィネスとクラシカルが融合したアレンジをバックにフルートのソロをフィーチュア。
ミステリアスなムードを演出するシンセの小技が効いたドラマティックな#4。
クールなフォーク・パートとクラシカルなパートが表裏一体となった#5。清涼感あるコンテンポラリーなパートからクラシカルな叙情への展開が意外性を伴いハッとさせられる。
語りかけるようなジェントルなボーカルをピアノ、アコギ、ストリングス・セクションが支える気品あるバラード小品#6。
洒落たジャジーなコード進行がフックとなった、ファンキーな中に少々ペーソスを効かせた#7。
STYXのような産業ロック的キャッチーさを持った歌メロやスリリングなプログレ・ハード風インスト・パートを内包。ストリングスによるクラシカルなデコレーションを施したスケールの大きな#8。
クラシカルでメランコリックなバラード#9。
中期GENESISや初期FLOWER KINGSのような突き抜ける爽快感を持ったイントロが印象的なシンフォニック・ロック#10。晩夏を思わせる寂寥感が心地良い余韻となっている。

全編に良質な歌メロが散りばめられており、テクニカルで壮麗な器楽要素が満載でありながら散漫にならずに芯の通った作品となっている。その歌メロもイタリア的な甘いものからクラシカル、コンテンポラリーなどバラエティに富んでおり、中心人物ルカ・ザッビーニ(Key/B)の音楽的素養の高さが伺える。
アルバム・タイトルから連想したと思しきシュールなジャケット・アートは、GENESISの作品でお馴染みのポール・ホワイトヘッドによるものでちょっと古臭いタッチが微妙。洗練された音楽性からはヒュー・サイムとかの芸風が合っている気がする。

Track List

1. Gold
2. Overture
3. Skyline
4. Roadkill
5. The Silence of Our Wake
6. The Sound of Dreams
7. Spinning Away
8. Tired
9. A Winter's Night
10. The Longest Sigh

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SPOCK’S BEARD / The Oblivion Particle

2015,USA

アメリカのプログレッシブ・ロック・バンドSPOCK’S BEARDの12thアルバムThe Oblivion Particle。

静と動の対比、ダイナミズムと各パートのタイトなアンサンブルで聴かせる典型的なSPOCK’S BEARDチューンの#1。
爽やかな3声コーラス、深遠なメロトロン、耳にひっかかる奇妙なリフなど様々な要素が違和感なく展開。アレンジの妙が冴える#2。
アコギとフルート風シンセの音色が印象的。アメリカンなポップさがの中に自然な拍子チェンジも交えたキャッチーな#3。
ジミー・キーガン(Dr)がリード・ボーカルを担当。シタールやマンドリンを使用したレトロなムードの中に不思議と未来感覚を合わせ持った#4。
マイナー調のメロディックな歌ものナンバー#5。
ドラマティックな切り返しや妖しいメロディに次々と展開していくインスト・パートなど、シアトリカルな要素が満載の#6。
ピアノのエチュード風フレーズから始まり、ミステリアスとコミカルが同居したSPOCK’S BEARDらしいリフレインを経てスケール感のあるキャッチーなシンフォニック・ロックに移行する#7。インスト・パートではシンセとギターのクラシカルなハーモニー・プレイで聴かせる。
スペイシーなスケール感を持ったミディアム・スローの思索系ナンバー#8。
KANSASのデヴィッド・ラグスデール(vln)が参加したスリリングなインスト・パートを内包したセンチメンタルなバラード#9。

テッド・レオナルド(Vo)とジミー・キーガンが加わった前作と同じメンツで制作。テッド・レオナルドは#2、#3を作曲するなど創作面でも存在感を確立。
キャッチーな歌メロと捻ったクセのあるアレンジというSPOCK’S BEARDらしさは相変わらずだが、全体的には普遍的なアメリカン・ロック成分が増えた印象。そんな中、#1のソロでのアグレッシブなアーミングや#7のトレモロを掛けたオブリガードなど、アラン・モーズ(G)が随所に個性を発揮。全編に渡って使用されるメロトロンとあいまって、SPOCK’S BEARDとしての記名性を高めている。

Track List

1. Tides of Time
2. Minion
3. Hell's Not Enough
4. Bennett Built a Time Machine
5. Get Out While You Can
6. A Better Way to Fly
7. The Center Line
8. To Be Free Again
9. Disappear

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RIVERSIDE / Love, Fear and The Time Machine

2015,POLAND

ポーランドの薄暗プログレ/シンフォ・バンドRIVERSIDEの6thアルバムLove, Fear and The Time Machine。
ジャケットアートはお馴染みのトラヴィス・スミス。

オリエンタルなエキゾティックさを感じさせるモーダルなメロディによる新機軸#1。
クリーンなギターのアルペジオがリードし、浮遊感あるまろやかなシンセがアクセントとなる#2。終盤の叙情リフレインがシンプルながらもグッと来る。
リフレインとAメロに若干邪悪な音使いを絡めてフックとしながらも、全体としてはメランコリックなメロディで流れるように展開するキャッチーな#3。アコギとシンセによる幽玄なアウトロに何となく70年代B級プログレ臭が(良い意味で)あり秀逸。
7拍子の引っ掛かりと終盤のギターやシンセによる叙情的なシンフォ・パートが印象的な#4。
クールな7拍子と不条理系ヘヴィ・リフを巧みに融合させた#5。荒涼としたアンビエントから炭火のように暖かいメランコリックなメロディへの展開が見事。
オルガンとベースのみをバックに切々と歌われる、ダークでメランコリックなバラード#6。
リズミックなベースのリフがリード、トレモロをかけたギターやシンセがヴィンテージ風なフックとなり、コンテンポラリーなサビと対比している#7。
アコギのアルペジオがまどろみフォーク風の序盤から、OPETH風暗黒インスト・パートの後半に移行する劇的な#8。
終盤に叙情リフレインを配したアコギ・フォーク#9。
ミニマルなアルペジオとオルガンの白玉という相反する要素を持つクールなフォーク#10。

HM/HR系バンドにありがちな、リフありき→歌メロ後付けの楽曲制作パターンとは真逆のまずは歌メロありきと思えるメロディアスな楽曲が並ぶ。
一方インスト・パートは、テーマを変容させながらこれでもかと繰り返すことで聴き手の心に深い印象を残す手法を確立。
メロディとムードを優先する叙情的な方向性は、ダークなプログレの最先端を行くスティーヴン・ウィルソンに近いものがあるが、歌唱もジェントルかつクールで決してウェットに耽溺しない絶妙なバランス感覚はRIVERSIDE独自のものといえる。

Track List

1. Lost (Why Should I Be Frightened By a Hat?)
2. Under the Pillow
3. #Addicted
4. Caterpillar and the Barbed Wire
5. Saturate Me
6. Afloat
7. Discard Your Fear
8. Towards the Blue Horizon
9. Time Travellers
10. Found (The Unexpected Flaw of Searching)

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NAD SYLVAN / Courting The Widow

2015,SWEDEN

UNIFAUN、AGENTS OF MERCYを経て、スティーヴ・ハケットのGENESIS REVISITEDへの参加にまで登りつめたナッド・シルヴァン(Vo)のソロ。

スティーヴ・ハケット(G)をはじめ、ロイネ・ストルト(G、FLOWER KINGS/AGENTS OF MERCY/TRANSATLANTIC)、ヨナス・レインゴールド(B、FLOWER KINGS/AGENTS OF MERCY/KARMAKANIC)、ニック・ベッグス(B、LIFESIGNS/STEVEN WILSON)、ニック・ディヴァージリオ(Dr、BIG BIG TRAIN)らプログレ界の実力者たちが参加。

軽快な中にメロトロンなどシンフォニックな要素を巧く配合した、4人編成時GENESISを彷彿させる#1。
幽玄なシンセが印象的な静かなパートとリズムインしたパートから構成された、ジェントルなナンバー#2。
重厚でシリアスな叙情ナンバー#3。ピアノとの厳かなアンサンブルで提示されたフルートのメロディをスティーヴ・ハケットが継承。倍音を繊細にコントロールした艶やかなギター・トーンにリスナーも陶酔必至。
大作にありがちな過剰な演出や力みが無く、歌唱パートと器楽パートを自然な場面転換で繰り返しスムーズに聴き手をその世界に引き込む20分超の#4。ここでも前半のスティーヴ・ハケットの叙情的ギターがハイライト。少ない音数にもかかわらず、サスティナー使用と思しきロングトーンを巧みに操り様々な表情を見せる。
素朴な足踏みオルガンで幕を開け混声コーラスやストリングスで優しく装飾した、英国風ペーソスを感じさせる#5。ネズミ退治用に古くから船に乗せられてきたネコがタイトルとなっているが、「グー~」というSEがミックスされているのは、ネコのゴロゴロ音なのか?
チェンバロや弦楽を加えてクラシカルなコード進行も織り込むなど、小品ながら単純なボーカル曲に留まらせないアイディアとセンスを感じさせる#6。
ストリングス・セクションを中心に上品なアレンジで静動と陰影を表現した#7。
ロイネ・ストルトと思われるタッチのギターがテーマ・メロディを奏でる叙情チューン#8。後半のギター・ソロは、左CH=ハケット、右CH=ストルトか? エモーショナルな珠玉のダブル・リードが感動を呼ぶ。

基本GENESIS路線ではあるが、数多のGENESISフォロワーのようなGENESIS様式のキッチュな拝借というよりは、GENESISを通じて得た英国風味が自然な感じで滲み出ており、スティーヴ・ハケットの参加もあいまってより本物感を漂わせている。
フォロワーが本物(スティーブ・ハケット)との共演を経て、自らが聴きたいと思ったものを作り上げた自己表現の成果が、思いがけずもGENESISが”やりそうでやらなかったような”楽曲群となって結実。

Track List

1. Carry Me Home
2. Courting The Widow
3. Echoes Of Ekwabet
4. To Turn The Other Side
5. Ship's Cat
6. The Killing Of The Calm
7. Where The Martyr Carved His Name
8. Long Slow Crash Landing

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STEVEN WILSON / Hand. Cannot. Erase.

2015,UK

スティーヴン・ウィルソン(Vo/G/Key)の4thアルバム Hand. Cannot. Erase.。
前作The Raven That Refused To Singとほぼ同様のメンツで制作。
実在したJoyce Carol Vincentという女性の人生にインスパイアされたコンセプト・アルバム

美しいメロディを提示した、期待感で胸膨らむオープニング・インストゥルメンタル#1。
快活なギターのカッティングがリードする10分超の#2。ドラマを予感させる長いイントロを経てスティーヴンによる繊細な歌唱パートへ。時にうっすらとそしてクライマックスでは神々しく鳴り響くメロトロンが爽快。
歌メロを軸に静と動のダイナミクスで聴かせるキャチーな#3。ここでもメロトロンが活躍。
序盤に女性のモノローグを配し、マシンのリズムをベースに穏やかな音色群でデコレーションされたオケをバックに延々とサビを反復する#4。単純な繰り返しこそが完璧な生活という暗喩だろうか。反復の陶酔感とともにリスナーに魔法を掛けるかのような曲だ。
うって変わって生々しいピアノとボーカルで始まる#5。ミステリアスなアコギのアルペジオ・パート、ガスリー・ゴーヴァン(G)によるメロウなギター・ソロ、女性ボーカル・パートを交えながら徐々に盛り上がるドラマティック・チューン。
切迫感を煽るリフ、パーカッシヴなフェンダー・ローズ、エフェクトを掛けたボーカルをフィーチュア。緊張と緩和による落差が決定的なフックとなって強烈な印象を残す#6。
ベンダーを多用したモーグ・シンセサイザーのソロをフィーチュアしたインスト・チューン#7。
神秘的なコーラス・パートを内包する、アコギのアルペジオをバックにしたシンプルながら非常に英国的な小品#8。
屈折したメロウネスと暴虐のインスト・パートを兼備した初期KING CRIMSONを彷彿させる13分超のエピック・チューン#9。テオ・トラヴィス(Fl/Sax)の浮遊するフルートが神秘的な味わいを付加。
#1のテーマ・メロディから内省的で聴かせるボーカル・パートに移行、感動的なメロディで本編を締めくくる#10。
余韻を残しながらオープニングに回帰するかのようなインスト#11。

ストーリー・テリングを重視したためか、前作のような即興的な器楽要素は後退したものの、インスト・パートの深淵なダークネスやメランコリックな要素といったスティーヴン・ウィルソンらしさに加え、ボーカル・ラインはより親しみやすいメロディが増量。各国のチャート・アクションも好調なことからも伺えるように、単なるプログレの範疇から脱却しPINK FLOYDと同様のステージに進出した感のある作品。

Track List

1. First Regret
2. 3 Years Older
3. Hand Cannot Erase
4. Perfect Life
5. Routine
6. Home Invasion
7. Regret #9
8. Transience
9. Ancestral
10. Happy Returns
11. Ascendant Here On…

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KARNATAKA / Secrets of Angels

2015,UK

アイリッシュ・ダンス方面の活動と平行し2012年に新加入したヘイリー・グリフィス(Vo)をフィーチュアしての初スタジオ作となるKARNATAKAの5thアルバムSecrets of Angels。

厳かなストリングスで幕を開け、シンフォニックな中にエキゾチックなアラビア音階のモチーフを加えたKARNATAKAらしい#1。
ピアノとストリングス・セクション、緊張感あるブリッジ・パートにゴシックの薫り漂う#2。
ゴシカルで荘厳なイントロや重層クワイヤとストリングスを配し、サビでは凛としながらも清涼感あるメロディで開放感を得る#3。
静かなオープニングから一転し、ヘヴィなバッキングが入るパートからゴシック色を増す#4。
端正なストリングのバッキングが彩りを加えるヴァースととキャッチーなサビを対比させた#5。
中音域で情感たっぷりに歌うパートでヘイリー・グリフィスが表現力を発揮するバラード#6。
ポジティブなムードが溢れる優美なシンフォニック・ナンバー#7。
トロイ・ドノックリーのイリアン・パイプをフィーチュアしたトラッド風ケルト・パートとストリングスも交えた壮大なシンフォニック・パートが行き来する20分超の#8。ハープとスキャットの神秘的なコラボ・パートや緩急を交えた展開でドラマティックに聴かせるエピック・チューン。

ここ数作は作品ごとにシンガーが交代するKARNATAKA。音楽性もその都度変化し、今回はリヴ・クリスティン(LEAVES’ EYES、ex.THEATRE OF TRAGEDY)を彷彿させるヘイリー・グリフィスのエンジェリック・ヴォイスにインスパイアされたのか、ゴシック・メタルの作法を大幅に導入。
元々シンフォニックなサウンドとの融和性が高いゴシック・テイストと存在感あるヘイリー・グリフィスの歌唱がKARNATAKAサウンドの幅を広げる効果をもたらしている。

Track List

1. Road To Cairo
2. Because Of You
3. Poison Ivy
4. Forbidden Dreams
5. Borderline
6. Fairytale Lies
7. Feels Like Home
8. Secrets Of Angels

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RENAISSANCE / Academy Of Music 1974

2015,UK

英国のプログレッシブ・ロック・バンドRENAISSANCEのライブ・アルバムAcademy Of Music 1974。
FM放送局主催で放送用に企画されたためか、珍しく24人編成のオーケストラを加えた演奏。

バンド全盛期にリリースされたLive at Carnegie Hall以降、90年代末からぽつぽつとリリースされるようになったRENAISSANCEのライブ・アルバム。経費の問題を考えると妥当だが、オーケストラ入りのライブはRENAISSANCEというバンドのイメージ程多くは無く、Live at Carnegie Hall(1975年録音)とAt the Royal Albert Hall(1977年録音)くらいしか無かったところにこの1974年録音のAcademy Of Music。オーケストラ入りということを含めても最初期のライブ盤となり、資料的価値も高い。特に#2、#4はこのAcademy Of Musicでしか聴けない貴重なライブ音源。ただ、オーケストラが24人編成という小規模な為か、管楽器が貧弱なのが惜しい所。しかし逆にマイケル・ダンフォード(G)の美しい12弦アコギがオケに埋もれることなく明瞭に聴こえるという副産物も。

3枚のアルバムからのレパートリーということで、バンドの演奏はこなれたもので、曲間MCでのアニー・ハズラム(Vo)の笑いっぷりにリラックスした感じも伺える。
そのアニーの歌声は後年のライブ音源で聴ける程の艶は無く、このライブの後リリースされるScheherazade and Other StoriesやNovellaといった名作の制作及びそれらアルバムを引っさげてのライブ・ツアーを経て磨かれていったものだろう。

Track List

DISC 1
1. Can You Understand
2. Black Flame
3. Carpet Of The Sun
4. Cold Is Being
5. Things I Don t Understand
6. Running Hard

DISC 2
1. Ashes Are Burning
2. Mother Russia
3. Prologue

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ANEKDOTEN / Until All The Ghosts Are Gone

2015,SWEDEN

スウェーデンのプログレッシブ・ロック・バンドANEKDOTENの6thアルバムUntil All The Ghosts Are Gone。

OPETHのペル・ヴィバリがオルガンでゲスト参加、ギターとのソロ・バトルを展開する#1。奇妙な音使いのリフがOPETH風でもある、適度な重さとワイルドさを兼ね備えた独特のグルーヴにモーダルな歌メロが乗るANEKDOTENらしい鈍色のヘヴィ・プログ。不穏なインスト・パートとメロウな歌唱パートの対比も良い感じ。勿論、ここぞの場面ではメロトロンも登場。
掠れたメロトロンが荒涼としたムードを醸し出す、ミディアム・スローの#2。
包み込むようなメロトロンがバッキングをリードするメロウな#3。ヴィブラフォンやゲストのテオ・トラヴィスによるフルートが哀愁を添える絶妙なアクセントとなっている。
静かな歌唱パートやアコギ・パートと、ヘヴィなボトムスにメロトロンの白玉が乗るシンフォ・パートの起伏が見事な#4。
ALL ABOUT EVEのマーティ・ウィルソン・パイパーがエレキと12弦アコギでゲスト参加の#5。テオ・トラヴィスの幽玄なフルートに導かれるメロウなナンバー。
うねるグルーヴに乗るメタリックな質感のギターがメロディをリードするインストゥルメンタル・ナンバー#6。ゲストのグスタフ・ニーグレンによるサックスが狂気を孕んだスリリングなプレイで聴かせる。

歌メロにモードを多用することによる調性がはっきりしない微妙な緊張感と、クールなメランコリーを併せ持つ独特の暗黒シンフォ・サウンドは健在。とりわけ今回はメランコリックな成分が増量され、ヘヴィネスとの落差でドラマティック度を増している。

Track List

1. Shooting Star
2. Get Out Alive
3. If It All Comes Down to You
4. Writing On the Wall
5. Until All The Ghosts Are Gone
6. Our Days Are Numbered

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LONELY ROBOT / Please Come Home

2015,UK

IT BITESFROSTに在席するジョン・ミッチェル(G/Vo)の新プロジェクトLONELY ROBOTの1stアルバムPlease Come Home。
FROSTでの同僚クレイグ・ブランデル(Dr)をはじめ、ゲストとしてFROSTのジェム・ゴドフリー(Key)、スティーヴン・ウィルソンのバンドなどで活躍するニック・ベッグス(B)、MARILLIONのスティーヴ・ホガース(Vo)、GO WESTのピーター・コックス(Vo)、元MOSTLY AUTUMNのヘザー・フィンレイ(Vo)、TOUCHSTONEのキム・セヴィア(Vo)らが参加。

スペイシーで壮大なインストゥルメンタル#1。
ギターのヘヴィな単音リフがリード。#1のムードを引き継いだスペイシーな静寂パートとヘヴィなサビのギャップで聴かせる#2。
ピーター・コックスが歌うIT BITES風ポップ・ナンバー#3。
スティーヴ・ホガースがピアノとバッキング・ボーカルを担当。ジョン・ミッチェルとヘザー・フィンレイのデュエットによる美しいバラード#4。
ジェム・ゴドフリーが参加。クリーンなアルペジオに象徴される歌唱パートや中間部のインスト・パート冒頭の清涼感とFROSTを彷彿させる怒涛のインスト・パートが同居した#5。
神秘的な広がりを見せる思索系チューン#6。
可憐な歌声を聴かせるキム・セヴィアをフィーチュア。スケールの大きなインスト・パートを内包した壮大なバラード#7。
サビでのちょっとした変拍子がフックとなった、IT BITESのGhostを彷彿させるキャッチーなアップテンポ・ナンバー#8。
緊張感あるヴァースと叙情的なサビを持つ#9。
スティーヴ・ホガースの奏でる静寂のピアノをバックに、寂寥感や哀愁など様々な表情を見せるジョン・ミッチェルの歌唱をフィーチュアしたバラード#10。渋いトーンとフレージングのギター・ソロはニック・カーショウ。
アンビエントを効かせた浮遊するピアノをバックに語りかけるように歌う静かな小品#11。

ジョン・ミッチェルのギター/歌唱の安定した実力はもとより、ゲスト達の個性を活かしながらも自身のプロジェクトとしての一貫したカラーを保つソングライティング/アレンジやプロデュース能力の高さを示した好盤。
元々はジョン・ベックがフィッシュのツアーに参加するため、IT BITESの活動に休止期間ができたのがプロジェクト開始のきっかけらしいが、IT BITESの次回作も期待できそうだ。

Track List

1. Airlock
2. God Vs. Man
3. The Boy In The Radio
4. Why Do We Stay?
5. Lonely Robot
6. A Godless Sea
7. Oubliette
8. Construct/Obstruct
9. Are We Copies?
10. Humans Being
11. The Red Balloon

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THE TANGENT / A Spark In The Aether

2015,UK

アンディ・ティリソン(Key/Vo)率いる英国のプログレッシブ・ロック・バンドTHE TANGENTの8thアルバム A Spark In The Aether。The Music That Died Alone Volume Twoをサブタイトルとし、1stアルバムの続編であることを宣言。

シンセのテーマ・リフと7拍子を軸に進行する明るく躍動感あるオープニング・チューン#1。
イントロのミニマルなモチーフにコード・カッティングを絡めるオルガンがカンタベリーなようでUK風でもある#2。シンセが入ると一気に快活なシンフォニック・プログレへ展開。ヨナス・レインゴールド(B)のメロディアスかつドライブ感あるプレイがリード。ジャズ・ロック然としたインスト・パートでは、ハーモニクスとアーミングも交えてトリッキーなソロを聴かせるルーク・マシン(G)のインテンスなプレイが強烈なアクセントとなっている。
テオ・トラヴィス(Sax/Fl)のフルートが軽やかな装いをもたらす、リラックスした歌ものジャズ・ロック#3。
#3のテーマをスパニッシュ風アコギで引継ぎ、妖しいフルートからムーディなサックスのインプロヴァイズに移行するダークなインストゥルメンタル#4。
グルーヴィなメイン・テーマを中心に緩急と陰陽で彩った6パートからなる21分超の組曲#5。
#1のパート2。静寂からサックスやギターのソロ・パートを経て、より躍動感を増したテーマ・メロディをリプライズする#6。

アンディ・ティリソン独特の味わいの歌唱や随所に見せるカンタベリー・ミュージック由来の洒脱に、往年のプログレを彷彿させるシンフォニック感をまぶしたTHE TANGENTサウンドはもはや保証書付き。
現代プログレッシブ・ロック・バンドの中でも比較的安定した活動で常に水準以上のアルバムを制作するTHE TANGENTだが、今回は2011年のアルバムCOMMの制作やツアー・バンドで参加していたテクニカルでフラッシーなフレーズを聴かせる技巧派ギタリスト ルーク・マシンが復帰。全ギター・パートのアレンジやミックスにまで関与する活躍ぶりで、楽章形式でロック・オーケストラを展開した前作Le Sacre Du Travailから一転してのシンプルなロック回帰にフォーカスした新作に貢献している。

Track List

1. A Spark in the Aether
2. Codpieces and Capes
 a. We've Got The Music!
 b. Geronimo - The Sharp End Of A Legacy
 c. Trucks & Rugs & Prog & Roll
 d. A Night At Newcastle City Hall, 1971
 e. We've Got The Music! (Reprise)
3. Clearing The Attic
4. Aftereugene
5. The Celluloid Road
 a. The American Watchworld
 b. Cops And Boxes
 c. On The Road Again
 d. The Inner Heart
 e. San Francisco
 f. The American Watchworld (Reprise)
6. A Spark In The Aether (Part Two)

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FREQUENCY DRIFT / Last

2016,GERMANY

作曲にも貢献する女性ハーピスト ネリッサ・シュワルツ(Harp/Mellotron)を擁するドイツのプログレ/ポストロック・バンドFREQUENCY DRIFTの6thアルバムLast。

メタル度こそ低いが古き良きゴシック・メタル風な大仰さとダークネスを施したイントロを持つ#1。ハープをバックにしたエンジェル・ヴォイスのボーカルが入ると一転して深遠な世界へ。
甘美な音色のハープ・ソロがアクセントとなり、さらにストリングスやフルートなどメロトロンが大量投入されたゴシック風#2。
中音域での歌唱が妖しいメロディにマッチした#3。枯れたツイン・ギターによるハーモニー・パートの静とサビにおける動の対比が見事。
ハープとボーカルによる清楚なフォーク風デュオ・パートからシンセやメロトロンがハープと美しく絡むインスト・パートに移行する#4。
サビでのアグレッションが鮮烈なコンテンポラリー・タッチのメランコリック・チューン#5。
穏やかな中にメランコリックを滲ませた変拍子絡みのボーカル・パートから、中間部ではヘヴィな轟音パートと枯れたギターやメロトロンによる寂寥感の対比を経て、ハープをバックにしたソプラノ歌唱パートで美の頂点を極める#6。
ダークな中にも濃淡を演出するメロトロンやハープ、ギター、ピアノ等インスト陣のアレンジが際立つ#7。希望的なメロディによるリフレインが唐突に終わるエンディングも意外性に満ちている。
美声を活かした歌唱と情念を立ち上らせたビターな歌唱を使い分け、美醜による場面転換を演出する#8。

「死」や「終り」を暗示するアルバム・タイトル通りの暗いサウンドと、そこに一筋の光を射す女性ボーカルとハープの神秘的な響きでFREQUENCY DRIFTの個性が確立。
前作で可憐な歌声を聴かせたIsa Fallenbacherに代わり、Melanie Mauが参加。前任者と同等レベルの美しいソプラノに加えダークな中音域もこなし、楽曲に彩りを付加している。

前作からコンテンポラリーなポストロック成分を減じた分、深遠な静謐さと神秘性が増量。適材適所で効果的なメロトロンや引っ掛かりを生むさりげない変拍子といったプログレ要素もバランス良く配合し、美しい女性ボーカルを軸としたダークでメランコリックなサウンドでは突出した存在となった。

Track List

1. Traces
2. Diary
3. Merry
4. Shade
5. Treasured
6. Last Photo
7. Hidden
8. Asleep

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STEVEN WILSON / 4 1/2

2016,UK

スティーヴン・ウィルソンの前2作、Hand. Cannot. Erase.(#1,#3,#4)及びThe Raven That Refused to Sing(#2)のセッションで書かれたアルバム未収録曲を仕上げたものを中心としたミニ・アルバム 4 1/2。
記号のようなタイトルは、4thアルバムと次作5thの間を意味するらしい。
全曲参加のバンド・メンバー ニック・ベッグス(B)とアダム・ホルツマン(Key)に加え、曲によって様々なメンツがプレイしている。

乾いたギターのカッティングやタイトルが前作を彷彿させる#1。キャッチーな歌唱パートとスリリングなインスト・パートを併せ持つ最近のスティーヴン・ウィルソンの定番フォーマット。テクニカルで変態的なギター・ソロはデイヴ・キルミンスター(G)。現代的センスのフレージングがレトロなミニ・モーグのソロと面白い対比を成している。ドラムはマルコ・ミンネマンと思いきやFROSTにも参加しているクレイグ・ブランデル(Dr)。ギター・ソロ中のギターとのユニゾンで叩き出すトリッキーな変拍子風ビートはFROSTのスタジオ・ライブ作The Rockfield Filesにも通ずるものがあり、腑に落ちた。
アコギのアルペジオと深遠なストリングスにThe Raven That Refused to Singの幽玄なムードが漂う#2。
快活なサビがHand. Cannot. Erase.のムードそのままの歌モノ#3。
テオ・トラヴィス(Sax/Fl)の物憂げなフルートをフィーチュアした、ダークな中にも温かみのあるインストゥルメンタル・ナンバー#4。
独特のヒネリとフックのあるメイン・リフを様々に変容させながらグイグイ聴き手を引き込んでしまうインストゥルメンタル・ナンバー#5。
Hand. Cannot. Erase.にも参加のイスラエル人女性シンガー ニネット・タイブ(Vo)が切ない歌唱を聴かせる、POCUPINE TREEのアルバムStupid Dream収録曲の新バージョン#6。

アルバムの収録に漏れたのが不思議なほど各楽曲は高品質。これだけクオリティの高い楽曲を新作アルバムに取っておくような事はせず、あえてミニ・アルバムとしてリリースした理由は2つあると思う。
一つ目は楽曲がアルバムのカラーに染まり過ぎている事。
二つ目はストックに頼らずとも、新作のコンセプトに沿ってゼロから創作できるという自信だ。
スティーヴン・ウィルソン。まだまだ楽しませてくれそうです。

Track List

1. My Book of Regrets
2. Year of the Plague
3. Happiness III
4. Sunday Rain Sets In
5. Vermillioncore
6. Don't Hate Me

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FROST / Falling Satellites

2016,UK

英国の新感覚プログレッシブ・ロック・バンドFROSTの3rdアルバムFalling Satellites。
しばらく音沙汰が無かったが、ジェム・ゴドフリー(Key/Vo)はそのセンスと演奏力を買われてジョー・サトリアーニの2012年G3ツアーに参加したり、FROSTとしてスタジオ・ライブをリリースしたり、ジョン・ミッチェル(G/Vo)は個人のプロジェクトLONELY ROBOTでアルバムをリリースしたり、と忙しくしていた模様。

アルバムのイントロ的な小品#1。
無機的なシンセのシーケンス・リフとエモーショナルなサビが融合。これぞFROSTと思わず膝を打つ、心地よい疾走感を持った3拍子のスタイリッシュなナンバー#2。
DAWでの編集では無くシンセに搭載されたフレーズ編集機能を使用したと思われる#3。ハイテク機械の動作音や衝撃音などのSEやサンプリングした演奏の断片をデジタルで再構成し、ロックな躍動感を演出する手法が斬新。
キャッチーなメロディに耳が行きがちだが実は5拍子や7拍子など複雑に拍子が入れ替わる#4。
ゲストの女性ボーカルと煌びやかなシンセがムーディで幻想的な世界を醸し出すメロウな#5。
スタジオ・ライブ作The Rockfield Filesでいち早くお披露目されていた#6-a Heartstrings以降は組曲となっており、#6で提示された様々なモチーフが組曲を構成する各曲に登場する。
#6-a自体はThe Rockfield Filesでのライブ・バージョンのカッコ良さとキャッチーさはそのままに、サビでのシンセ・オーケストレーションが厚くなり、よりシンフォニックさを増した印象。スリリングなポリリズムがリスナーを幻惑する中間部インスト・パートも、ネイサン・キング(B)とクレイグ・ブランデル(Dr)のリズム隊がバンドに馴染み、ヘヴィさを増している。
終盤にロックなインスト・パートを持つ、ハワード・ジョーンズ風シンセ・ポップ・ナンバー#6-b。
クレイグ・ブランデルの手数王ドラミングが緩急と静動を巧みにリードする21世紀型プログレ・チューン#6-c。
#6-aのリフを軸にシンセのオーケストレーションを施した#6-d。前半のヘヴィでダークなムードから、テーマ・メロディを経て終盤は希望的パートや疾走歌唱パートに発展。
#6-aのテーマ・メロディを長い白玉にし、ブ厚く重ねたシンセで織り込んだシンフォニックなサウンドスケープ#6-e。
組曲のラストであるとともに、#1と対比させたタイトルでアルバムを締めくくるピアノ・バラード#6-f。

FROSTといえば、単なる装飾やソロに止まらずリフとして楽曲をリードするなどグイグイ来る芸風のジェム・ゴドフリーによるズ太いデジタル・シンセが最大の特徴だが、今回もこれは継続。また、機材マニアのジェム・ゴドフリーならではの味付けも施されており、現代的なプログレの旗手としての存在感は絶大。IT BITESのジョン・ベックも最新機材の使い手だったが、ジェム・ゴドフリーもその系譜を継承しつつダンス系のビートも取り入れて現在進行形のプログレッシブなロックを創造している。

Track List

1. First Day
2. Numbers
3. Towerblock
4. Signs
5. Lights Out
6.
a. Heartstrings
b. Closer To The Sun
c. The Raging Against The Dying Of The Light Blues
d. Nice Day For It.
e. Hypoventilate
f. Last Day

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BIG BIG TRAIN / Folklore

2016,UK

近世イギリスの市井の人々をテーマにした楽曲を綴った2作のEnglish Electricアルバムを経て、BIG BIG TRAINが9thアルバムに冠したタイトルはFolklore。

ストリングスと管による端正なイントロに続くエキゾチックなテーマが楽曲のカラーを象徴するタイトル・トラック#1。フォークロア風メロディを従来のBIG BIG TRAINらしい抒情メロディに融合。重厚なオルガンやプログレ然としたアナログ・シンセ・ソロなど器楽要素も盛りだくさんで、ニュー・アルバムの素晴らしいプレゼンとなっている。
アコギのアルペジオとフルートに導かれるメロウな歌唱パート、一転してテンポアップしてのカンタベリー風ジャズ・ロック的硬質なインスト・パートを持つ抒情プログレ・チューン#2。
優しく包み込むブラス・セクションと美しいコーラスに耳がいきがちだが、実は凝った変拍子を軸に進行するジェントルなナンバー#3。
優雅なストリングス・セクションをフィーチュアした小品#4。
柔らかいブラスと澄んだストリングスが絡み合う透明感溢れるイントロから、妖艶なアルペジオからのムーディな歌唱パートへ展開する#5。
フィドルと呼んだ方が相応しいヴァイオリンのメロディ、トラッドな質感のボーカル・メロディ、そして堂々たるサビに至るフォークロア・シンフォ#6。
中間部のインスト・パートやボーカル・パートでGENESISのヴァイブを感じさせる、起伏に満ちたアルバム随一のロック・ナンバー#7。
5拍子に乗って進行するスリリングなインスト・パートを内包した12分超のプログレ・チューン#8。
リラックスしたムードの歌モノ#9。

最も英国らしい抒情サウンドを持つBIG BIG TRAINがトラッドをも取り込み、もはや孤高の域に達した感も。
寓話や童話を題材に当時の英国事情を楽曲に投影していたGENESISの姿を彷彿させるものがある。

Track List

1. Folklore
2. London Plane
3. Along the Ridgeway
4. Salisbury Giant
5. The Transit of Venus Across the Sun
6. Wassail
7. Winkie
8. Brooklands
9. Telling the Bees

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KARMAKANIC / Dot

2016,SWEDEN

スウェーデンのプログレッシブ・ロックバンドKARMAKANICの5thアルバム Dot。
宇宙において地球は単なる点=ドットでしかない、というのがアルバム・タイトルの意味らしい。

イントロ#1に続き、様々な起伏と展開を盛り込んだ23分超えの大作#2。メロウな歌唱パートを軸に、陰陽硬軟の転換にヨナス・レインゴールド(B)の子供達と思しきイノセントなコーラスやラレ・ラーション(Key)のハイセンスかつテクニカルなソロなども織り交ぜ、各場面をじっくり丁寧に聴かせる半面、長尺曲にありがちな荘厳さや大仰さは皆無でややカタルシスには欠けるのは大団円をPart.2の#6に譲ったからか。
ニルス・エリクソン(Key/Vo)の素朴な歌唱がポップな曲調にマッチした#3。端正なシンセ・ストリングスがキャッチーなフックとなっている北欧の木漏れ日のように爽やかでキャッチーな歌唱パートに対し、インスト・パートはダークな側面も見せながら次々に展開し手練れのソリスト達が円熟のプレイを聴かせる。
親しみやすいメロディでコンパクトに仕上がった、透明感あるコーラスが印象的なポップ・チューン#4。
スケールの大きなバラード#5。
Part.1を引き継ぎドラマティックな決着を付けつつ、アルバム全体に対しても心地よい余韻を残す#6。

アルバム通して明るくソフトなムードの中、産業ロック風な小品と2パートに分けた合計30分近い大作が違和感無く同居。メロディアスでポップな持ち味にベテランらしい渋味を加えたKARMAKANICならではのさじ加減が見事。隙の無い精緻なアレンジで抜群のチーム・ワークを見せる一方で、ヨラン・エドマン(Vo)の伸びやかな歌唱やヨナス・レインゴールドの歌心溢れるフレットレス・ベース、ラレ・ラーションのテクニカルな指捌きなど個人技もトップ・クラス。#2,#6では病気から復帰したアンディ・ティリソン(Key)をハモンドの客演で迎えるなど、プログレ界隈のフレンドシップ構築にも余念が無い。バンドとして着実に成長を見せる高品質作品。
アルバム・カヴァー・アートはヒュー・サイム。

Track List

1. Dot
2. God The Universe And Everything Else No One Really Cares About Part. 1
3. Higher Ground
4. Steer By The Stars
5. Travelling Minds
6. God The Universe And Everything Else No One Really Cares About Part. 2

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OPETH / Sorceress

2016,SWEDEN

OPETHの12thアルバムSorceress。

アコギにメロトロンやハープが絡む、ギリシャ神話に登場するゼウスの娘ペルセフォネをタイトルに戴く抒情インストゥルメンタル#1。
跳ねるリズムでオルガンが躍動する70年代風ヘヴィ・ロック#2。屈折したメロディのリフと終盤の静寂パートからの展開にOPETHの真骨頂を見せるも全体的には凡庸。
フレドリック・オーケソン(G)の弾きまくりソロをフィーチュアしたヘヴィなナンバー#3。中間部からはクリーンなパートで神秘性を演出。
ミカエル・オーカーフェルト(G/Vo)の表現力豊かな歌唱が際立つ、アコギの空気感が美しい絶品のフォーク・チューン#4。
インスト・パートにギターとオルガンのバトルを挿入した、スペイシーなシンセがアクセントとなった古典的ハード・ロック#5。中盤以降はメロウなパートに移行してガラっとムードを変化させるお得意の手法。
抒情的なアコギのアルペジオに対するモーダルな歌メロにセンスを感じさせるフォーク#6。
呪術的なパーカッションと中近東的エキゾチックなヒネリを交えたメロディがLED ZEPPELINのFriendsを彷彿させる暗黒フォークの前半から静謐フォークに劇的転換する#7。
従来のOPETHが持つエッセンスを70年代ロックの手法で再構築した、ムーディなメロウネスと屈折ヘヴィネスが融合した#8。
どこか郷愁を誘うアコギのメロディが印象的なイントロから薄明り射すサビに至る構成が見事なメロディアス・ナンバー#9。
アンビエントなピアノが#9を継承し寂寥感を漂わせるイントロから一転、アップテンポのハード・ロックに移行する#10。
再びアンビエントなピアノと女性のモノローグで締める#11。

バンドの70年代テイスト化を推し進めるミカエル・オーカーフェルトの試みは今作も継続。
特にアコースティック系楽曲において顕著で、良い意味で70年代のカビ臭い本格的なムードを感じる。
一方で、ハードな楽曲では以前は存在したエッジがますます減退。
OPETHならではの奇妙ではあるが冷たく深遠な暗黒ムードはもはや消滅。展開しまくりの奔放で豪快な楽曲構成が魅力の一つでもあったが、今作の各楽曲は尺がコンパクトになったのもあるが、方法論の70年代化とともに全体的に意外性に欠ける予定調和的な展開が目立つ。
結果的にメロウな部分での本格化と引き換えに、デス・ヴォイスをはじめ奇想天外なメロディや豪放な楽曲展開などOPETHの軸ともいえる特長が薄くなってしまった。
それでも本作が駄作かというとそうでも無く、#1、#4、#6、#7、#9など佳曲も多く、趣味を実益に反映させたミカエル・オーカーフェルトの手腕で統一感のある作品に仕上がってはいる。

音楽的な深化・進化は認める。認めるがしかし、幽玄かつ暗黒なメタル度の後退は少々寂しいものがある。。

Track List

1. Persephone
2. Sorceress
3. The Wilde Flowers
4. Will O the Wisp
5. Chrysalis
6. Sorceress 2
7. The Seventh Sojourn
8. Strange Brew
9. A Fleeting Glance
10. Era
11. Persephone (Slight Return)

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