プログレ のレビュー

MOON SAFARI / The Gettysburg Address

2012,SWEDEN

スウェーデンのポップなプログレッシブ・ロックバンド MOON SAFARIのライブ盤 The Gettysburg Address。
2011年5月20日Rosfestでの模様を収録したCD2枚組。
ブレイクした3rdアルバムを中心に1st,2ndからも選曲され、現時点でのベスト・アルバム的なラインナップ。

MOON SAFARIについてはオフィシャルサイトも(2012年2月現在は)適当な感じでなかなか情報が入ってこないため、スタジオ・プロジェクトのような印象を持っていましたが、そこそこライブ活動も行っているようで、収録されている演奏もコーラス・ワークから伸びやかなボーカル、複雑なアンサンブルも完璧!
特にスタジオ盤ではシンセとユニゾンでメインのメロディを奏でる場面の多いギターが、ミックスの関係で良く聴こえ、想像以上に随所でキーボード的なパッセージを弾いている事が判明。サーカスのようなテクニックを使う訳では無いですが、相当大変ですよこれは。

また、改めて感じたのが、MOON SAFARIが使用している楽器音の種類が意外な程少ないと言うこと。
素晴らしいメロディとアレンジに耳を奪われてカラフルな印象を持ってましたが、エレキ、アコギ、ピアノ、アナログ風単音シンセ、メロトロン、オルガン、ベース、ドラム、とシンプルなものばかり。まぁ勿論、メロトロンやシンセ系はライブではMIDIのサンプル音源使用でしょうが。
これでここまでバラエティに富んだ楽曲を構築できるとは驚きです。

まさにライブを見据えたかのような楽器構成なので本作でも再現性はバッチリ。個人的に21世紀のNo.1キャッチー&プログレ・チューンと感じている#7で聴かせる一糸乱れぬ完璧なアンサンブルには惚れ惚れしますね。且つ、キャッチーにまとめるセンス・・・・。
素晴らしすぎます。

今後も今まで同様の楽器構成で行くのか、それとも新機軸を打ち出してくるのか?
4thアルバムが待ち遠しいです。

Track List

DISC.1
1. Moonwalk
2. Lovers End Pt.1
3. A Kid Called Panic
4.Yasgurs Farm
5. The Worlds Best Dreamers
6. Dance Across The Ocean

DISC.2
7. Heartland
8. New York City Summergirl
9. Other Half Of The Sky
10. Doorway

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MOON SAFARI / Lover’s End Pt.III Skellefteå Serenade

2012,SWEDEN

スウェーデンのプログレッシブ・ロック・バンドMOON SAFARIのEP Lover’s End Pt.III Skellefteå Serenade。
アルバムLOVER’S END収録のパート1、パート2の続編にして完結編。

パート1、パート2の爽やかで甘酸っぱいムードはそのままに、珍しく少々ダークなパートや思いっきりエモーショナルなギターを付加。
お馴染みのテーマ・メロディの変奏でニヤリとさせ、壮大なスケール感、より巧みになった場面転換で駆け抜ける24分。
四季の移ろいを想起させる起伏に満ちた瑞々しい表現力は益々磨きがかかり、一人ひとりのキャラが個性的な多層コーラスも絶好調。
7分中盤のダークなムードからメジャーに移行する開放感。雫のようなピアノからの爽やかで疾走感あるボーカル・パート。
11分中盤からはお待ちかねアナログ・シンセのリフがリードするプログレ・パート。畳み掛ける展開の中、構築度の高い天駆けるギター・ソロ、そしてシンセのリフにギターがユニゾンで加わる部分のスリル。
19分中盤からはいよいよ名残惜しさを増幅する壮大なラス前の大盛り上がり。
ディレイが掛かったギター・ソロが泣きまくり。特に21分06秒からのスライドでポジションをハイに移動する部分が絶品。まるで涙を拭うかのようなタメが、胸を締め付けるセンチメンタルなメロディと相まって最高の感動をもたらします。

もはや完璧。
もしiPhoneに3曲しか入れてはいけないという法律ができたとしても確実に入れます。名曲。

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ASIA / XXX

2012,UK

再結成オリジナルASIAの3作目、XXX。

シンセがテーマメロディを提示する展開が80年代 -というかBUGGLES- を彷彿させる21世紀の今となってはダサさギリギリの躍動感溢れるオープニング・チューン#1。ジェフリー・ダウンズ(Key)によるハイブリット・シンセ風なキラキラ・トーンも懐かしさを通り越してむしろ新鮮。スティーヴ・ハウ(G)による2コーラス目のオブリガードやギター・ソロも個性的かつメロディアスで素晴らしいです。
ゆったりと落ち着いたリズムの#2。透明感あるボーカル・メロディ、シンフォニックかつクラシカルなシンセのパートが初期ASIAを想起させます。
ジョン・ウェットン(B/Vo)の男っぽいボーカルがシブい、シンプルなリフをベースにしたロックン・ロール#3。
これもどこかBUGGLESっぽい#4。サビはsus4を使い捲くりの得意なパターン。
イントロのひしゃげたようなエレピのトーンが印象的な#5。古今東西使い回された定番パターンのリフレインから楽曲を仕上げてしまうあたりはヴェテランの貫禄。
シンセ・ストリングスを纏った瑞々しいピアノで幕を開けるタイトな8ビートの#6。間奏はスティーヴ・ハウのアレンジされたソロ。分厚いシンセのアレンジが耳を惹きます。
シンプルなリズムに乗ったメランコリックなヴァースからキャッチーなサビに展開する#7。2コーラス目に登場するサイケなトーンのオルガンがいい味を出しています。
こちらもシンプルな80年代風ポップの#8。サビとコーラスが超キャッチー。
ピアノとボーカルのデュオで進行する感動のバラード#9。抑えたトーンのソロ、スライドのソロといったギター、シンセのオーケストレーションでスケール感たっぷりにアルバムを締めくくります。

ASIAもデビュー30周年。2008年再結成以降の順調な活動振りや、今作も手がけたロジャー・ディーンの変わらぬフレッシュでファンタジックなカヴァーの印象もあってか、30年の重みというよりも未だ現役感バリバリで溌剌としたイメージのASIA。

音の方も瑞々しさを湛えた躍動感あるASIAサウンドが健在。とにかくどの曲もサビが親しみやすく、すぐに馴染めてしまう。そこにはもはや意外性など無いのは勿論だが、普通に良質なメロディを産み出し続けているところが素晴らしいのだ。

懐メロ集金ツアーだけで創作能力を失ったレジェンド・バンド達に、見倣って欲しい。

Track List

1. Tomorrow The World
2. Bury Me In Willow 3. No Religion
4. Faithful
5. I Know How You Feel
6. Face On The Bridge
7. Al Gatto Nero
8. Judas
9. Ghost Of A Chance

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GAZPACHO / March of Ghosts

2012,NORWAY

ノルウェーのアート・ロック・バンドGAZPACHOの7thアルバムMarch of Ghosts。

航海史上最大の謎とされる漂流船メアリー・セレスト号の船員をはじめ、第一次世界大戦の退役軍人など様々なキャラクターの幽霊のストーリーを描いた各楽曲を束ねたコンセプト・アルバム。

幻想的なパッド系シンセにチェロを交えジワジワとファンタジックな空気を満たしていく序曲的な#1。
アルバム中に何度か顔を出すアルペジオのリフレインがトリップ感を醸し出す#2。
GENESISを彷彿させる冒頭の12弦アコギによるアルペジオ、イーリアンパイプを使用したケルト風のパートが印象的な#3。
欧風メランコリーを感じさせるヴァースから、情念が静かに燃える感動のサビに展開する#4。絶妙なオブリガードを挿入する悲哀に満ちたヴァイオリンが効いている。
#4を引き継いだトラッド風アコギ・パート、ゴシック・メタル風のサビ、ホルンをバックにした民謡風パートなど、各種要素を自然に溶け込ませた#5。
ストリングスとボーカル・パートが切なくも暖かい#6。
仄暗いムードで淡々と紡がれた#7。終盤は一転して、うっすらと狂気と邪気を織り交ぜた民謡風パートでアッパーに展開。
儚げなコーラス、ピアノ、ヴァイオリンが葬送曲のようなメランコリーを織り成す#8。
静かな前半から若干は激しさを帯びた後半に移行する#9。南洋風あるいは中近東風ともとれる無国籍な琴の響きにハッとさせられます。
オーラスの#11に向けての序章のような#10。
ヘヴィなバッキングで#2のボーカル・メロディをリプライズする#11。ドラマティックな盛り上がりを見せつつ、ラストはアルバム冒頭の幻想的なシンセで余韻を残したエンディングを演出。

パートI~IVのHell Freezes Overを要所に配置。さらに、時に前後の楽曲がシームレスに繋がってアルバム全体通して決して熱くならず儚げでかつ幽玄なムードで統一。そんな中、#3,#7,#9など、エキゾチックな要素が印象的なフックとなっている。
また、#1のアルペジオをさりげなくリフレインさせた#4,#11。同じボーカル・メロディを幽玄なバッキングの#2、ヘヴィなバッキングの#11で対比させたりと、定番な手法ながらなかなか巧み。

Track List

1. Monument
2. Hell Freezes Over I
3. Hell Freezes Over II
4. Black Lily
5. Gold Star
6. Hell Freezes Over III
7. Mary Celeste
8. What Did I Do?
9. Golem
10. The Dumb
11. Hell Freezes Over IV

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BAROCK PROJECT / Coffee In Neukolln

2012,ITALY

イタリアのプログレッシブ・ロック・バンドBAROCK PROJECTの3rdアルバムCoffee In Neukolln。

地中海風でもありフォークロア風でもあるエキゾチックなメロディをテーマにした#1。軽やかさと重厚さの間をダイナミックに行き来する。
沈痛なバラードと思いきやそれで終わるはずも無く、クラシカルなストリングス、ボーカルがシャウトするプログレ・メタル風パート、柔らかなアナログ・シンセがテーマを奏でるパートと様々な要素を織り交ぜながら、フレージングが抜群のセンスのピアノが全てを融合させ楽曲の統一感を持たせた#2。
チャーチ・オルガンとクワイヤによる#4の荘厳なイントロとなる#3。
一転して静かで端正なオーケストラにオペラのようなボーカルが絡む前半とバンドが入りヘヴィネスも加わる後半から成る#4。BAROCK PROJECTを象徴するキャッチーかつクラシカルなテーマ・メロディが素晴らしい。
前曲のクラシカルなタッチから打って変わって無機的でコンテンポラリーなメロディのイントロで幕を開ける#5。清楚なタッチとアグレッシブな吹き散らしスタイルを使い分けるフルートをフィーチュア。
ハッとする転調も織り交ぜながら7拍子パターンに乗せて軽快に進行するキャッチーなプログレ・チューン#6。
RUSHSTYXなど北米プログレッシブ・ハードのテイスト漂うキャッチーで爽やかなパート1と、思索系パートからジャジーな展開を経てアルバム随一の叙情リフレインを満を持して繰り出すパート2から成る#7と#8の組曲。
繊細な序盤からクラシカルでスケールの大きな後半へ劇的に転換、おおらかなメロディに芸術の国の出自を感じさせるエンディング・チューン#9。

単なる意匠の流用では無い本気のクラシカル度にアカデミックな薫りを漂わせつつ、ロックのフィールドにシームレスに落とし込む手腕は驚異的。
クラシックの優美・壮麗とロックの激しさ・スリルの融合という、ポップ・ミュージック史上幾多のアーティストが挑んできたアイディアに新鮮な感性と抜群のテクニックでチャレンジし、音楽的完成度の高さで先人達の成し遂げた偉業と同等の高みへと軽やかに到達。BAROQUE+ROCKの造語BAROCKをバンド名に冠するBAROCK PROJECTの名に恥じない傑作。

Track List

1. Back to You
2. Coffee in Neukolln
3. Kyrie
4. Fool's Epilogue
5. Streets of Berlin
6. Starfull Jack
7. Inside My Dreamer's Eyes 1
8. Inside My Dreamer's Eyes 2
9. The Lives of Others

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KOMPENDIUM / Beneath The Waves

2012,UK

英国のフィーメル・シンフォ・プログレ MAGENTAのロブ・リードが企画・プロデュースした、プログレ・シンフォ・プロジェクトKOMPENDIUMのアルバムBeneath The Waves。

ウェールズのケルト/プログレ・シンフォ界隈でお馴染みのイリアン・パイプ奏者トロイ・ドノックリーを始め大御所ス
ティーヴ・ハケットやプログレ人脈の交流が幅広いジャッコ・ジャクスジクから、最近はすっかりプログレの人になり
曲芸スティック・パフォーマンスでも有名な元KAJAGOOGOOのニック・ベッグス、IT BITESの新旧フロントマンであるジョン・ミッチェルとフランシス・ダナリー、PORCUPINE TREEのギャヴィン・ハリソンといった凄腕達が参加。さらに元HATFIELD AND THE NORTHのデイヴ・スチュワートがアレンジを担当したロンドン・セッション・オーケストラが、要所要所で感動を増幅させる素晴らしい管弦を付加。
彼らの紡ぎ出す極上の音楽の語り部は、表現力抜群の男女シンガー、スティーヴ・バルサモとアングハラッド・ブリン。
深みと伸びやかな高音のバルサモ、天使の如き美声を聴かせるブリンとこれだけでもおそろしく高品質なのに、数々の映画音楽や宇多田ヒカルの楽曲にも参加しているコーラス・グループSYNERGY VOCALSの個性的でキャッチーなコーラスがもたらすフックや、重厚で厳かな英国室内合唱団、オペラ歌手が脇を固めてドラマティック度を増強。

この手のオールスターキャスト物でありがちな各ミュージシャンの色が出すぎてバラバラな印象に陥ることなく、
ケルトのエキゾチックや叙情、スリルといった起伏を織り交ぜつつも、一貫したムードで感動の物語を描ききったロブ・リードのマネージメント手腕がもう奇跡的。
勿論、巧みでグルーヴィなニック・ベッグスのスティック、蕩けるようなアングハラッド・ブリンの歌声、ハープをイ
メージした、というやる気満々のスティーヴ・ハケットのクラシック・ギター、等々、各プレイヤーの充実のプレイも聴き所満載。

MAGENTAの最高傑作Sevenをより壮大、ドラマティックにバージョン・アップしたかのような本作は、シンフォ・ファン
にとってのまさに福音とも言える完成度です。

Track List

1. Exordium
2. Lost
3. Lilly
4. Mercy of the Sea
5. The Storm
6. Beneath the Waves
7. Sole Survivor
8. Alone
9. Il Tempo E Giunto
10. A Moment of Clarity
11. One Small Step
12. Reunion

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BIG BIG TRAIN / English Electric (Part One)

2012,UK

英国のプログレッシブ・ロック・バンドBIG BIG TRAINの7thアルバムEnglish Electric (Part One)。

緊張感あるギターのアルペジオ・リフから、小刻みなリズムをフックとするブリッジを経て開放的なサビに移行する#1。モチーフのメロディをベースにした終盤のシンセ・ソロがプログレの王道を行きつつ、フルートの陰影や重厚なストリングス・セクションが随所で効いた素晴らしいシンフォニックなオープニング・ナンバー。
リコーダーやバンジョーなどがもたらすほのぼのとした雰囲気に、かすかなペーソスを織り込んだ田園フォーク風ナンバーの#2。ボーカル・パート冒頭の歌い回しをはじめ、全体的にGENESISの小品っぽい上品な英国風味に仕上がってます。
ロマンティックなフルートにジャジーでクールなヴァース、一転してサビはストリングス・セクションをバックに叙情で覆い尽くす#3。清楚でリリカルなフルートからギター・ソロへ徐々に盛り上がるインスト・パートもドラマティック。
3+3+3+2、3+3+3+4に続き3+2、そしてサビは3拍子に移行。テンポは変わらずも、拍子の変化で緩急を付けた頭脳的なナンバー#4。ロジカルな構造に反して、親しみやすいボーカル・メロディ、中間部の叙情フルート、後半のドラマティックな盛り上がりなど、エモーショナルな聴感を残すあたり、ソングライティングはもはや名人芸。
ピアノにヴァイオリンが絡む清楚なヴァース、メロトロンをバックにした希望的なサビ、ニック・ディヴァージリオ(Dr)のドラミングが牽引する熱いパート、トランペットをはじめ金管がまろやかな印象を残す終盤など、起伏に富みつつも落ち着いたトーンで静かな感動を呼ぶ#5。
アコギのアルペジオ、バンジョーに滑らかなフィドル、アコーディオンなどによる淡い色調のフォーク・ナンバー#6。
#2の主人公(元炭鉱夫のジャックおじさん)が再登場し若い頃の経験を語る#7。テンポアップしたインスト・パートでのスタイリッシュなヴァイオリン・ソロがカッコ良い。
弾むようなパートと、メロトロンが軋むスリリングなインスト・パートに続く叙情ヴァイオリンによる明暗のコントラストが最高な#8。

近代の実話や身近な人物の逸話などをテーマに、ジェントルな重層コーラスや豊富な管弦ゲスト陣を活用してのドラマティックでシンフォニックなアレンジを施した英国テイスト満載の逸品。
暗くて湿っぽい工業地帯やのどかな田園風景など、英国の様々な情景が広がってきます。

Track List

1. The First Rebreather
2. Uncle Jack
3. Winchester From St Giles' Hill
4. Judas Unrepentant
5. Summoned By Bells
6. Upton Heath
7. A Boy In Darkness
8. Hedgerow

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STORM CORROSION / Storm Corrosion

2012,UK/SWEDEN

PORCUPINE TREEのスティーヴン・ウィルソンとOPETHのミカエル・オーカーフェルトによるプロジェクトSTORM CORROSIONの1stアルバム Storm Corrosion。

OPETHの2001年作 Blackwater Parkをスティーヴンがプロデュースしたことから始まり、互いの作品に客演するなど交流を深めてきた彼ら。ファン待望のコラボ。
事前に、それぞれの最新作(スティーヴンのソロ Grace For Drowning、OPETHのHeritage)に続く三部作との発言もあったことから、レトロなプログレッシブ・ロックを思いっきり追求してくれるのではと期待していましたが、届いた音は意外にシンプル。
勿論、スタジオワークに定評のあるスティーヴンのインプットと思われる精緻な音作りがもたらすプラスアルファはあるものの、音楽性としては2人の歌唱とアコギ(一部クリーンなエレキ)を中心としてストリングスや管を加えたダークでメランコリックなプログレッシブ・フォークで統一されています。

ミカエルが歌うダークな#1。中間部のギター・リフ、ピッキングの細かいニュアンスが枯れた味わいを醸すギター・ソロ、奇妙な音使いのアルペジオなど、ミカエルのカラーが前面に出ています。
アコギのアルペジオをバックにスティーヴンが歌うメロウなフォークの#2。こちらはGrace For Drowningの流れを汲む端正で静かなスティーヴン然としたナンバー。終盤のアルペジオはミカエルっぽい音使い。
冷たいメロトロンのストリングスが印象的な#3。静かな中、中間部では若干ヘヴィなパートの起伏も。
アコギのアルペジオとスキャットが、70年代ブリッティッシュ暗黒フォークのような深遠なムードを醸成する#4。
アコギによる6/8拍子のリフにストリングスやエレピなどが重なり展開していくインストゥルメンタル・ナンバー#5。ストリングスのアレンジはデイヴ・スチュワート(元HATFIELD AND THE NORTH)。
OPETHでは見せたことの無いミカエルのウィスパー気味歌唱が新鮮な#6。清廉で神秘的なムードを醸し出す、霧のようなパッド系シンセの白玉が延々続くパートがやや冗長な感じも。後半はスティーヴンのアンビエントな歌唱が寂寥感を掻き立てます。

全体的に、スティーヴンの世界観にミカエルが乗っかり、得意の変態アルペジオなどで捻りを加えた感じ。
また、本家の活動との線引きを意識してか、あからさまなヘヴィネスやめくるめく展開といった要素が抑えられており、起伏に欠けやや一本調子な印象も。
個人的にはそういう部分での2人のケミストリー=相乗効果を勝手に期待していただけにちょっと肩透かしか。

アルバム・カヴァーのアートは2010年に死去したスイス人アーティスト ハンス・アーノルドによるもの。サイケでビザールな独特の世界観に引き込まれます。

Track List

1. The Watch
2. Thunder Has Spoken
3. One Day
4. In The Wilderness
5. Soaring On
6. Let Us Now Make Love
7. Scene Of The Crime
8. End Of The Road
9. Exit

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TAIKA / Pulsate

2012,JAPAN

日本の女性ボーカル・プログレッシブ・ロックバンドTAIKAの1stフルアルバムPulsate。
妙(Vo/Accordion)が全曲の作詞・作曲を手掛けています。

メロディ、リズム、ハーモニーという音楽の3要素の観点からTAIKAの楽曲を表現すると、モーダルで暗く硬質な歌メロ、3拍子をベースにした変拍子の多用、独特のグルーヴを生み出すリズム隊が支えエレガントなピアノとどこか郷愁をさそうアコーディオンが舞うアンサンブル、ということにでもなろうか。

フルアルバムとしては1枚目ながら、既にTAIKA(というか妙)としての個性が確立されており、どの曲にももTAIKAならではのスタイリッシュな演奏と繊細で素朴な歌唱から受けるモノトーンな印象が。

一方で、ある意味パターン化されたスタイルはスケール感や意外性に乏しく、ちょっと油断すると今どの曲を聴いているのか分からなくなることも。

これがTAIKAの世界観なのかもしれないし、高い音楽性を感じさせる人達なので確信的なのかもしれない。
が、個人的な意見としては、時にベタな大甘叙情メロディや他の楽器(ビブラフォンとかなら世界観にも合うと思う)の導入で、少し差し色を加えて目先を変えてみるのもありだと思います。その事で現在の個性もより深みを増すのでは。

Track List

1. Beyond The Promise
2. To The Farthest
3. Mirage
4. Deep Sea
5. In A Different World
6. Spiral Forest
7. Moon And Solitude
8. Awake
9. Meteor

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PAATOS / V

2012,SWEDEN

スウェーデンのプログレッシブ・ロック・バンドPAATOSの5thアルバムV。
前作Breathingより約1年半のインターバルは異例の早さ。Mikael Nilzén(Key)が加わり5人編成が復活。

Ricard Huxflux Nettermalm(Dr)のドラミングがカッコ良い、へヴィロックな質感を持つ#1。
邪悪なギター・リフにミステリアスなボーカルメロディが呼応する#2。
軽快なリズムに乗ったキャッチーなメランコリック・ナンバーの#3。淡い叙情メロディはメインストリームでも通用するポテンシャル。サビの「This cold, cold war」の部分でのPetronella Nettermalm(Vo)の歌唱に悶絶。
Ricardのパーカッシブなドラミングが躍動し、エキゾチックなテイストがフックとなった、明るく開放的なナンバー#4。
以上のアルバム前半が新曲。#1,#2,#4など、11月からのヨーロッパツアーを控え、これまでのレパートリーに無かった要素を補完するような新機軸が目立つものの、随所にどこか悲哀を醸すPAATOS節は健在。
ただ、魅惑のウィスパー・ヴォイス率は低下し、従来の作品に漂っていた儚さや非日常感が若干希薄になった印象も。
後半は過去4作品から1曲づつピックアップし新たなアプローチで表現したアンプラグド及びリミックス。
Peter Nylander(G)の深い音楽的素養に裏打ちされたセンス良いアコギのアレンジが光る、アコギとボーカルのアンプラグド・デュオ#5。メロトロン有りの原曲のドラマティックさも素晴らしかったが、素朴な中にもジーンとくるこのシンプルなバージョンもなかなかの出来。
Ricardのミュージカル・ソー(ノコギリ)が幽玄なSEでアクセントとなった#5同様のアコギとボーカルのデュオ#6。
無機質なリズムマシンのビートに、Peterのバンスリ・フルートオーガニックなアナログ楽器の哀愁が融合した#7。
Ricardの個人プロジェクトPucksponyのテイストを反映したエレクトロニカなリミックスが、原曲の沈み込む感じとは打って変わってアッパーなのにボーカルは鬱系というギャップがおもしろい#8。

バンドのキャリアを総括すると共に、漸くメンツも固まり漲る創作意欲を抑えきれない充実感が感じられる、ツアーに向けた嬉しいプレゼンテーション。
この熱とツアーで得られたインスピレーションで、完全な新作を早期に制作して欲しいところです。

Track List

1. Feel
2. Desire
3. Cold War
4. Into The Flames
5. Tea(revisited)
6. In Time(revisited)
7. Precious(remixed)
8. Your Misery(remixed)

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RIVERSIDE / Shrine of New Generation Slaves

2013,POLAND

ポーランドのプログレッシブ・ロック・バンドRIVERSIDEの5thアルバムShrine of New Generation Slaves。

ギター、ベース、オルガンによる王道ユニゾンに痺れる#1。オルガンは時にレズリーの回転を変化させダーティなうねりを持つコード弾きにも変化。そのサジ加減が秀逸。
マリウス・デューダ(B/Vo)の味わいのある歌唱が映えるメロウなフォーク・ナンバー#2。アクセントとなるグロッケンシュピール、世界観に忠実なギター・ソロも良い。
ミディアム・テンポに乗ったヘヴィなユニゾン・リフのグルーヴが心地良い#3。オルガン・ソロが渋い。
ディレイを掛けたピアノが印象に残る切ないナンバー#4。
まろやかなトーンのシンセ・ソロが神秘的なムードを醸す幽玄な#5。終盤のサックスのソロがアーバンな寂寥感を演出。
メロトロン風な白玉、引き摺るヘヴィ・リフを内包する、一聴するとポップなメジャーキーの#6。
アルバム・ジャケットのビジュアル・イメージであろうタイトルの#7。淡々としたムードの序盤から、オルガンが唸りをあげてアップテンポに移行する4分後半からの3連シャッフル・パートでは、プログレなシンセ・ソロをフィーチュア。さらに終盤は6拍子+5拍子パターンのリフレインに深遠なコーラスへと変化する12分超の叙事詩。
#7のモチーフをアコギと歌唱で再演しタイトル通りのエンディング感を演出した#8。

前作のプログレ・メタル+思索エレクトロニック音響路線から一変、#1や#3等のクラシックなというかハッキリ言ってベタなブルーズロック風リフを軸にしたグルーヴィな展開に驚くが、これが極上のカッコ良さ。
さりげない拍子のトリックやメロウなパートへの巧みな展開、そしてマリウス・デューダの深みのある歌唱が加わり、単なる懐古趣味を余裕で超越した本物のムードが感じられます。
アルバム・カヴァー・アートはお馴染みのトラヴィス・スミス。

Track List

1. New Generation Slave
2. The Depth of Self - Delusion
3. Celebrity Touch
4. We Got Used To Us
5. Feel Like Falling
6. Deprived (Irretrievably Lost Imagination)
7. Escalator Shrine
8. Coda

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THE TANGENT / Le Sacre Du Travail

2013,UK

アンディ・ティリソン(Key/Vo)率いるプログレッシブ・ロックバンドTHE TANGENTの7thアルバムLe Sacre Du Travail。
盟友テオ・トラヴィス(Fl/Sax/Cl)以外のメンバーを一新。ヨナス・レインゴールド(B)、ジャッコ・ジャクスジク(G)、ギャヴィン・ハリソン(Dr)に加え、BIG BIG TRAINのデイヴィッド・ラングドン(Vo)も参加。

タイトルは、ストラヴィンスキーの春の祭典(The Rite Of Spring)をもじったThe Rite Of Workをフランス語にしたもののようだ。

ティンパニ連打から管と木琴によるシーケンス・フレーズが続くオーケストラのようなオープニングに意表を衝かれつつも、ファンファーレのようなシンセ、メロウなサックスがいつものTANGENTのムードを漂わせる序曲#1。
管が織り成す厳かな雰囲気のイントロから、中間部でのデイヴィッド・ラングドンが歌うIT BITESみたいなムードが漂うキャッチーなパート、メランコリックなパート、カンタベリー風ジャズロック・パート、そして勿論シンセが唸るプログレ・パートなど、緩急・静動と場面転換で22分超を紡ぐ大作#2。
再び趣を変えた管主体のシーケンス・フレーズを冒頭に配置、ジャム風ドラム・パートから一気にプログレ・ワールドに突入する#3。インスト・パートでは、クロスオーバーやフュージョンといった表現がぴったりなレトロで新鮮なヴァイヴを醸し出している。
#1のシーケンスをピアノでリプライズしたものから壮大なパートまで盛り込んだ3分のインスト小品#4。
オルガンの軽快なリフに乗ってズ太いシンセが突き抜ける、爽快でキャッチーなプログレ・チューン#5。

従来のカンタベリー風味シンフォをベースに、クラシックのような楽章形式で各曲を関連させながらも際立たせ、全体としてよりスケールの大きなロック・オーケストラとも言える作風に。
プログレ然とした迸るシンセからフルート等の静謐な詩情まで、幅広い表情を確かなテクニックと味わい深い演奏で聴かせつつ、マニアックな部分とキャッチーなメロディも混在させる卓越したセンス。
現在、最も高品質なプログレ作品を生み出すバンド。

Track List

1. 1st movement: Coming Up On The Hour (Overture)
2. 2nd movement: Morning Journey & The Arrival
3. 3rd movement: Afternoon Malaise
4. 4th movement: A Voyage Through Rush Hour
5. 5th movement: Evening TV

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MAGENTA / The Twenty Seven Club

2013,UK

MAGENTAの6thアルバムTwenty Seven Club。

ケルティック・シンフォの傑作KOMPENDIUMでも手腕を発揮したロブ・リードの才能はまだまだ尽きる事の無いようで、本家MAGENTAの新作においてもドラマティックなシンフォニック・ロックを展開している。
アルバム・タイトルは27歳で他界したミュージシャン達の総称で、収録された各曲もそれぞれが故人をテーマにしたものになっており、あまりにもストレートな楽曲タイトルや#2でのクライベイビー、#6でのアコギのスライドギターなど故人のプレイのオマージュにもニヤリとさせられる。

ミステリアスな中近東ムードで幕を開ける#1(ジム・モリソン)。曲調が様々な表情を見せて変貌していき、軽やかな雰囲気のパートを盛り込みながら叙情的に盛り上げる展開の妙が楽しめる。タイトルは爬虫類に関心があったジム・モリソンにちなんで2013年に命名された4000万年前に生息していた巨大トカゲに由来している。
ワウを掛けたギターが主導し、ストリングス・セクションも絡め躍動感あるパートからダークなパートなどを経て大団円を迎える#2。(ジミ・ヘンドリックス)
悲しくくぐもったエレピがリードするバラード#3(ジャニス・ジョプリン)。
シンセが全編で活躍、静動の起伏を付けながら展開し、終盤の切ない叙情が胸に突き刺さる#4。(ブライアン・ジョーンズ)
ゆったりとしたテンポでスケール感あるアレンジで聴かせる#5。(カート・コバーン)後半はスライド・ギターの泣きにストリングス・セクションを絡め怒涛の叙情で畳み掛ける。
転調による場面転換で進行、オマージュとしてアコギのスライドがあしらわれたパートを持つ#6(ロバート・ジョンソン)。

テーマがテーマなだけにハッピーな感じは無いものの、故人の生前の活躍を髣髴させる躍動感あるパートや、魂を鎮めるような叙情パートなど才人ロブ・リードのストーリー・テラー振りにまたしてもやられたという感じ。

Track List

1. The Lizard King
2. Ladyland Blues
3. Pearl
4. Stoned
5. The Gift
6. The Devil at the Crossroads

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SARASTRO BLAKE / New Progmantics

2013,ITALY

イタリアのプログレッシブ・ロック・バンドMOGADORのメンバーが中心のプロジェクトSARASTRO BLAKEのNew Progmantics。リック・ウェイクマンやリチャード・シンクレア、デイヴ・ローソン、ビリー・シャーウッドなどがゲスト参加。

ヴァイオリンやフルートのクラシカルな響きとメロトロンやオルガンが優雅に融合、アルバムのカラーを象徴するロマンティックな#1。
爽やかなボーカル・メロディが印象的な#2。フォーク・タッチの歌唱パートとギター・ソロでのテクニカルなドラミングなど後半のインスト・パートとの対比も良い感じ。
アコギとオルガン、エレピで優しく奏でる序盤から徐々に盛り上がる#3。シンセのオブリガードやコーラスなど程よく隙を埋めるアレンジが絶妙。
アコギをバックに2人の女性ボーカルが魅惑のハーモニーを聴かせるフォーク・ナンバー#4。シンプルな楽曲ながら、ボーカル2人の微妙なキャラの違いやほんのりした叙情等味わい深い佳曲。
リック・ウェイクマンが煌びやかなピアノで客演した#5。中盤からは展開が予測不能なインスト・パートに移行、リックのピアノをフィーチュアした場面も用意されています。
クラシカルな中に地中海の明朗さや陰影も交えたクラシック・ギターのソロ小品#6。
アマンダ・レーマンの可憐な歌唱をフィーチュアしたクラシカルなフォーク#7。
リチャード・シンクレアのジェントルな歌唱とまろやかなベースを活かしたCARAVAN風な#8。
ロマンティックなムードにアクセントとなるスペイシーなギターのオブリガードが効いた#9。ゆったりとした3連のリズムが心地良い。
ナイトラウンジ風なムードを漂わせる#10。
名残惜しい叙情を醸す#11。

英国風ロマンティックなプログレッシブ・ロックを志向しつつ、出自を物語るイタリア的でメロディアスな暖かさがブレンドされ、落ち着いて楽しめる名作に仕上がっています。

Track List

1. The Lady of Shalott
2. Clare's Song
3. Scotland, the Place
4. Sonnet 116
5 .Stanzas for Music
a. They Say That Hope Is Happiness
b. On the Bust of Helen by Canova
c. Reflect the Nature
6. Prelude to the Highlands
7. My Heart's in the Highlands
8. Remember
9. Flaming June
10. Beyond
11. Solitary Bench

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カテゴリー: SARASTRO BLAKE

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FLOWER KINGS / Desolation Rose

2013,SWEDEN

スウェーデンのプログレッシブ・ロック・バンドFLOWER KINGSの12thアルバムDesolation Rose。
前作からのインターバルが非常に短く、バンド活動再開後の好調ぶりが伺える。

アルバム・タイトルに含む「Desolation=荒廃」を象徴するのようにダークな色調でスタートする#1。前作より加入のフェリックス・レーマン(Dr)の快活なドラミングがエンジンとなってバンドをドライブ。Flower Kingsにしては地味なオープニングながら、時折挿入されるスペイシーなパートや後半のギターとシンセによるハーモニー・フレーズなど典型的なFlower Kingsフレイバーを散りばめてドラマティックに展開していくオープニング・ナンバー。
#1の余韻を引き継ぎ雷鳴のSEを加えて始まる#2。独特の引っ掛かりを生む7拍子、ロイネ・ストルト(G/Vo)の歌唱がダークなリフに乗る序盤から終盤はメジャーに移行するコンパクトな楽曲。
ダークな色調を継承しながら、昇り詰めるような希望的なメロディーとメロウなパートを持つ#3。
シンプルな歌モノにSEや不穏な雰囲気を煽るトマス・ボディン(Key)の豊富な音色による鍵盤群が彩を加える#4。アップテンポに移行してからのギター・ソロはロイネらしい良く歌う名演。
ナイロン弦ギターの爪弾きが効いたメランコリックなバラード#5。スペイシーなシンセのオブリガードやワウを掛けたギター・ソロがアクセントとなっている。中盤にはワクワクするような展開のインスト・パートを挿入。楽曲のムードにメリハリを付けるドラミングが素晴らしい。
希望的なメロディーが際立つ#6。
5拍子のリフがリードするミステリアスな#7。叙情的なサビにロイネの枯れた歌唱が良く合っている。ロング・トーンを活かしたギター・ソロのフレージングもさすが。適材適所のオブリガードでカラフルに楽曲のムードを増幅するトマスの職人技も冴えている。
タイトル通り不気味な#8。暗黒リフとロイネが歌う叙情的なサビが対比し互いの印象を強烈にしている。
緩やかなバラード#9。
冒頭の静けさから徐々に盛り上げ、スペイシーにアルバムの最後を飾る#10。3分にも満たないのが惜しい。

13分超の#1以外は比較的コンパクトな楽曲で構成。
全盛期の壮大さや弾ける桃源郷ムードに比べると随分と落ち着いた印象ではあるが、確立されたFlower Kings節はしっかりと健在。
逆にその安定感の反面、アルバム全体のカラーを統一するためなのか、突き抜ける爽快感があまり感じられないのも事実。
TRANSATLANTICAGENTS OF MERCYなど、今後のロイネの課外活動が次作にどのような影響を及ぼすか注目。

Track List

1. Tower One
2. Sleeping Bones
3. Desolation Road
4. White Tuxedos
5. The Resurrected Judas
6. Silent Masses
7. Last Carnivore
8. Dark Fascist Skies
9. Blood Of Eden
10. Silent Graveyards

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JUDY DYBLE / Flow and Change

2013,UK

ロバート・フリップやイアン・マクドナルドらの参加で話題となった前作Talking with Strangersから4年ぶりのリリースとなる、FAIRPORT CONVENTIONやTRADER HORNEで活躍した女性シンガー ジュディ・ダイブル(Vo)のソロ・アルバムFlow and Change。

SEやスライド・ギターが幽玄な空気を醸し出すフォーク・ロック#1。妖しさとドリーミーなムードの対比がおもしろい。
管弦セクションがクラシカルで厳かな彩りを加える#2。
ストリングスとピアノのバックに控え目なボーカルが乗る、孫娘に捧げられたセンチメンタルなナンバー#3。
ダルシマーのシーケンス・フレーズからクリーンなエレキ・ギターのアルペジオに移行する、エレクトリック・フォークな趣きの#4。
弦楽セクションをバックにした穏やかなフォーク#5。
ジュリアンヌ・リーガンとの共作で、穏やかだが幾分ポップス寄りな#6。少量加えた翳りが心地良いフックとなっている。
ピアノと弦楽セクションをバックにした静謐な#7。途中でドラムも加わるが、パーカッション的なプレイで楽曲の世界観をキープしている。
男性ボーカルとのデュエットを聴かせるエレクトリック・フォーク#8。オーボエが加わる終盤のインスト・パートではドラミングもプロレッシブなアプローチを見せるも残念ながらそのままフェイドアウト。
ピアノと管弦セクションをバックにした端正なバラード#9。
管弦セクションとエレキ/アコギのギターが様々に表情を変えながらも静かに紡ぐ11分超の大作#10。アコギのパートにはトラッドの薫り漂う部分も。

一部に混沌プログレ・パートも存在した前作から打って変わって、管弦を多用した格調高いアレンジがジュディ・ダイブルの儚げな歌声に絶妙にマッチした穏やかなフォーク・ロック。
地味ではあるが、時にはこういう音楽に安らぎを求めたい時もありますね。

Track List

1. Black Dog Dreams
2. Featherdancing
3. Beautiful Child
4. Crowbaby
5. Driftaway
6. Head Full of Stars
7. Silence
8. Letters
9. Wintersong
10. The Sisterhood of Ruralists

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MOON SAFARI / Himlabacken vol.1

2013,SWEDEN

スウェーデンのプログレッシブ・ロックバンド MOON SAFARIの4thアルバムHimlabacken vol.1。

トレードマークのコーラス・ワークを活かしたコンパクトながら壮大でファンタジックな序曲#1。
MOON SAFARIがおそらく最も得意とするタイプの、変拍子入り爽快でキャッチーな実質オープニング・チューン#2。構築度の高いテクニカルなギター・ソロがカッコ良い。
QUEENのようなオペラティックなコーラス、何故かキダ・タローのプロポーズ大作戦のテーマを想起してしまったヒネリのあるパート、ダークなパートでのシンセやピアノの合いの手オブリガード、そして序盤は静かな4拍子で提示されたサビをドライブ感と高揚感溢れるアップテンポ3連のパートでリプライズする#3。フック満載で展開していく各パートや伏線からの解決がパーフェクト。エンディングをあっさり終わらせる潔さも何か清々しい感じ。
ヘヴィなリフと曇天のようなメロトロンがダークなムードを醸す序盤と対比するかのように歌唱パートはバラードのように甘い#4。スライド・ギターとELOのようなコーラスが感傷的なアクセントになっている。
静かな序盤からサビで一気にシンフォニックな広がりを見せるバラード#5。
ギター1本だけで歌う#6。幼い息子に対する父親の優しい目線が感じられるほのぼのとした小曲。
仄かに北欧フォークロアをまぶしたモチーフをキラキラしたピアノ、ギター、シンセなどで次々に提示する長めのイントロが既に名曲の#7。クラシカルなコード進行のサビやプログレ然とした器楽パートなどをコンパクトに内包させるアレンジも巧み。
じわじわと盛り上げるドラマティックな#8。3分半からはギターとシンセの絡むインスト・パートと爽やかに疾走する歌唱パートを配置。終盤のマイナー調パートが美しくも透明感があり、余韻を持たせてアルバムを締めくくります。

すっきりキャッチーなプログレを確立した前作やEPの流れを継続してファンの期待に応えつつ、往年のプログレを彷彿させる展開しまくり(ただしパーツはキャッチー)の#3で驚きをも提供。MOON SAFARIの代表曲となるであろう#3はアナログの時代ならA面ラストとかに配置するべき勝負曲のはずだが、あえてアルバム序盤のこのポジションに置くということは、他の曲にも自信があるからだろう。
まだまだアイディアには枯渇しないようだ。vol.1ということで続編にも期待大です。

Track List

1. Kids
2. Too Young To Say Goodbye
3. Mega Moon
4. Barfly
5. Red White Blues
6. My Little Man
7. Diamonds
8. Sugar Band

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FROST / The Rockfield Files

2013,UK

英国の現代型プログレッシブ・ロック・バンドFROSTのスタジオライブ。

オーディエンス無しなのでライブならではの臨場感は希薄ながら、録音やミックスの良さもあってFROSTらしい音の密度とスリリングなアンサンブルが楽しめる好盤。

アレンジをスタジオ盤とは変えている部分もあるが、それがまた新鮮でカッコ良く、改めて楽曲自体の素晴らしさを認識させられる。

ジェム・ゴドフリー(Key/Vo)の弾くキーボードは基本的に最新のデジタル・シンセで、70年代回顧型プログレ・バンド達の好むヴィンテージな音色とは一線を画したソリッドなものなのだが、スタイリッシュなFROSTの音楽性に非常にマッチしている。例えば、ジョン・ミッチェル(G/Vo)が所属するもう一つのバンドIT BITESのジョン・ベックが90年代の良さを漂わせる変幻自在のキラキラ・トーンで楽曲をデコレーションするのとはまた違った方向性で、もっとグイグイと自ら楽曲を牽引する感じなのが新しい。

#2は新曲。BEATLESやELOを微かに香らせる英国ポップらしいキャッチーなメロディを抜群のセンスによるアレンジでプログレッシブに仕上げた中々の名曲。ポリリズムの中、トリッキーなドラミングが印象的なインスト・パートがプログレッシブで、ポップな歌唱パートと良い意味でのギャップを生み出している。
今回はアコースティック・セッションとして収録されたメロウなもう一つの新曲#7と合わせて、2014年リリース予定の新作アルバムに期待が高まります。

Track List

1. Hyperventilate
2. Heartstrings
3. Black Light Machine
4. Dear Dead Days
5. Pocket Sun
6. Milliontown
7. Lantern
8. Black Light Machine

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COSMOGRAF / The Man Left In Space

2013,UK

ロビン・アームストロング(G/Key/Vo)による英国のプログレ・プロジェクトCOSMOGRAFの4thアルバムThe Man Left In Space。

SPOCK’ BEARDのニック・ディヴァリージオやデイヴ・メロス、BIG BIG TRAINのグレッグ・スパウトン、元THE TANGENTのルーク・マシンなど、英米プログレ人脈のゲストを招いて制作。

イントロ的なSEの#1に続き、牧歌的な中にも英国ならではの蔭りとヒネリを滲ませたアコギのアルペジオから一転してLED ZEPPELINのような大きなグルーヴのヘヴィなギター・リフが飛び出しハッとさせられる#2。ローファイなマシン・ビートやさりげないオルガンのバッキングなど、PORCUPINE TREEあたりに倣ったのか70年代クラシックとコンテンポラリーなテイストを共存させたサウンド・デザインにもセンスを感じさせます。
パッド・シンセとギターによるサウンドスケープから、4人期のGENESISのようなシンフォニック・アンサンブルに展開するインストゥルメンタル・チューン#3。
枯れたギターが宇宙空間の寂寥感を感じさせるインストゥルメンタル・チューン#4。
前2曲の流れを汲んだSE中心のインストによる前半からドラマティックにボーカル・パートが登場する#5。
ダークで静かなボーカル・パートと鮮烈かつ流麗なルーク・マシンのギター・ソロを交互に配した#6。スウィープ・ピッキングなどの技を駆使しながらも、微妙なトーン・コントロールでエモーショナルな味わいを見せるルークの伸びやかなプレイが素晴らしい。
アコギとオルガンをバックにした切々とした歌唱、泣きのギター・ソロにグッとくる#8。
再びスペイシーな寂寥感を漂わせながらプログレ的なシンセ・ソロやミュージカル風な展開の妙を織り込みアナログ・レコードのスクラッチ・ノイズで幕を降ろす#9。

人生における成功と失敗についての探求をテーマに、ダークな色彩の中にもスリルや叙情を交えてアルバムを構成。
宇宙飛行士の交信音のようなSEが随所に挿入され、スペイシーなムードでコンセプト・アルバムとしての統一感を保ちながら音楽の旅に浸れます。

Track List

1. How Did I Get Here?
2. Aspire, Achieve
3. The Good Earth Behind Me
4. The Vacuum That I Fly Through
5. This Naked Endeavour
6. We Disconnect
7. Beautiful Treadmill
8. The Man Left In Space
9. When The Air Runs Out

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MR. SO & SO / Truths, Lies & Half Lies

2013,UK

1989年結成の元ポンプ・ロック・バンドMR. So & SOの5thアルバムTruths, Lies & Half Lies。

ビッグな轟音ギター・リフが度肝を抜く#1。ヴァースのエロクトロニックなシーケンスや爽快に突き抜けるキャッチーなサビなどフック満載のオープニング・チューン。
#1に続きギターのリフがリードする#2。グルーヴィなブルーズ・ロックの定番タイプのリフから、小気味良いカッティングに乗る男女ツインボーカルのブリッジを経てキャッチーなサビへと展開。ビッグなグルーヴとアンプの箱鳴りを感じさせるギター・サウンドが気持ち良くて、ついついボリュームを上げてしまう。
幽玄なアコギのアルペジオをバックにミステリアスなムードで進行する#3。サビでのストリングスが醸すムードががどことなく70年代ポップス風でクール。
エキゾチックな意匠を施したソフトなナンバー#4。
ピアノをバックにしたバラード#5。芯のしっかりした歌唱にファルセットを交え様々な表情を見せるシャルロット・エヴァンス(Vo)の歌唱をフィーチュア。
エキゾチックなムードの中に、キメや独特の感触の男女コーラスなど多彩なフックを織り交ぜた#6。
抑えた女性ボーカルが印象的にたゆたうメロディアスで少々メランコリックでもある#7。
再びシャルロットが主役のバラード・ナンバー#8。
中間部に神秘的な桃源郷パートを配した、ズ太いギター・リフを持つシャッフル・ナンバー#9。
テクノっぽいシーケンス・フレーズをベースに、スリリングなパートやシンセのシンフォニック・パートで場面転換しながら進行するネオ・プログレ・ナンバー#10。
クライマックスに向けてじわじわと盛り上がる男女ツインボーカルのバラード#11。

英国的な陰影を忍ばせたキャッチーなメロディラインを軸に、ベテランらしくツボを得た起伏やサウンド・メイキングで楽曲を構成。
メカニカルな部分とオ-ガニックな部分が自然に融合したモダンなウンドに、ユニークな男女ツインボーカルを組み合わせたアイディアが秀逸。新鮮なオリジナリティを感じさせるアルバム。

Track List

1. Paperchase
2. Apophis
3. Truths, Lies & Half Lies
4. House Of Dreams
5. Looking Glass
6. Jingo
7. You're Coming Home
8. Breathe
9. Time For Change
10. Compliance
11. Please

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カテゴリー: MR. SO & SO

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