OPETHの10thアルバムHeritage。
リリース前の試聴会からの噂が、グロウル・ヴォイスやブルータルなリフが無いアルバムという事で密かに期待していたが、やってくれましたよミカエル・オーカーフェルト(G/Vo)。
ミカエルが70年代ロックのコレクターであることは有名で、これまでのアルバムでも幽玄なアコギ・パートなどにヴィンテージ・ロックの薫りを漂わせてはいましたが、それをアルバム単位でやってしまったという感じ。
この路線、メロウかつ暗鬱なアルバムDamnationと似てはいますが、もっとバラエティに富んでいて躍動感もあるしロックしてもいる。何というか70年代ロック風なゴッタ煮感が良い。
メロウなピアノのソロ#1で静かに幕を開け、ガツーンと来るだろうなという予想通りの#2ではありますが、以前のような無慈悲で怜悧なリフでは無く、歪んだオルガンを絡めたオールド・スクールなテイスト。ギター・リフも相変わらず不条理系の奇妙な音使いですが、サウンドも今風なディストーションというよりはもっとウォームな感じ。幽玄パートやサイケ風なパートも絡めての起伏に富んだアレンジはさすがOPETH。
メロトロンの白玉とアコギをバックにミカエルの艶やかな美声が乗るメロウな序盤から、ヘヴィなパートを交えつつ神秘的なムードで展開する#3。
DEEP PURPLE風な#4は(多分)シングル・コイルの単音バッキングがまんまリッチー・ブラックモアな疾走チューン。OPETHらしい音使いのリフがアクセントになり、オールド・スクールな曲調に見事に融合しています。アコギ・パートに突入してそのままフェード・アウトする意外な展開はBLACK SABBATHのようでもあります。
マーティン・アクセンロット(Dr)のゴースト・ノートを活かしたグルーヴィなドラミング、ペル・ヴィヴァリ(Key)によるエレピのリフ、エキサイティングなフレドリック・オーケソン(G)のソロなど、ジャム的な要素をフィーチュアした不思議な浮遊感を持った#5。
静謐でメランコリックな序盤からメロトロンとアコギをバックに7拍子の歌唱パートに移行するプログレッシブ・フォーク#6。間を有効活用した枯れたギター・ソロも又絶品。現存するバンドでこのサウンドを出せるのはOPETHだけでしょう。
静かな序盤から独特の音使いによるリフを境にバンド・インする#7。妖しいパーカッションや吹き散らすフルートが70年代風暗黒ムードたっぷり。
マーティン・メンデス(B)のベースがリードする#8。メロトロンにフェンダー・ローズなどヴィンテージ・キーボード、テルミン風SEを要所に散りばめたコンパクトながら起伏あるナンバー。
OPETH風暗黒エレクトリック・フォークから、メロウなアコギ・パートを経て、抑えた泣きのギター・ソロで締める#9。
アコギのアルペジオをバックにしたマイルドなツイン・リードのハーモニーが美しい#10。
はっきり言って70年代風テイストはOPETHのオリジナルでは無いし、新鮮なアイディアというわけでも無い。
それでもこのアルバムが素晴らしいのは、そういった先人達のアイディアを吸収し我が物とした上でしっかりとOPETHの持ち味に融合させてしまっているところ。
特に、何でも詰め込み過ぎの昨今の音楽シーンにあって、「無音」を活かした音作りが巧み。
このあたりはミックスを担当したスティ-ヴン・ウィルソンからの影響かも。
ジャケット・アートはお馴染みのトラヴィス・スミス。サイケな色調が珍しいですね。右下の落ちかかった顔は本アルバムがラストとなるペル・ヴィヴァリでしょうか。ここ数作で良い仕事をしていただけに残念です。