DREAM THEATERの新作The Astonishingは、ジョン・ペトルーシ(G)による壮大なオリジナル・ストーリーを元にしたCD2枚組のコンセプト・アルバム。
アルバム発表後のツアーでは、アルバム丸ごと再現もアナウンスされている。
ミュージシャンやバンドがアルバムとして音楽をリリースすることの意義が薄まってきている、音楽がデジタル・コンテンツとしてファイル単位で購入・消費される現代。
音楽メディアの売上が右肩下がりの一方で、音楽を生で体験できるライブの動員は盛況だという。
一部のビッグなミュージシャンで、新曲を無料で配布しライブに集客する為のツールとして捉えるという動きもある。
そう、かつては『アルバムをリリースし、それをライブ・ツアーでプロモーション』というサイクルが、今や『新音源をプロモ的に使用、ライブ・ツアーに動員しグッズも合わせて大儲け』という図式にビジネス・モデルが変容してきている。
そんな潮流に沿って、コミックや小説あるいは映像作品と連動させたマルチ・メディア作品の一部として音楽をアルバムという形で世に問う、というフォーマットに挑戦する動きが出てきている。
DREAM THEATERの2016年新作The Astonishingもそんなムーブメントの中のひとつに数えることができる。
だが、DREAM THEATERの場合は、商売上手なレーベル Roadrunner Recordsのバックアップもあり、リリース前からWEB上で物語にまつわるマップや登場するキャラクターなどの視覚要素を情報発信する斬新さに加え、音楽についてもプラハ・フィルハーモニック・オーケストラを贅沢に使用する妥協の無さで一線を画している。
さて中身の方はというと、従来のプログレ・メタルな側面にオーケストラを導入したシンフォニックな側面が自然に融合、ドラマのワンシーンのようなSEも交えながら一気に描ききる手法が見事。CDのAct IとAct IIがアナログ・レコードでいうA面B面のように、丁度良いインターバルをリスナーに提供。トータル130分もの長大な音楽の旅をリスナーのスタイルに合わせて楽しめるようになっている。
まずはAct I。
物語の世界観を表すノイジーなSEの#1。
オーケストラからゴスペル風コーラスまで動員、重苦しいメロディから美麗メロディまで様々なテーマを提示、以降の物語の起伏を予感させる序曲#2。
北米プログレ・ハードなテイストを漂わせる#3。
フォーク・タッチの穏やかな#4。
軍靴と扇情的な演説のSEで始まるマイナー・キーのシリアスなナンバー#5。
不穏な空気を継承したミュージカル風#6。
マイルドなギターによるメロディアスなイントロからファンファーレを経てヘヴィに移行する#7。
壮大に盛り上がるバラード#8。
映画のサウンドトラックのようなストリングスを冒頭に配したバラード#9。終盤には#7のファンファーレのメロディがキーを変えて登場し再び不穏なムードへ。
スリリングに展開するミュージカル・ナンバー#10。
無機的なSEの#11。
軍靴SEと勇壮なファンファーレで戦いを暗示する冒頭からピアノ・バラードへ移行する#12。
コンテンポラリーなタッチのイントロとフックのあるメロディを持つ#13。
ピアノをバックに左右にパンニングされるリバーブたっぷりのボーカルで紡ぐ、ヘヴィなパートも内包した#14。
ジェイムズ・ラブリエ(Vo)のスウィートな歌唱とジョン・ペトルーシのエモーショナルなギター・ソロで酔わせるバラード#15。
神秘的なピアノと不穏なヘヴィ・リフがSEを交えて行き来する#16。
再び無機的なSEの#17。
穏やかな序盤からボーカル・メロディがアルバム冒頭のテーマをなぞりながらヘヴィに変化。バグパイプが奏でるメロディが希望を感じさせる#18。
アルバムのテーマ・メロディを巧みに融合したボーカル・パート。ギターとシンセの各ソロに続くハーモナイズ・プレイも出色の#19。フェードアウトで終了するのが意外な感じも。
オーケストレーションやクワイヤを総動員し物語前半を締めくくりつつAct IIへの期待もそそる中締めエンディング・チューン#20。メロトロンの音色が郷愁を誘う。
続いてAct II。
全体としては希望的ムードに包まれつつも、不穏なテーマが見え隠れするオープニング#1。
ヘヴィなギターのカッティングとツーバス連打がシンクロするリフ、ギター/ベース/シンセによるテクニカルなハーモナイズ・パートを配したインストもカッコ良い、メロディアスなメタル・チューン#2。
ガラスのように繊細な12弦アコギのアルペジオ、マイルドなシンセ、女性スキャットが神秘的なムードを醸成する前半からヘヴィなパートを挟み、雫のようなピアノで幕を閉じる#3。
ピアノとアコギにストリングス・セクションが絡み、ジェイムズ・ラブリエの歌声が伸びやかに響く美バラード#4。
オケとクワイヤがバンドのテクニカルなアンサンブルと見事に融合。スリリングなインスト・パートに被さる戦闘シーンのSEなどの仕掛けも含めて完成度の高いミュージカル的メタル・チューン#5。
不気味さを増した無機的SEの#6。
不条理リフと不穏なボーカル・メロディが不安を煽る#7。ラストの戦いに敗れたかのようなSEが次への期待をそそる。
ジョーダン・ルーデス(Key)によるインテンスなシンセ・ソロを配したダークなナンバー#8。
#7のラストは登場人物Faytheだったのか。むせび泣く人々のSEから始まる神々しいバラード#9。
ピアノとストリングス・セクションが包み込む、悲しくも美しいバラード#10。
郷愁を誘うフィドルがアクセントとなりクワイヤを中心に壮大に盛り上がる#11。
希望的メロディで満ちた、開放感あるメロディアスなハード・ロック#12。
ノイズ音の終焉を暗示するSE#13。
#1のポジティブなテーマが再登場。大団円を迎える#14。長尺アルバムのラストとしては意外とあさっりしているのが逆に好感。
演奏のベクトルがサーカス的な器楽要素よりも物語の進行に向けられ、感傷的な部分でのストリングス、戦いを暗示するブラスと、オーケストラのキャラクターを存分に活かしたアレンジとあいまって作品の完成度を高めている。
DREAM THEATERのコンセプト・アルバムというと、名盤 Metropolis PT2 : Scenes from a Memoryが想起される。しかし、Scenes from a Memoryがミステリアスな謎解きをリスナーに迫る知的好奇心をくすぐる現代劇だった一方で今作は中世風ファンタジーということで、同じことは繰り返さないというバンドとしてのプライドも覗く。
聴くほどに、この物語を生で味わいたいという欲求が高まってくる。つまり、この時点で既にDREAM THEATERの術中に嵌ってしまっていることになるわけで。
その一方でお腹いっぱいの反動か、Train of Thoughtのようなシンプルなアルバムも聞きたくなってくる不思議な効果もある。
どうころんでも勝者はDREAM THEATERということか。