シンフォニック のレビュー

MAGENTA / Chameleon

2011,UK

ロブ・リード(G/Key)率いるウェールズの女性ボーカル シンフォ・バンドMAGENTAの6thアルバム Chameleon。

シンセのリフからスタートしスケールの大きな展開の中、クリスティーナ・ブース(Vo)の柔らかい声質の歌唱が響く#1。
イントロでしっとりシンフォニックなストリングス・セクションにシンセ・ストリングスが絡み、流行の(?)オート・チューンを掛けたボーカルで意表を突く#2。歌唱パートはコンテンポラリーなテイストでメロディック&キャッチーに進行。ストリングスのオブリガードやクリス・フライ(G)による叙情的なアコギの間奏が強力なフックとなっています。
アコギのアルペジオをバックにした叙情パートとハード・エッジなギターがリードするヘヴィなパートを劇的に対比させた#3。サビにおけるピアノのアルペジオが初期ゴシック・メタル風でもあります。
クリスティーナの美声をフィーチュアしたバラード#4。中間部の静謐なシンセ・ソロからバンド・インし壮大に盛り上がります。
6拍子+4拍子パターンのリズムの仕掛けが耳を惹く#5。ピアノやクワイヤによる荘厳な中間部が、全体に漂う叙情ムードを増強。
Sevenの名バラードAngerを彷彿させる、クリス・フライのアコギ1本による叙情的なインスト・ナンバー#6。
エッジの効いたギターがリードするダークなテイストの#7。
しっとりした中にも爽やかさを感じさせる、コンテンポラリーな質感の#8。

雄大な演奏をバックにクリスティーナの伸びやかな歌唱とスライド・ギターが映える#9。クワイヤにチャイムを絡めたエンディングに向けてのリフレインが感動的。

20分クラスの大作2曲を含む4曲構成に加えヘヴィなエッジとダークな色彩で重苦しさすら感じられた2008年の前作Metamorphosisから一転し、幾分コンパクトにまとめた9曲構成となった新作。
コンパクトな中にキャチーさとプログレッシブな要素を巧く凝縮し、各曲の起承転結がはっきりとまとめられています。
名盤Sevenと同等の出来じゃないですか、これは。

Track List

1. Glitterball
2. Guernica
3. Breathe
4. Turn the Tide
5. Book of Dreams
6. Reflections
7. Raw
8. The Beginning of the End
9. Red

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SEAN FILKINS / War and Peace & Other Short Stories

2011,UK

英国のプログレッシブ・ロック・バンドBIG BIG TRAINの元ボーカリスト シーン・フィルキンスの1stアルバムWar and Peace & Other Short Stories。

シーン・フィルキンスがお茶を入れている状況を、なんとなく懐かしさを感じさせる英国ムードいっぱいのBGMに乗せて送る短いインストで幕を開ける#1。
のどかな#1から一転、ズ太いアナログ・シンセのスリリングな変拍子リフでいきなりリスナーの耳を釘付けにする#2。ゆったりとした叙情パートと、ギターのリフがリードするハードなパートで起伏を見せつつも、クリーンで真摯な歌声が統一した世界観を表現したドラマティックなナンバー。
続く#3,#4は総尺30分に及ぶ組曲。#3の冒頭、シタールとドローン音をバックに奏でられるフルートのメロディがエスニックなムードを湛えつつ、軽快でキャッチーな歌唱パートを経て後のサビで同じメロディが壮大かつメロディアスにリプライズされるという伏線を張った展開も見事。
少々落ち着いた感じの#4はBIG BIG TRAINを思わせる斬新な歌メロが印象的。
続く#5も5パートからなる20分超の大作。
シーンの娘さんが歌う、賛美歌のような瑞々しく敬虔な感じのオープニングのPT1。
深遠な思索路線のPT2では船員を惑わすセイレーンの歌声を、神秘的な女性スキャットで美しくも妖しく表現。
5拍子のインスト・パートがハードに展開するPT3。
アコギのカッティングと多層パッド系シンセに美くしいボーカル・メロディが乗ったバラードのPT4。
ここまでの雰囲気を引き継ぎ、強力な叙情メロディでより感動的に展開するPT5、と構成も完璧。
マンドリンやフルートの特徴あるトーンを優しく包み込むシンセがまろやかな質感を醸し出すセンチメンタルなバラード#6。

フックを随所に散りばめたニクいアレンジ、ジョン・ミッチェル(IT BITES)、ゲイリー・チャンドラー(JADIS)などによるツボを押さえたプレイ、シタールにアナログ・シンセやハードなギターなど展開に合わせたバラエティに富んだ楽器群などなど、シンフォニック・プログレ・ファンが求める要素が満載の傑作。

Track List

1. Are You Sitting Comfortably
2. The English Eccentric
3. Prisoner Of Conscience: Part 1 - The Soldier
4. Prisoner Of Conscience: Part 2 - The Ordinary Man
5. Epitaph For A Mariner Parts 1 to 5:
Part 1 - Sailor's Hymn
Part 2 - Siren's Song
Part 3 - Maelstrom
Part 4 - Ode To William Pull
Part 5 - Epitaph
6. Learn How To Learn

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YES / Fly From Here

2011,UK

英国のプログレッシブ・ロック・バンドYESの2011年作、Fly From Here。

80年代以降、目まぐるしくメンバー・チェンジを繰り返しながらバンドとしての看板を守り続けたYES。
今作Fly From Hereは、YESのトリビュート・バンドに在籍していたカナダ人 べノワ・デイヴィッド(Vo)以下、クリス・スクワイヤ(B)、アラン・ホワイト(Dr)、スティーヴ・ハウ(G)、ジェフ・ダウンズ(Key)というDrama以来となるジョン・アンダーソン不在のメンバー編成。そして何と、プロデュースはトレヴァー・ホーン、さらにDramaのアウトテイクだったFly From Hereを収録ということで、Dramaを名盤と信じる個人的には思わずニヤリの条件が揃いました。

中高音部ではジョン・アンダーソンに似た感じのべノワ・デイヴィッド、全体的にはジョン程の透明感や無垢なニュアンスには及ばないものの無難に違和感無くこなしています。

#1~#6の組曲は変拍子も交えた程良い緊張感をベースに、叙情や爽快感で起伏をもたせたドラマティックな佳曲。70年代の大作を彷彿させる構成に思わず頬を緩めるとともに、スティーヴ・ハウの独特な単音オブリガードが入ると、やはりYESらしさが増幅されます。
落ち着いた雰囲気のAORチューン#7。
アルペジオやコード・カッティングなどアコギがリードする洗練されたプログレッシブ・チューン#8。
ジェントルな歌唱がフォーク・タッチの伴奏に溶け込んだ#9。シンセ・ソロの上品なフレージングが、出しゃばらないジェフ・ダウンズらしいセンスを醸し出し、良いアクセントになっています。
ラテンなムードを漂わせたアコギによるインストゥルメンタル#10。エレキでは何かガチャガチャしたイメージのスティーヴ・ハウですが、アコギでは音楽的バックグラウンドの深みを感じさせるのは70年代から不変。
キャッチーでリラックスした中に、疾走感と7拍子のプログレ的展開を織り込んだ#11。

地味ながらツボを心得たジェフ・ダウンズのプレイと音色選択が、シンフォニックからポップ・チューンまでバラエティに富んだ楽曲群を上手くオブラートで包み込み、Drama期にAOR風味を加えたかのような上質な作品に仕上がっています。当然そこにはトレヴァー・ホーンの舵取りもあったわけで、一般的に低く評価されているDrama期YESのリベンジは大成功。
懐古でも前衛でも無い自然体のロック・バンドYESの姿がここに。

Track List

1. Fly From Here - Overture
2. Fly From Here pt I - We Can Fly
3. Fly From Here pt II - Sad Night At The Airfield
4. Fly From Here pt III - Madman At The Screens
5. Fly From Here pt IV - Bumpy Ride
6. Fly From Here pt V - We Can Fly Reprise
7. The Man You Always Wanted Me To Be
8. Life On A Film Set
9. Hour Of Need
10. Solitaire
11. Into The Storm

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WOBBLER / Rites at Dawn

2011,NORWAY

ヴィンテージ楽器のみで勝負するノルウェーのプログレッシブ・ロック・バンド WOBBLERの3rdアルバムRites at Dawn。

神秘的なイントロダクションの#1。
硬質でクールな7拍子リフに絡むメロトロン、YESの躍動感やGENTLE GIANT風コーラスなど70年代プログレの薫りを纏いつつ、各楽器が緻密に絡みつくアレンジとタイトな演奏力に現代的なインテリジェンスとテクニックも感じさせる#2。
ドライブするベース、シンセとギターのハーモニー、エレピやオルガン、シンセなど場面ごとに異なる多彩な鍵盤など、アンサンブルの妙を緩急と静動の起伏を付けた絶妙の展開で活かした12分超のプログレ大作#3。
アコギの7拍子アルペジオにフルートやメロトロンが絡む幽玄なパート、ピアノがリードするクールなジャズ風リフ、軋んだメロトロンがANGLAGARDANEKDOTENを彷彿させる北欧的慟哭激情メランコリー・パートなど、異質な要素を巧みに切り替えるドラマティックな#4。
トレモロ効果を持つ骨董楽器マクソフォンを使用した静かなイントロからメロトロンが唸る疾走パートに移行する#5。
ギター、ベース、サックスによる怒涛のユニゾン、メロトロンがむせび泣くメロウなパート、開放感あるテーマ・メロディ及びドラマティックなサビを持つ感動的な#6。
グロッケンをフィーチュアした神秘的なアウトロで#1に繋がる#7。

様々に展開しながらもやりっ放しで終わらず、きっちりと落とし所を用意した考え抜かれたアレンジ、それを可能にするプレイヤーの技量、ヴィンテージ・キーボードを活かしたダイナミクスある楽曲展開が魅力的なヴィンテージ・タイプのプログレ。
ボーカルはジョン・アンダーソン風なところもあるが、平坦で無機質なため表現力という部分では若干マイナスも、そのB級感が故の70年代っぽさで逆に奏功している。

Track List

1. Ludic
2. La Bealtaine
3. In Orbit
4. This Past Presence
5. A Faerie's Play
6. The River
7. Lucid Dreams

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KARMAKANIC / In A Perfect World

2011,SWEDEN

THE FLOWER KINGS/AGENTS OF MERCYのヨナス・レインゴールド(B)、AGENTS OF MERCYのラレ・ラーション(Key)が在籍するスウェーデンのプログレッシブ・ロックバンドKARMAKANICの4thアルバム In A Perfect World。本作よりニルス・エリクソン(Key/Vo)が加入し6人編成となりました。

YESの構築性とGENESISの叙情性を併せ持った、ドラマティックでスケールの大きな14分超のプログレ大作#1。
ヨラン・エドマン(Vo)の声質がマッチした往年の北欧メタルを彷彿させる透明感あるハード・ポップの#2。
ヨナスのこれまでの人生を描いたと言う#3。エッジの立ったギターのバッキングがハード・ロック風でいながら、マイルドなフレットレス・ベースのソロやウーリッツアーっぽいエレピ、メロトロンなどがアクセントとなり、8分超の楽曲中に様々な表情を見せる叙情プログレッシブ・ハード。
カリプソにヘヴィな7拍子リフ、ラップ風ボーカルが合体、メンバーのミュージシャン・シップの高さを証明する変態ポップ・チューン#4。
メロウな冒頭や美しいピアノのパートと、オブリガードの上昇フレーズが心地良いエネルギッシュなサビを対比させた#5。、超絶テクニックと音使いに冴えを見せるシンセに、ベースやギターのソロをたっぷりフィーチュアしたインスト・パートも曲もムードに巧く溶け込んでいます。
ファンキーなリズムに乗ってのダークなテイストの中にあって、ピアノのアルペジオをバックにしたシンセ・ソロが清涼感を運ぶ#6。
アコギをバックにした叙情ブルーズが、シンフォニックなシンセ・ストリングスのオーケストレーションを経て、メランコリックなピアノ・ソロに移行し、ラストは#1のメイン・テーマのリフレインでアルバムを締めくくる#7。

様々な要素を余裕のテクニックと音楽的素養で消化し、KARMAKANICテイストに昇華したメロディアスな傑作。
彼らとAGENTS OF MERCYがあれば、もうFLOWER KINGSは要らない、と極論したくなるほどFLOWER KINGS周辺が充実してますよ。

Track List

1. 1969
2. Turn It Up
3. The World Is Caving In
4. Can't Take It With You
5. There's Nothing Wrong With The World
6. Bite The Grit
7. When Fear Came To Town

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カテゴリー: KARMAKANIC

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PRISCILLA HERNANDEZ / The Underliving

2011,SPAIN

スペインのシンガー・ソングライター兼イラストレーター プリシラ・エルナンデスの2ndアルバムThe Underliving。

音楽性、イラスト、そして自身のコスプレまで全てがファンタジックでゴシック。
神話や伝説などの文学作品、ホラーやファンタジー映画、そしてスタジオジブリ作品からの影響を自らの作品に投影。
ストリングスにハープやイリアン・パイプ系のオーガニックな楽器から、シンセやデジタル・シーケンスのビートも一つの世界観の中で巧みに融合。
音楽に限って言えば、アンビエントな質感とウィスパーから情念ヴォイスまで様々な声を多層で重ねた音像はダークなエンヤといったところ。

繊細で美しくも妖しいベストトラックの#1を筆頭に、シンセを使用してニュー・ウェーブ風なゴシック感を漂わせる#3、軽快なビートに一瞬明るい表情を見せるメロディが切ない#4、風のSEが不気味な#10、心が洗われるかのような聖なるムードを持つ#11、などファンタジーに浸れる秀作が目白押し。

Track List

1. In the Mist
2. The Underliving
3. Feel the Thrill
4. Through the Long Way
5. Don't be Sad
6. In my Mind's Eye
7. Off the Lane
8. Storm
9. The Aftermath
10. The Wind Song
11. Ode to the Silence
12. Northern Lights
13. Morning Light
14. At the Dream's Door
15. One Last Hope

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WHITE WILLOW / Terminal Twilight

2011,NORWAY

ノルウェーのプログレッシブ・フォーク・バンドWHITE WILLOWの5年ぶりとなる6thアルバムTerminal Twilight。

2nd~4thアルバムに参加していた美声のシルヴィア・エリクセン(Vo)が復帰。サウンドも前作のコンテンポラリー・ポップス路線から、メロディックなプログレ・フォークに素朴で時にダークかつ混沌とした要素を溶け込ませた初期のイメージに近いものに回帰。

シンセによるゆったりとしたアルペジオが神秘的で妖しいムードを醸し出すオープニングや屈折した歌メロが初期のテイストを想起させる#1。終盤にようやくポジティブなメロディの木漏れ日が差し込み、ここまでの暗鬱と対比。
シルヴィアの可憐なボーカルをフィーチュアしたキャッチーなコンテンポラリー・フォーク#2。
色んなところに客演しているゲストのティム・ボウネス(NO-MAN)とバンドの共作でティム自ら枯れた哀愁の歌唱を聞かせるメランコリックなフォーク#3。
シンセの重層的なアンサンブルでシンフォニックに高揚するインスト・パートが圧巻。ボーカル・パートではシルヴィアの素朴で可憐な歌声が楽しめるアルバム前半のハイライト#4。
シンプルなアルペジオにフルートやシンセが絡むイントロ~ボーカル・パートのポジティブなドリーミー感、ヴィンンテージ風オルガンとシンセで少々アヴァンな不条理パートを盛り込みつつも仄かな叙情を感じさせるインスト・パートの対比が見事なプログレ・フォーク#5。
北欧フォークロア風メロディを紡ぐ掠れたメロトロン、シンセを中心としたアンサンブルによるドラマティックなインストゥルメンタル#6。
ドリーミー、叙情、暗鬱と様々な表情を見せるボーカル・パートを、ロックなドラムとメロトロンを始めとした鍵盤群のバックが支える#7。フルートとギターのアルペジオによる寂寥パートから、オルガンのグリッサンドと共になだれ込む激情パートへのドラマティックな場面転換など、起伏に富んだ13分超の長尺曲。
12弦アコギのアルペジオがGENESISっぽい、爽やかでどこか神秘的な余韻でアルバムを締めくくるインスト#8。

優しいメロディがもたらす全体的な暖かみや大作#5,#7でのインスト・パートの構成力、巧みなシンセの音使いなど、垢抜けたメジャー・クラスのアレンジとサウンドに独特の屈折テイストを絶妙に配合したキャリアの集大成にして最高傑作。

Track List

1. Hawks Circle the Mountain
2. Snowswept
3. Kansas Regrets
4. Red Leaves
5. Floor 67
6. Natasha of the Burning Woods
7. Searise
8. A Rumour of Twilight

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PANIC ROOM / Skin

2012,UK

英国ウェールズの女性ボーカル・シンフォPANIC ROOMの3rdアルバムSkin。
アン・マリー・ヘルダー(Vo)をはじめ元KARNATAKAのメンバーで結成されたこのPANIC ROOM。ケルティックなテイストを残すKARNATAKAと比べると、よりコンテンポラリーで若干ハードなエッジも。

7拍子のメイン・リフを軸に静動の起伏を付けたドラマティックなオープニング・ナンバー#1。切れ込んでくるギターがメタルのエッジなのは同系統バンドとの差別化か。まろやかなフレットレス・ベースとの対比もおもしろいです。
ALL ABOUT EVEの湿り気を帯びたゴシック風味を想起させる#2。
弦楽四重奏の厳かなイントロから、一転してモダンなシンセ・リフに移行する#3。クールなシンセ・リフ部とダイナミックにロックするサビ、ダブルトラッキングのギター・ソロに絡むストリングスなど、異なる要素の融合が巧み。
アコギのカッティングとストリングスがリードするノリの良いフォーク#4。
パーカッションとモーダルなメロディがエキゾチックなムードを醸し出す#5。渋いギターやエレピのソロ、終盤のストリングスが良いフックとなっている。
プログレ然としたシンセ・ソロが印象的なコンテンポラリー・チューン#6。
エレキの爪弾きとアン・マリーのボーカルによる3拍子のデュオ#7。
スネアのスウィングした裏打ちパターンが独特のグルーヴを生み出すフォーク#8。12弦のアルペジオとスキャットが幽玄な空間を生み出しています。
アン・マリーが最高のパフォーマンスを聴かせるタイトル・チューン#9。ウィスパー風のヴァースから切なく歌い上げる感動のサビまでパーフェクト。優しく包み込むストリングス、雫が滴るようなピアノのアルペジオも良い。
メタル風な単音リフ&ハーモニクスで幕を開けるハード・ロック・ナンバー#10。
ボーカルを際立たせた淡々としたヴァースから、ヘヴィ・ロック風なサビに移行する#11。

何か特別に変わったアイディアやアレンジがあるわけではない、やっていることは単なるメロディック・ロック。
どこかで聴いたことのある良くありそうなメロディなのに、なぜか胸を締め付ける独特の翳り。
その鍵を握るのはアン・マリー・ヘルダー。彼女の強弱や音域で表情を変える翳りのある美声と表現力抜群の歌唱が素晴らしい。テクニックや声量を誇示するような野暮なマネは皆無。息継ぎも生々しく収録した、あくまでも自然体の絶品歌唱が楽しめます。
また、弦楽カルテットが絶妙にアレンジの隙間を埋め、楽曲に気品と陰影を与えると共にアルバム全体の統一感ももたらしています。

Track List

1. Song For Tomorrow
2. Chameleon
3. Screens
4. Chances
5. Tightrope Walking
6. Promises
7. Velvet & Stars
8. Freefalling
9. Skin
10. Hiding The World
11. Nocturnal

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FLOWER KINGS / Banks Of Eden

2012,SWEDEN

ドラマーにフェリックス・レーマン(Dr)を迎えた再始動FLOWER KINGSの5年ぶりとなるアルバムBanks Of Eden。

25分超の大作#1から往年のFLOWER KINGS節が炸裂。
モーダルでミステリアスなメインの歌メロを終盤にはメジャー調に変化させる心憎い演出に加え、ロイネ・ストルト(G/Vo)やトマス・ボーディン(Key)のオルガンなど楽曲のカラーを決定する楽器群のトーンがオーガニックで生々しく、適度な空間的余裕とあいまって演奏そのものを純粋に楽しめるアレンジが素晴らしい。
エンディングはメロディをあえて解決する音で終わらせず、余韻を残して伏線を匂わせます。
イントロのプログレ然とした上り詰めるようなシンセの単音リフにギターが絡み、スペイシーなムードのボーカル・パートに移行する#2。ギター・ソロではナチュラル・ディストーションのトーンが活き活きしています。
ミステリアスなムードで7拍子中心に進行する#3。
シンセとギターによるメイン・リフ、ロイネの深みある歌唱とエモーショナルなギター・ソロなど、随所に顔を出す叙情的メロディと静動の起伏でドラマティックに仕上がった初期の叙情を彷彿させる#4。
#1のメイン・メロディを今度はマイナー調に変化させ壮大なスケールで展開する#5。#1の伏線をここで解決するというよくあるパターンながら、これだけのクオリティでやられると誰からも文句は出ないでしょう。

ボーナス・ディスクはシリアスな新作のカラーとは違った4曲を収録。
FLOWER KINGSらしいバラエティに富んだ秀作揃いで、歌にギターにロイネのカラーが前面に出ているのが嬉しく、大いに楽しめます。

ロイネの苦味を抑えた歌唱がイイ感じの、伸びやかなシンフォニック・ポップ#1。
リズムのアクセントを巧みに使ったキャッチーな#2。
メロウなインストゥルメンタル#3。
ジミヘン・スタイルなリフを軸にしたレトロなロックの意匠とメロトロンなどプログレな要素が融合した#4。

待望の新作は全体的にロイネのカラーが濃く、新加入のフェリックス・レーマンのドラミングも軽やかなフィルやボーナス#2冒頭の3拍子で4連を叩く意外性のあるフレージングなど、他メンバーを触発するバンドのエンジン役として貢献。

Track List

1. Numbers
2. For The Love Of Gold
3. Pandemonium
4. For Those About To Drown
5. Rising The Imperial

Bonus Disc
1. Fireghosts
2. Going Up
3. Illuminati
4. Lo Lines

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SILHOUETTE / Across The Rubicon

2012,NETHERLANDS

オランダのプログレッシブ・ロック・バンドSILHOUETTEの3rdアルバムAcross The Rubicon。

古代ローマのカエサルの故事にちなんだ壮大なタイトル(実際はルビコン川はローマ国境を示す単なる小川。物理的な意味合いよりも軍隊をローマ国境内に入れるという当時の法を破る重要な決断という象徴的な意味がある。)から連想される期待に応える、70年代のプログレ・バンドの如くロマンティックでシンフォニックなサウンド。

全編をシンセ・ストリングスの分厚いオーケストレーションが覆う中、レズリーの回転数変化にもこだわったオルガンや、おそらくサンプルながら要所で効果的に使用されるメロトロン、各楽曲のテーマ・リフレインを奏でる本物モーグのファットなトーンが印象的で、プログレ・マニアの心をくすぐります。
メロディも妙なヒネリを入れたり、ジャズ・ロック風に逃げて変にバリエーションを増やそうとはせず、ひたすら素直で叙情的な美メロによる直球勝負なのが潔くて好感が持てます。
70年代の様式美、80年代のキャッチーさ、ポンプ・ロックの過剰な壮麗さ、などなど様々な要素をロマンティックに集約。
8曲中3曲の11分超え長尺曲の間に小品群を配置した、アルバムの物語にすんなり没頭できる曲順構成もなかなか巧み。特に冒頭4曲の流れが完璧。#4でテーマ・メロディが少年クワイヤに継承される部分は感動で痺れます。
メンバー達のプログレ愛が滲み出た好作品。

Track List

1. Across The Rubicon
2. Breathe
3. Empty Places
4. When Snow's Falling Down
5. Anybody
6. Grendel Memories
7. Nothing
8. Don't Stop This Movie

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カテゴリー: SILHOUETTE

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MOON SAFARI / The Gettysburg Address

2012,SWEDEN

スウェーデンのポップなプログレッシブ・ロックバンド MOON SAFARIのライブ盤 The Gettysburg Address。
2011年5月20日Rosfestでの模様を収録したCD2枚組。
ブレイクした3rdアルバムを中心に1st,2ndからも選曲され、現時点でのベスト・アルバム的なラインナップ。

MOON SAFARIについてはオフィシャルサイトも(2012年2月現在は)適当な感じでなかなか情報が入ってこないため、スタジオ・プロジェクトのような印象を持っていましたが、そこそこライブ活動も行っているようで、収録されている演奏もコーラス・ワークから伸びやかなボーカル、複雑なアンサンブルも完璧!
特にスタジオ盤ではシンセとユニゾンでメインのメロディを奏でる場面の多いギターが、ミックスの関係で良く聴こえ、想像以上に随所でキーボード的なパッセージを弾いている事が判明。サーカスのようなテクニックを使う訳では無いですが、相当大変ですよこれは。

また、改めて感じたのが、MOON SAFARIが使用している楽器音の種類が意外な程少ないと言うこと。
素晴らしいメロディとアレンジに耳を奪われてカラフルな印象を持ってましたが、エレキ、アコギ、ピアノ、アナログ風単音シンセ、メロトロン、オルガン、ベース、ドラム、とシンプルなものばかり。まぁ勿論、メロトロンやシンセ系はライブではMIDIのサンプル音源使用でしょうが。
これでここまでバラエティに富んだ楽曲を構築できるとは驚きです。

まさにライブを見据えたかのような楽器構成なので本作でも再現性はバッチリ。個人的に21世紀のNo.1キャッチー&プログレ・チューンと感じている#7で聴かせる一糸乱れぬ完璧なアンサンブルには惚れ惚れしますね。且つ、キャッチーにまとめるセンス・・・・。
素晴らしすぎます。

今後も今まで同様の楽器構成で行くのか、それとも新機軸を打ち出してくるのか?
4thアルバムが待ち遠しいです。

Track List

DISC.1
1. Moonwalk
2. Lovers End Pt.1
3. A Kid Called Panic
4.Yasgurs Farm
5. The Worlds Best Dreamers
6. Dance Across The Ocean

DISC.2
7. Heartland
8. New York City Summergirl
9. Other Half Of The Sky
10. Doorway

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MOON SAFARI / Lover’s End Pt.III Skellefteå Serenade

2012,SWEDEN

スウェーデンのプログレッシブ・ロック・バンドMOON SAFARIのEP Lover’s End Pt.III Skellefteå Serenade。
アルバムLOVER’S END収録のパート1、パート2の続編にして完結編。

パート1、パート2の爽やかで甘酸っぱいムードはそのままに、珍しく少々ダークなパートや思いっきりエモーショナルなギターを付加。
お馴染みのテーマ・メロディの変奏でニヤリとさせ、壮大なスケール感、より巧みになった場面転換で駆け抜ける24分。
四季の移ろいを想起させる起伏に満ちた瑞々しい表現力は益々磨きがかかり、一人ひとりのキャラが個性的な多層コーラスも絶好調。
7分中盤のダークなムードからメジャーに移行する開放感。雫のようなピアノからの爽やかで疾走感あるボーカル・パート。
11分中盤からはお待ちかねアナログ・シンセのリフがリードするプログレ・パート。畳み掛ける展開の中、構築度の高い天駆けるギター・ソロ、そしてシンセのリフにギターがユニゾンで加わる部分のスリル。
19分中盤からはいよいよ名残惜しさを増幅する壮大なラス前の大盛り上がり。
ディレイが掛かったギター・ソロが泣きまくり。特に21分06秒からのスライドでポジションをハイに移動する部分が絶品。まるで涙を拭うかのようなタメが、胸を締め付けるセンチメンタルなメロディと相まって最高の感動をもたらします。

もはや完璧。
もしiPhoneに3曲しか入れてはいけないという法律ができたとしても確実に入れます。名曲。

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BAROCK PROJECT / Coffee In Neukolln

2012,ITALY

イタリアのプログレッシブ・ロック・バンドBAROCK PROJECTの3rdアルバムCoffee In Neukolln。

地中海風でもありフォークロア風でもあるエキゾチックなメロディをテーマにした#1。軽やかさと重厚さの間をダイナミックに行き来する。
沈痛なバラードと思いきやそれで終わるはずも無く、クラシカルなストリングス、ボーカルがシャウトするプログレ・メタル風パート、柔らかなアナログ・シンセがテーマを奏でるパートと様々な要素を織り交ぜながら、フレージングが抜群のセンスのピアノが全てを融合させ楽曲の統一感を持たせた#2。
チャーチ・オルガンとクワイヤによる#4の荘厳なイントロとなる#3。
一転して静かで端正なオーケストラにオペラのようなボーカルが絡む前半とバンドが入りヘヴィネスも加わる後半から成る#4。BAROCK PROJECTを象徴するキャッチーかつクラシカルなテーマ・メロディが素晴らしい。
前曲のクラシカルなタッチから打って変わって無機的でコンテンポラリーなメロディのイントロで幕を開ける#5。清楚なタッチとアグレッシブな吹き散らしスタイルを使い分けるフルートをフィーチュア。
ハッとする転調も織り交ぜながら7拍子パターンに乗せて軽快に進行するキャッチーなプログレ・チューン#6。
RUSHSTYXなど北米プログレッシブ・ハードのテイスト漂うキャッチーで爽やかなパート1と、思索系パートからジャジーな展開を経てアルバム随一の叙情リフレインを満を持して繰り出すパート2から成る#7と#8の組曲。
繊細な序盤からクラシカルでスケールの大きな後半へ劇的に転換、おおらかなメロディに芸術の国の出自を感じさせるエンディング・チューン#9。

単なる意匠の流用では無い本気のクラシカル度にアカデミックな薫りを漂わせつつ、ロックのフィールドにシームレスに落とし込む手腕は驚異的。
クラシックの優美・壮麗とロックの激しさ・スリルの融合という、ポップ・ミュージック史上幾多のアーティストが挑んできたアイディアに新鮮な感性と抜群のテクニックでチャレンジし、音楽的完成度の高さで先人達の成し遂げた偉業と同等の高みへと軽やかに到達。BAROQUE+ROCKの造語BAROCKをバンド名に冠するBAROCK PROJECTの名に恥じない傑作。

Track List

1. Back to You
2. Coffee in Neukolln
3. Kyrie
4. Fool's Epilogue
5. Streets of Berlin
6. Starfull Jack
7. Inside My Dreamer's Eyes 1
8. Inside My Dreamer's Eyes 2
9. The Lives of Others

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KOMPENDIUM / Beneath The Waves

2012,UK

英国のフィーメル・シンフォ・プログレ MAGENTAのロブ・リードが企画・プロデュースした、プログレ・シンフォ・プロジェクトKOMPENDIUMのアルバムBeneath The Waves。

ウェールズのケルト/プログレ・シンフォ界隈でお馴染みのイリアン・パイプ奏者トロイ・ドノックリーを始め大御所ス
ティーヴ・ハケットやプログレ人脈の交流が幅広いジャッコ・ジャクスジクから、最近はすっかりプログレの人になり
曲芸スティック・パフォーマンスでも有名な元KAJAGOOGOOのニック・ベッグス、IT BITESの新旧フロントマンであるジョン・ミッチェルとフランシス・ダナリー、PORCUPINE TREEのギャヴィン・ハリソンといった凄腕達が参加。さらに元HATFIELD AND THE NORTHのデイヴ・スチュワートがアレンジを担当したロンドン・セッション・オーケストラが、要所要所で感動を増幅させる素晴らしい管弦を付加。
彼らの紡ぎ出す極上の音楽の語り部は、表現力抜群の男女シンガー、スティーヴ・バルサモとアングハラッド・ブリン。
深みと伸びやかな高音のバルサモ、天使の如き美声を聴かせるブリンとこれだけでもおそろしく高品質なのに、数々の映画音楽や宇多田ヒカルの楽曲にも参加しているコーラス・グループSYNERGY VOCALSの個性的でキャッチーなコーラスがもたらすフックや、重厚で厳かな英国室内合唱団、オペラ歌手が脇を固めてドラマティック度を増強。

この手のオールスターキャスト物でありがちな各ミュージシャンの色が出すぎてバラバラな印象に陥ることなく、
ケルトのエキゾチックや叙情、スリルといった起伏を織り交ぜつつも、一貫したムードで感動の物語を描ききったロブ・リードのマネージメント手腕がもう奇跡的。
勿論、巧みでグルーヴィなニック・ベッグスのスティック、蕩けるようなアングハラッド・ブリンの歌声、ハープをイ
メージした、というやる気満々のスティーヴ・ハケットのクラシック・ギター、等々、各プレイヤーの充実のプレイも聴き所満載。

MAGENTAの最高傑作Sevenをより壮大、ドラマティックにバージョン・アップしたかのような本作は、シンフォ・ファン
にとってのまさに福音とも言える完成度です。

Track List

1. Exordium
2. Lost
3. Lilly
4. Mercy of the Sea
5. The Storm
6. Beneath the Waves
7. Sole Survivor
8. Alone
9. Il Tempo E Giunto
10. A Moment of Clarity
11. One Small Step
12. Reunion

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BIG BIG TRAIN / English Electric (Part One)

2012,UK

英国のプログレッシブ・ロック・バンドBIG BIG TRAINの7thアルバムEnglish Electric (Part One)。

緊張感あるギターのアルペジオ・リフから、小刻みなリズムをフックとするブリッジを経て開放的なサビに移行する#1。モチーフのメロディをベースにした終盤のシンセ・ソロがプログレの王道を行きつつ、フルートの陰影や重厚なストリングス・セクションが随所で効いた素晴らしいシンフォニックなオープニング・ナンバー。
リコーダーやバンジョーなどがもたらすほのぼのとした雰囲気に、かすかなペーソスを織り込んだ田園フォーク風ナンバーの#2。ボーカル・パート冒頭の歌い回しをはじめ、全体的にGENESISの小品っぽい上品な英国風味に仕上がってます。
ロマンティックなフルートにジャジーでクールなヴァース、一転してサビはストリングス・セクションをバックに叙情で覆い尽くす#3。清楚でリリカルなフルートからギター・ソロへ徐々に盛り上がるインスト・パートもドラマティック。
3+3+3+2、3+3+3+4に続き3+2、そしてサビは3拍子に移行。テンポは変わらずも、拍子の変化で緩急を付けた頭脳的なナンバー#4。ロジカルな構造に反して、親しみやすいボーカル・メロディ、中間部の叙情フルート、後半のドラマティックな盛り上がりなど、エモーショナルな聴感を残すあたり、ソングライティングはもはや名人芸。
ピアノにヴァイオリンが絡む清楚なヴァース、メロトロンをバックにした希望的なサビ、ニック・ディヴァージリオ(Dr)のドラミングが牽引する熱いパート、トランペットをはじめ金管がまろやかな印象を残す終盤など、起伏に富みつつも落ち着いたトーンで静かな感動を呼ぶ#5。
アコギのアルペジオ、バンジョーに滑らかなフィドル、アコーディオンなどによる淡い色調のフォーク・ナンバー#6。
#2の主人公(元炭鉱夫のジャックおじさん)が再登場し若い頃の経験を語る#7。テンポアップしたインスト・パートでのスタイリッシュなヴァイオリン・ソロがカッコ良い。
弾むようなパートと、メロトロンが軋むスリリングなインスト・パートに続く叙情ヴァイオリンによる明暗のコントラストが最高な#8。

近代の実話や身近な人物の逸話などをテーマに、ジェントルな重層コーラスや豊富な管弦ゲスト陣を活用してのドラマティックでシンフォニックなアレンジを施した英国テイスト満載の逸品。
暗くて湿っぽい工業地帯やのどかな田園風景など、英国の様々な情景が広がってきます。

Track List

1. The First Rebreather
2. Uncle Jack
3. Winchester From St Giles' Hill
4. Judas Unrepentant
5. Summoned By Bells
6. Upton Heath
7. A Boy In Darkness
8. Hedgerow

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THE TANGENT / Le Sacre Du Travail

2013,UK

アンディ・ティリソン(Key/Vo)率いるプログレッシブ・ロックバンドTHE TANGENTの7thアルバムLe Sacre Du Travail。
盟友テオ・トラヴィス(Fl/Sax/Cl)以外のメンバーを一新。ヨナス・レインゴールド(B)、ジャッコ・ジャクスジク(G)、ギャヴィン・ハリソン(Dr)に加え、BIG BIG TRAINのデイヴィッド・ラングドン(Vo)も参加。

タイトルは、ストラヴィンスキーの春の祭典(The Rite Of Spring)をもじったThe Rite Of Workをフランス語にしたもののようだ。

ティンパニ連打から管と木琴によるシーケンス・フレーズが続くオーケストラのようなオープニングに意表を衝かれつつも、ファンファーレのようなシンセ、メロウなサックスがいつものTANGENTのムードを漂わせる序曲#1。
管が織り成す厳かな雰囲気のイントロから、中間部でのデイヴィッド・ラングドンが歌うIT BITESみたいなムードが漂うキャッチーなパート、メランコリックなパート、カンタベリー風ジャズロック・パート、そして勿論シンセが唸るプログレ・パートなど、緩急・静動と場面転換で22分超を紡ぐ大作#2。
再び趣を変えた管主体のシーケンス・フレーズを冒頭に配置、ジャム風ドラム・パートから一気にプログレ・ワールドに突入する#3。インスト・パートでは、クロスオーバーやフュージョンといった表現がぴったりなレトロで新鮮なヴァイヴを醸し出している。
#1のシーケンスをピアノでリプライズしたものから壮大なパートまで盛り込んだ3分のインスト小品#4。
オルガンの軽快なリフに乗ってズ太いシンセが突き抜ける、爽快でキャッチーなプログレ・チューン#5。

従来のカンタベリー風味シンフォをベースに、クラシックのような楽章形式で各曲を関連させながらも際立たせ、全体としてよりスケールの大きなロック・オーケストラとも言える作風に。
プログレ然とした迸るシンセからフルート等の静謐な詩情まで、幅広い表情を確かなテクニックと味わい深い演奏で聴かせつつ、マニアックな部分とキャッチーなメロディも混在させる卓越したセンス。
現在、最も高品質なプログレ作品を生み出すバンド。

Track List

1. 1st movement: Coming Up On The Hour (Overture)
2. 2nd movement: Morning Journey & The Arrival
3. 3rd movement: Afternoon Malaise
4. 4th movement: A Voyage Through Rush Hour
5. 5th movement: Evening TV

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MAGENTA / The Twenty Seven Club

2013,UK

MAGENTAの6thアルバムTwenty Seven Club。

ケルティック・シンフォの傑作KOMPENDIUMでも手腕を発揮したロブ・リードの才能はまだまだ尽きる事の無いようで、本家MAGENTAの新作においてもドラマティックなシンフォニック・ロックを展開している。
アルバム・タイトルは27歳で他界したミュージシャン達の総称で、収録された各曲もそれぞれが故人をテーマにしたものになっており、あまりにもストレートな楽曲タイトルや#2でのクライベイビー、#6でのアコギのスライドギターなど故人のプレイのオマージュにもニヤリとさせられる。

ミステリアスな中近東ムードで幕を開ける#1(ジム・モリソン)。曲調が様々な表情を見せて変貌していき、軽やかな雰囲気のパートを盛り込みながら叙情的に盛り上げる展開の妙が楽しめる。タイトルは爬虫類に関心があったジム・モリソンにちなんで2013年に命名された4000万年前に生息していた巨大トカゲに由来している。
ワウを掛けたギターが主導し、ストリングス・セクションも絡め躍動感あるパートからダークなパートなどを経て大団円を迎える#2。(ジミ・ヘンドリックス)
悲しくくぐもったエレピがリードするバラード#3(ジャニス・ジョプリン)。
シンセが全編で活躍、静動の起伏を付けながら展開し、終盤の切ない叙情が胸に突き刺さる#4。(ブライアン・ジョーンズ)
ゆったりとしたテンポでスケール感あるアレンジで聴かせる#5。(カート・コバーン)後半はスライド・ギターの泣きにストリングス・セクションを絡め怒涛の叙情で畳み掛ける。
転調による場面転換で進行、オマージュとしてアコギのスライドがあしらわれたパートを持つ#6(ロバート・ジョンソン)。

テーマがテーマなだけにハッピーな感じは無いものの、故人の生前の活躍を髣髴させる躍動感あるパートや、魂を鎮めるような叙情パートなど才人ロブ・リードのストーリー・テラー振りにまたしてもやられたという感じ。

Track List

1. The Lizard King
2. Ladyland Blues
3. Pearl
4. Stoned
5. The Gift
6. The Devil at the Crossroads

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FLOWER KINGS / Desolation Rose

2013,SWEDEN

スウェーデンのプログレッシブ・ロック・バンドFLOWER KINGSの12thアルバムDesolation Rose。
前作からのインターバルが非常に短く、バンド活動再開後の好調ぶりが伺える。

アルバム・タイトルに含む「Desolation=荒廃」を象徴するのようにダークな色調でスタートする#1。前作より加入のフェリックス・レーマン(Dr)の快活なドラミングがエンジンとなってバンドをドライブ。Flower Kingsにしては地味なオープニングながら、時折挿入されるスペイシーなパートや後半のギターとシンセによるハーモニー・フレーズなど典型的なFlower Kingsフレイバーを散りばめてドラマティックに展開していくオープニング・ナンバー。
#1の余韻を引き継ぎ雷鳴のSEを加えて始まる#2。独特の引っ掛かりを生む7拍子、ロイネ・ストルト(G/Vo)の歌唱がダークなリフに乗る序盤から終盤はメジャーに移行するコンパクトな楽曲。
ダークな色調を継承しながら、昇り詰めるような希望的なメロディーとメロウなパートを持つ#3。
シンプルな歌モノにSEや不穏な雰囲気を煽るトマス・ボディン(Key)の豊富な音色による鍵盤群が彩を加える#4。アップテンポに移行してからのギター・ソロはロイネらしい良く歌う名演。
ナイロン弦ギターの爪弾きが効いたメランコリックなバラード#5。スペイシーなシンセのオブリガードやワウを掛けたギター・ソロがアクセントとなっている。中盤にはワクワクするような展開のインスト・パートを挿入。楽曲のムードにメリハリを付けるドラミングが素晴らしい。
希望的なメロディーが際立つ#6。
5拍子のリフがリードするミステリアスな#7。叙情的なサビにロイネの枯れた歌唱が良く合っている。ロング・トーンを活かしたギター・ソロのフレージングもさすが。適材適所のオブリガードでカラフルに楽曲のムードを増幅するトマスの職人技も冴えている。
タイトル通り不気味な#8。暗黒リフとロイネが歌う叙情的なサビが対比し互いの印象を強烈にしている。
緩やかなバラード#9。
冒頭の静けさから徐々に盛り上げ、スペイシーにアルバムの最後を飾る#10。3分にも満たないのが惜しい。

13分超の#1以外は比較的コンパクトな楽曲で構成。
全盛期の壮大さや弾ける桃源郷ムードに比べると随分と落ち着いた印象ではあるが、確立されたFlower Kings節はしっかりと健在。
逆にその安定感の反面、アルバム全体のカラーを統一するためなのか、突き抜ける爽快感があまり感じられないのも事実。
TRANSATLANTICAGENTS OF MERCYなど、今後のロイネの課外活動が次作にどのような影響を及ぼすか注目。

Track List

1. Tower One
2. Sleeping Bones
3. Desolation Road
4. White Tuxedos
5. The Resurrected Judas
6. Silent Masses
7. Last Carnivore
8. Dark Fascist Skies
9. Blood Of Eden
10. Silent Graveyards

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MOON SAFARI / Himlabacken vol.1

2013,SWEDEN

スウェーデンのプログレッシブ・ロックバンド MOON SAFARIの4thアルバムHimlabacken vol.1。

トレードマークのコーラス・ワークを活かしたコンパクトながら壮大でファンタジックな序曲#1。
MOON SAFARIがおそらく最も得意とするタイプの、変拍子入り爽快でキャッチーな実質オープニング・チューン#2。構築度の高いテクニカルなギター・ソロがカッコ良い。
QUEENのようなオペラティックなコーラス、何故かキダ・タローのプロポーズ大作戦のテーマを想起してしまったヒネリのあるパート、ダークなパートでのシンセやピアノの合いの手オブリガード、そして序盤は静かな4拍子で提示されたサビをドライブ感と高揚感溢れるアップテンポ3連のパートでリプライズする#3。フック満載で展開していく各パートや伏線からの解決がパーフェクト。エンディングをあっさり終わらせる潔さも何か清々しい感じ。
ヘヴィなリフと曇天のようなメロトロンがダークなムードを醸す序盤と対比するかのように歌唱パートはバラードのように甘い#4。スライド・ギターとELOのようなコーラスが感傷的なアクセントになっている。
静かな序盤からサビで一気にシンフォニックな広がりを見せるバラード#5。
ギター1本だけで歌う#6。幼い息子に対する父親の優しい目線が感じられるほのぼのとした小曲。
仄かに北欧フォークロアをまぶしたモチーフをキラキラしたピアノ、ギター、シンセなどで次々に提示する長めのイントロが既に名曲の#7。クラシカルなコード進行のサビやプログレ然とした器楽パートなどをコンパクトに内包させるアレンジも巧み。
じわじわと盛り上げるドラマティックな#8。3分半からはギターとシンセの絡むインスト・パートと爽やかに疾走する歌唱パートを配置。終盤のマイナー調パートが美しくも透明感があり、余韻を持たせてアルバムを締めくくります。

すっきりキャッチーなプログレを確立した前作やEPの流れを継続してファンの期待に応えつつ、往年のプログレを彷彿させる展開しまくり(ただしパーツはキャッチー)の#3で驚きをも提供。MOON SAFARIの代表曲となるであろう#3はアナログの時代ならA面ラストとかに配置するべき勝負曲のはずだが、あえてアルバム序盤のこのポジションに置くということは、他の曲にも自信があるからだろう。
まだまだアイディアには枯渇しないようだ。vol.1ということで続編にも期待大です。

Track List

1. Kids
2. Too Young To Say Goodbye
3. Mega Moon
4. Barfly
5. Red White Blues
6. My Little Man
7. Diamonds
8. Sugar Band

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COSMOGRAF / The Man Left In Space

2013,UK

ロビン・アームストロング(G/Key/Vo)による英国のプログレ・プロジェクトCOSMOGRAFの4thアルバムThe Man Left In Space。

SPOCK’ BEARDのニック・ディヴァリージオやデイヴ・メロス、BIG BIG TRAINのグレッグ・スパウトン、元THE TANGENTのルーク・マシンなど、英米プログレ人脈のゲストを招いて制作。

イントロ的なSEの#1に続き、牧歌的な中にも英国ならではの蔭りとヒネリを滲ませたアコギのアルペジオから一転してLED ZEPPELINのような大きなグルーヴのヘヴィなギター・リフが飛び出しハッとさせられる#2。ローファイなマシン・ビートやさりげないオルガンのバッキングなど、PORCUPINE TREEあたりに倣ったのか70年代クラシックとコンテンポラリーなテイストを共存させたサウンド・デザインにもセンスを感じさせます。
パッド・シンセとギターによるサウンドスケープから、4人期のGENESISのようなシンフォニック・アンサンブルに展開するインストゥルメンタル・チューン#3。
枯れたギターが宇宙空間の寂寥感を感じさせるインストゥルメンタル・チューン#4。
前2曲の流れを汲んだSE中心のインストによる前半からドラマティックにボーカル・パートが登場する#5。
ダークで静かなボーカル・パートと鮮烈かつ流麗なルーク・マシンのギター・ソロを交互に配した#6。スウィープ・ピッキングなどの技を駆使しながらも、微妙なトーン・コントロールでエモーショナルな味わいを見せるルークの伸びやかなプレイが素晴らしい。
アコギとオルガンをバックにした切々とした歌唱、泣きのギター・ソロにグッとくる#8。
再びスペイシーな寂寥感を漂わせながらプログレ的なシンセ・ソロやミュージカル風な展開の妙を織り込みアナログ・レコードのスクラッチ・ノイズで幕を降ろす#9。

人生における成功と失敗についての探求をテーマに、ダークな色彩の中にもスリルや叙情を交えてアルバムを構成。
宇宙飛行士の交信音のようなSEが随所に挿入され、スペイシーなムードでコンセプト・アルバムとしての統一感を保ちながら音楽の旅に浸れます。

Track List

1. How Did I Get Here?
2. Aspire, Achieve
3. The Good Earth Behind Me
4. The Vacuum That I Fly Through
5. This Naked Endeavour
6. We Disconnect
7. Beautiful Treadmill
8. The Man Left In Space
9. When The Air Runs Out

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