プログレ のレビュー

RENAISSANCE / The Mystic and the Muse

2010,UK

アニー・ハズラム(Vo)、マイケル・ダンフォード(G)を中心とし、2009年に40周年を記念したツアー活動を再開したRENAISSANCEのミニアルバムThe Mystic and the Muse。

ツアーでは過去の名曲オンパレードになるのは仕方が無いとしても、せっかく現在進行形で活動するのであればクリエイティブな部分を見せて欲しいところ。
そんなファンの期待に見事に応えてくれました。

8分弱の大作#1は、マイケル・ダンフォードならではのミステリアスかつメロディアスなメロディが印象的な、往年の名曲達を彷彿させるドラマティックな佳曲。アニー・ハズラムの超高音スキャットに現役バリバリの迫力を、シンセ中心のシンフォニックなアンサンブルにコンテンポラリーな感触を感じます。ツアーをこなすことで昔のケミストリーが蘇ったんでしょうか。2000年の再結成アルバムTuscanyの楽曲テイストよりも、新旧の魅力が自然に融合された感じがあります。
#2,#3はアニー・ハズラムの歌唱をフィ-チュア。
叙情的な曲調に合わせて優しく歌うバラード・タッチの#2。
Scheherazadeの一節を引用しながらシンフォニックに歌い上げる#3。
気品とキャッチーさを両立させた見事な仕上がりは、マイケル・ダンフォードの作曲センスによるところ大です。
欲を言えば、ここにジョン・タウトのリリカルなピアノとジョン・キャンプのバキバキしたベースがあれば最高なんだけどなぁ。
曲線とグラデーションが特徴的なジャケット・アートはアニー画伯によるものです。

Track List

1. The Mystic and the Muse
2. Immortal Belpved
3. Tonight

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THE TANGENT / Comm

2011,UK

英国のプログレッシブ・ロックバンドTHE TANGENTの6thアルバム Comm。

タイタニック号が客船カルパチア号に送った遭難信号から現代のウィキペディアまで、コミュニケーション手段の様々な側面をテーマとしたコンセプト・アルバム。元IT BITESのフランシス・ダナリーからの影響が見て取れる若干21歳のルーク・マシン(G)が加入し、老獪なアンディ・ティリソン(Key/Vo)やテオ・トラヴィス(Sax/Fl)らと互角のインタープレイを披露。THE TANGENTに新鮮な息吹を注入しています。

ズ太いシンセのリフで幕を開け、ギターによる叙情的なテーマ・メロディ、シンフォニックなパートやハードなパートを織り交ぜた20分超の組曲#1。オブリガードでのさりげないスウィープ奏法やトーン・コントロールが見事なアコギ・ソロをキメるルーク・マシン、オルガンにシンセと変幻自在のプレイを聴かせるアンディ・ティリソンのプレイなど聴き所だらけの名曲。
ダークなムードの#2。ホールズワースやフランシス・ダナリーの系譜に連なるルーク・マシンの超絶変態フレージングが鮮烈なアクセントとなりつつ、朴訥なアンディ・ティリソンの歌唱とマイルドなテオ・トラヴィスのサックスでTHE TANGENTのテイストにまとめられています。
ジョナサン・バレット(B)のスムーズなフレットレス・ベースをフィーチュアしたメロウな#3。抑えたギター・ソロ、レズリーの回転をコントロールしたオルガンやペーソス漂うサックスなど味わい深い演奏が染み入ります。
オルガンのミニマルなリフにフルートが絡むカンタベリー・タッチの#4。お約束のファズ・オルガン単音ソロも登場。
叙情的なボーカル・メロディを中心に、静と動のダイナミズムを活かした起伏に富んだアレンジで構成した組曲の#5。

各パートが様々に表情を変えながら紡ぐアンサンブルと、確かなテクニックに支えられたギターやキーボードのツボを得たプレイが、静かなスリルを感じさせてくれる大人な作品です。名作!

ルーク・マシンは自身のプログレッシブ・メタル・バンドCONCRETE LAKE(PAIN OF SALVATIONからの影響モロ出しな微笑ましいネーミング。Tシャツも”BE”だし!)での作品リリースも予定している模様。
現代的なテクニックを活かした超絶技巧やアヴァンギャルドなフレージングから、少ない音数でセンス良く聴かせるプレイまで幅広くこなすこの男、今後注目されることになるかも。

Track List

1. The Wiki Man
2. The Mind's Eye
3. Shoot Them Down
4. Tech Support Guy
5. Titanic Calls Carpathia

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AGENTS OF MERCY / The Black Forest

2011,SWEDEN

活動休止中のTHE FLOWER KINGSに代わり、もはやロイネ・ストルト(G)のメイン・バンドとの感もあるスウェーデンのプログレッシブ・ロックバンドAGENTS OF MERCYの3rdアルバム The Black Forest。

日常に潜む不穏な事象を、”漆黒の森”に喩えたコンセプト・アルバム。

期待感と高揚感を煽るイントロから11分に渡って繰り広げられるシンフォニックな序曲#1。耳を捉えて離さないシンセとギターのユニゾンで奏でられる奇妙なメロディ、静寂と喧騒の対比や緩急を活かしたアレンジが冴えるドラマティックなナンバー。
ダークなムードの中、ファンキーに進行する#2。突如突き抜けるシンフォニック感覚にハッとさせられるニクいアレンジ。バッキングでのダーティなオルガン、インスト・パートでの7色のシンセと鍵盤群を変幻自在に操るラレ・ラーション(Key)のプレイが見事。
超絶シンセ・ソロをフィーチュアした、ヘヴィなギターとダーティなオルガンのリフがリードする#3。
タイトル通りの悲痛なメロディが胸に突き刺さるメランコリックなバラード#4。ロイネ・ストルトのストレートな泣きのギター・ソロが素晴らしいです。
THE FLOWER KINGSを思わせる桃源郷的シンフォに、ダークなテイストを内包したロックなサビを持つ歌唱パートが融合した#5。
メロトロンをうっすらと絡めたバックにロイネ・ストルトがメインのボーカルを取る#6。独特の苦味がある歌唱とセンス良いギターのオブリガードといったロイネ・ストルトの個性が、フック満載のアレンジとあいまった初期FLOWER KINGSのような趣のナンバー。
不穏なムードのSEを配した序盤から、ナッド・シルヴァンとロイネ・ストルトが掛け合いで歌う中近東風メロディをアクセントに使用した歌唱パートに移行する#7。ヘヴィなパートとゴスペル風コーラスをあしらった中間部のメロウなパートの起伏が楽曲にダイナミクスを生み出している。
序盤のまろやかなシンセ、霧のようなメロトロン、ギターの繊細なアルペジオが神秘的なムードを演出する#8。短いボーカル・パートを受け継ぎ、徐々に盛り上がる叙情的なバッキングに乗った2分半に及ぶエモーショナルなギター・ソロでアルバム56分の旅を締めくくるロイネ ファン感涙のメランコリックなナンバー。

前作でナッド・シルヴァンが見せた軽妙な英国風ポップを今回は封印、YESGENESISよりはむしろBLACK SABBATHLED ZEPPELIN寄り、と本人達が言うように、適度にエッジの立ったヘヴィネスやダークな色合いを増量。
そしてそれらが従来のシンフォニックなサウンドやプログレッシブな曲展開に見事に融合し、コンセプトの元にアルバム通して一分の隙も無い作品を作り上げました。

桃源郷サウンドがあまりにも緩く拡散してしまった近作のFLOWER KINGSよりも、むしろ初期THE FLOWER KINGSに近いドラマティックな起伏とロイネ・ストルトの存在感が楽しめるAGENTS OF MERCY。
来年あたりTHE FLOWER KINGSの活動再開もあるようですが、ロイネ節を期待するならAGENTS OF MERCYの方が良い様な気がします。

Track List

1. The Black Forest
2. A Quiet Little Town
3. Elegy
4. Black Sunday
5. Citadel
6. Between Sun & Moon
7. Freak Of Life
8. Kingdom Of Heaven

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THE WATCH / Timeless

2011,ITALY

イタリアのGENESISフォロワー プログレッシブ・ロック・バンド THE WATCHの5thアルバム Timeless。

アルバム各所に登場するテーマ・メロディを提示する序曲的な#1。12弦アコギにメロトロン、クセのあるボーカル、と既に全開。
不穏なムードで#1を継承し、比較的アップテンポに飛ばすロック・ナンバー#2。ワウを掛けたギター、オルガンのアルペジオ、シンフォニックなシンセと場面ごとに印象的なフックが盛りだくさん。
コード進行とくぐもった足踏みオルガンの音色が神秘的でファンタジックなムードを醸し出す#3。ギターの切り返しとシンセ・ソロのフレージングも良い。
#1のテーマ・メロディをサビに配したポップな#4。明るい雰囲気の中に巧みに翳りを織り交ぜて英国的に仕上がってます。
12弦アコギとフルートをイントロに配したファンタジックなバラード風の#5。後半のメロトロン・パートがドラマティック。
オルガンのリフとドラムが生み出す快活なリズムのヴァースとメロトロンによるメランコリックなパートが対比した#6。
タイトルにそぐわないのどかな序盤のボーカル・パートから、フィルターがミュンミュンするシンセ・パートで徐々に妖しく展開していく#7。
起伏を持たせた展開でラストに#1のテーマが登場、壮大なフィナーレとなる#8。
引き続きテーマ・メロディをピアノでリフレインする小曲#9。

GENESISのカヴァーをやっているうちに(#3,#4,#6はカヴァー)、オリジナル曲のテイストももはやGENESIS以外の何者でも無いという体質になってしまった所謂トリビュート・バンド。
芝居がかった歌唱、メロトロンやギターのサウンド、ちょっと奇妙なコード進行、コンパクトなポップ感覚、などなど各楽曲の至る所にガブリエル期GENESISのエッセンスを滲み出させつつも、メロディアスかつ印象的なフック満載の素晴らしいアルバム。
聴き終わった後、無性にGENESISを聴きたくなってしまうのは、THE WATCHにとって失礼なことなのか。それとも賛辞と受け取ってくれるんでしょうか?

Track List

1. The Watch
2. Thunder Has Spoken
3. One Day
4. In The Wilderness
5. Soaring On
6. Let Us Now Make Love
7. Scene Of The Crime
8. End Of The Road
9. Exit

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MAGENTA / Chameleon

2011,UK

ロブ・リード(G/Key)率いるウェールズの女性ボーカル シンフォ・バンドMAGENTAの6thアルバム Chameleon。

シンセのリフからスタートしスケールの大きな展開の中、クリスティーナ・ブース(Vo)の柔らかい声質の歌唱が響く#1。
イントロでしっとりシンフォニックなストリングス・セクションにシンセ・ストリングスが絡み、流行の(?)オート・チューンを掛けたボーカルで意表を突く#2。歌唱パートはコンテンポラリーなテイストでメロディック&キャッチーに進行。ストリングスのオブリガードやクリス・フライ(G)による叙情的なアコギの間奏が強力なフックとなっています。
アコギのアルペジオをバックにした叙情パートとハード・エッジなギターがリードするヘヴィなパートを劇的に対比させた#3。サビにおけるピアノのアルペジオが初期ゴシック・メタル風でもあります。
クリスティーナの美声をフィーチュアしたバラード#4。中間部の静謐なシンセ・ソロからバンド・インし壮大に盛り上がります。
6拍子+4拍子パターンのリズムの仕掛けが耳を惹く#5。ピアノやクワイヤによる荘厳な中間部が、全体に漂う叙情ムードを増強。
Sevenの名バラードAngerを彷彿させる、クリス・フライのアコギ1本による叙情的なインスト・ナンバー#6。
エッジの効いたギターがリードするダークなテイストの#7。
しっとりした中にも爽やかさを感じさせる、コンテンポラリーな質感の#8。

雄大な演奏をバックにクリスティーナの伸びやかな歌唱とスライド・ギターが映える#9。クワイヤにチャイムを絡めたエンディングに向けてのリフレインが感動的。

20分クラスの大作2曲を含む4曲構成に加えヘヴィなエッジとダークな色彩で重苦しさすら感じられた2008年の前作Metamorphosisから一転し、幾分コンパクトにまとめた9曲構成となった新作。
コンパクトな中にキャチーさとプログレッシブな要素を巧く凝縮し、各曲の起承転結がはっきりとまとめられています。
名盤Sevenと同等の出来じゃないですか、これは。

Track List

1. Glitterball
2. Guernica
3. Breathe
4. Turn the Tide
5. Book of Dreams
6. Reflections
7. Raw
8. The Beginning of the End
9. Red

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MEMORIES OF MACHINES / Warm Winter

2011,UK/ITALY

NO-MANのティム・ボウネス(Vo/G)とNOSOUNDのジャンカルロ・エラ(G/Key)による耽美でメランコリックなユニットMEMORIES OF MACHINESの1stアルバムWarm Winter。

NO-MANでの盟友スティーヴン・ウィルソンが#5のギターと鍵盤、及びアルバムのミキシングで参加しているのをはじめ、#8の作曲とサウンドスケープでロバート・フリップ、#10のギターでピーター・ハミルといった大御所から、#2,#4のドラムにPAATOSのドラマーHuxflux Nettermalmや#2,#6のバッキング・ボーカルに何とジュリアンヌ・リーガンなど個人的にも好みのミュージシャンが揃った注目作。

ドラム入りの曲は4曲のみで、アルバムのカラーを決定付けているのは、静かに漂うようなストリングス/パッド系シンセのバッキングと、ウィスパー気味に、けれども情感を感じさせるティム・ボウネスの歌唱がもたらすクールな感触の仄かなメランコリネス。

決して激情やベタな哀愁メロディは無いが、適所で登場するアコギ、#3,#10でのチェロ、#8,#9でのトランペットやサックスがマイルドでムーディな装飾を施し、アンビエントな音像にオーガニックな暖かみがプラスされています。

そしてジュリアンヌ・リーガン。
バッキング・ボーカルでしかもほとんど「Huuuu」だけですが、この美声はまさしくジュリアンヌ。
#2,#6がALL ABOUT EVEのゴシックな側面に近い楽曲ということもあり、見事にハマっています。

Track List

1. New Memories Of Machines
2. Before We Fall
3. Beautiful Songs You Should Know
4. Warm Winter
5. Lucky You, Lucky Me
6. Change Me Once Again
7. Something In Our Lives
8. Lost And Found In The Digital World
9. Schoolyard Ghosts
10. At The Centre Of It All

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SEAN FILKINS / War and Peace & Other Short Stories

2011,UK

英国のプログレッシブ・ロック・バンドBIG BIG TRAINの元ボーカリスト シーン・フィルキンスの1stアルバムWar and Peace & Other Short Stories。

シーン・フィルキンスがお茶を入れている状況を、なんとなく懐かしさを感じさせる英国ムードいっぱいのBGMに乗せて送る短いインストで幕を開ける#1。
のどかな#1から一転、ズ太いアナログ・シンセのスリリングな変拍子リフでいきなりリスナーの耳を釘付けにする#2。ゆったりとした叙情パートと、ギターのリフがリードするハードなパートで起伏を見せつつも、クリーンで真摯な歌声が統一した世界観を表現したドラマティックなナンバー。
続く#3,#4は総尺30分に及ぶ組曲。#3の冒頭、シタールとドローン音をバックに奏でられるフルートのメロディがエスニックなムードを湛えつつ、軽快でキャッチーな歌唱パートを経て後のサビで同じメロディが壮大かつメロディアスにリプライズされるという伏線を張った展開も見事。
少々落ち着いた感じの#4はBIG BIG TRAINを思わせる斬新な歌メロが印象的。
続く#5も5パートからなる20分超の大作。
シーンの娘さんが歌う、賛美歌のような瑞々しく敬虔な感じのオープニングのPT1。
深遠な思索路線のPT2では船員を惑わすセイレーンの歌声を、神秘的な女性スキャットで美しくも妖しく表現。
5拍子のインスト・パートがハードに展開するPT3。
アコギのカッティングと多層パッド系シンセに美くしいボーカル・メロディが乗ったバラードのPT4。
ここまでの雰囲気を引き継ぎ、強力な叙情メロディでより感動的に展開するPT5、と構成も完璧。
マンドリンやフルートの特徴あるトーンを優しく包み込むシンセがまろやかな質感を醸し出すセンチメンタルなバラード#6。

フックを随所に散りばめたニクいアレンジ、ジョン・ミッチェル(IT BITES)、ゲイリー・チャンドラー(JADIS)などによるツボを押さえたプレイ、シタールにアナログ・シンセやハードなギターなど展開に合わせたバラエティに富んだ楽器群などなど、シンフォニック・プログレ・ファンが求める要素が満載の傑作。

Track List

1. Are You Sitting Comfortably
2. The English Eccentric
3. Prisoner Of Conscience: Part 1 - The Soldier
4. Prisoner Of Conscience: Part 2 - The Ordinary Man
5. Epitaph For A Mariner Parts 1 to 5:
Part 1 - Sailor's Hymn
Part 2 - Siren's Song
Part 3 - Maelstrom
Part 4 - Ode To William Pull
Part 5 - Epitaph
6. Learn How To Learn

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YES / Fly From Here

2011,UK

英国のプログレッシブ・ロック・バンドYESの2011年作、Fly From Here。

80年代以降、目まぐるしくメンバー・チェンジを繰り返しながらバンドとしての看板を守り続けたYES。
今作Fly From Hereは、YESのトリビュート・バンドに在籍していたカナダ人 べノワ・デイヴィッド(Vo)以下、クリス・スクワイヤ(B)、アラン・ホワイト(Dr)、スティーヴ・ハウ(G)、ジェフ・ダウンズ(Key)というDrama以来となるジョン・アンダーソン不在のメンバー編成。そして何と、プロデュースはトレヴァー・ホーン、さらにDramaのアウトテイクだったFly From Hereを収録ということで、Dramaを名盤と信じる個人的には思わずニヤリの条件が揃いました。

中高音部ではジョン・アンダーソンに似た感じのべノワ・デイヴィッド、全体的にはジョン程の透明感や無垢なニュアンスには及ばないものの無難に違和感無くこなしています。

#1~#6の組曲は変拍子も交えた程良い緊張感をベースに、叙情や爽快感で起伏をもたせたドラマティックな佳曲。70年代の大作を彷彿させる構成に思わず頬を緩めるとともに、スティーヴ・ハウの独特な単音オブリガードが入ると、やはりYESらしさが増幅されます。
落ち着いた雰囲気のAORチューン#7。
アルペジオやコード・カッティングなどアコギがリードする洗練されたプログレッシブ・チューン#8。
ジェントルな歌唱がフォーク・タッチの伴奏に溶け込んだ#9。シンセ・ソロの上品なフレージングが、出しゃばらないジェフ・ダウンズらしいセンスを醸し出し、良いアクセントになっています。
ラテンなムードを漂わせたアコギによるインストゥルメンタル#10。エレキでは何かガチャガチャしたイメージのスティーヴ・ハウですが、アコギでは音楽的バックグラウンドの深みを感じさせるのは70年代から不変。
キャッチーでリラックスした中に、疾走感と7拍子のプログレ的展開を織り込んだ#11。

地味ながらツボを心得たジェフ・ダウンズのプレイと音色選択が、シンフォニックからポップ・チューンまでバラエティに富んだ楽曲群を上手くオブラートで包み込み、Drama期にAOR風味を加えたかのような上質な作品に仕上がっています。当然そこにはトレヴァー・ホーンの舵取りもあったわけで、一般的に低く評価されているDrama期YESのリベンジは大成功。
懐古でも前衛でも無い自然体のロック・バンドYESの姿がここに。

Track List

1. Fly From Here - Overture
2. Fly From Here pt I - We Can Fly
3. Fly From Here pt II - Sad Night At The Airfield
4. Fly From Here pt III - Madman At The Screens
5. Fly From Here pt IV - Bumpy Ride
6. Fly From Here pt V - We Can Fly Reprise
7. The Man You Always Wanted Me To Be
8. Life On A Film Set
9. Hour Of Need
10. Solitaire
11. Into The Storm

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WOBBLER / Rites at Dawn

2011,NORWAY

ヴィンテージ楽器のみで勝負するノルウェーのプログレッシブ・ロック・バンド WOBBLERの3rdアルバムRites at Dawn。

神秘的なイントロダクションの#1。
硬質でクールな7拍子リフに絡むメロトロン、YESの躍動感やGENTLE GIANT風コーラスなど70年代プログレの薫りを纏いつつ、各楽器が緻密に絡みつくアレンジとタイトな演奏力に現代的なインテリジェンスとテクニックも感じさせる#2。
ドライブするベース、シンセとギターのハーモニー、エレピやオルガン、シンセなど場面ごとに異なる多彩な鍵盤など、アンサンブルの妙を緩急と静動の起伏を付けた絶妙の展開で活かした12分超のプログレ大作#3。
アコギの7拍子アルペジオにフルートやメロトロンが絡む幽玄なパート、ピアノがリードするクールなジャズ風リフ、軋んだメロトロンがANGLAGARDANEKDOTENを彷彿させる北欧的慟哭激情メランコリー・パートなど、異質な要素を巧みに切り替えるドラマティックな#4。
トレモロ効果を持つ骨董楽器マクソフォンを使用した静かなイントロからメロトロンが唸る疾走パートに移行する#5。
ギター、ベース、サックスによる怒涛のユニゾン、メロトロンがむせび泣くメロウなパート、開放感あるテーマ・メロディ及びドラマティックなサビを持つ感動的な#6。
グロッケンをフィーチュアした神秘的なアウトロで#1に繋がる#7。

様々に展開しながらもやりっ放しで終わらず、きっちりと落とし所を用意した考え抜かれたアレンジ、それを可能にするプレイヤーの技量、ヴィンテージ・キーボードを活かしたダイナミクスある楽曲展開が魅力的なヴィンテージ・タイプのプログレ。
ボーカルはジョン・アンダーソン風なところもあるが、平坦で無機質なため表現力という部分では若干マイナスも、そのB級感が故の70年代っぽさで逆に奏功している。

Track List

1. Ludic
2. La Bealtaine
3. In Orbit
4. This Past Presence
5. A Faerie's Play
6. The River
7. Lucid Dreams

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KARMAKANIC / In A Perfect World

2011,SWEDEN

THE FLOWER KINGS/AGENTS OF MERCYのヨナス・レインゴールド(B)、AGENTS OF MERCYのラレ・ラーション(Key)が在籍するスウェーデンのプログレッシブ・ロックバンドKARMAKANICの4thアルバム In A Perfect World。本作よりニルス・エリクソン(Key/Vo)が加入し6人編成となりました。

YESの構築性とGENESISの叙情性を併せ持った、ドラマティックでスケールの大きな14分超のプログレ大作#1。
ヨラン・エドマン(Vo)の声質がマッチした往年の北欧メタルを彷彿させる透明感あるハード・ポップの#2。
ヨナスのこれまでの人生を描いたと言う#3。エッジの立ったギターのバッキングがハード・ロック風でいながら、マイルドなフレットレス・ベースのソロやウーリッツアーっぽいエレピ、メロトロンなどがアクセントとなり、8分超の楽曲中に様々な表情を見せる叙情プログレッシブ・ハード。
カリプソにヘヴィな7拍子リフ、ラップ風ボーカルが合体、メンバーのミュージシャン・シップの高さを証明する変態ポップ・チューン#4。
メロウな冒頭や美しいピアノのパートと、オブリガードの上昇フレーズが心地良いエネルギッシュなサビを対比させた#5。、超絶テクニックと音使いに冴えを見せるシンセに、ベースやギターのソロをたっぷりフィーチュアしたインスト・パートも曲もムードに巧く溶け込んでいます。
ファンキーなリズムに乗ってのダークなテイストの中にあって、ピアノのアルペジオをバックにしたシンセ・ソロが清涼感を運ぶ#6。
アコギをバックにした叙情ブルーズが、シンフォニックなシンセ・ストリングスのオーケストレーションを経て、メランコリックなピアノ・ソロに移行し、ラストは#1のメイン・テーマのリフレインでアルバムを締めくくる#7。

様々な要素を余裕のテクニックと音楽的素養で消化し、KARMAKANICテイストに昇華したメロディアスな傑作。
彼らとAGENTS OF MERCYがあれば、もうFLOWER KINGSは要らない、と極論したくなるほどFLOWER KINGS周辺が充実してますよ。

Track List

1. 1969
2. Turn It Up
3. The World Is Caving In
4. Can't Take It With You
5. There's Nothing Wrong With The World
6. Bite The Grit
7. When Fear Came To Town

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カテゴリー: KARMAKANIC

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STEVEN WILSON / Grace For Drowning

2011,UK

STEVEN WILSONの2ndソロ・アルバム Grace For Drowning。

制作が一連のKING CRIMSON旧譜リマスター作業と期間が被っていたようで、完全に思考及び嗜好モードがCRIMSONだったのでしょう。
メランコリックな歌メロ~不条理リフへの展開が明らかにKING CRIMSONのCirkusからの影響モロ出しのDisc2 #4をはじめ、全体の雰囲気はLIZARD~ISLANDS期KING CRIMSONのような静謐な美しさに溢れています。
主にピアノで作曲したという収録曲はリフ的な構造よりもメロディに主眼が置かれているようで、ジャズ系ミュージシャンを使用したバックの演奏も落ち着いた感じ。

Disc1 #3等でのメロトロンの叙情、Disc1 #2のホールトーン(全音音階)の緊張感(RED)、Disc1 #7,Disc2 #4の数学的メカニカルなリフ(DISCIPLINE)、とKING CRIMSONの全キャリアのエッセンスを忍ばせつつ、得意のブレイク・ビーツやエフェクトによるサウンド・スケープなど現代的な手法と、端整なストリングス、生々しく時にインテンスなサックスやDisc2 #5のファンタジックなオートハープによる装飾などオーガニックなトーンが溶け合い、メロディ・構造・構築性・サウンド、全てが美の元に収斂し、唯一無二のSTEVEN WILSONワールドを醸成。

自身の作品に似ているかどうかの感想を求められたロバート・フリップが、「私にはスティーヴン・ウィルソンにしか聴こえない」と答えたのも、これら影響を飲み込んだ上で個性を発揮してのけたスティーヴン・ウィルソンに対する賛辞でしょう。
まさに傑作。

Track List

Disc 1: Deform to Form a Star
1. Grace for Drowning
2. Sectarian
3. Deform to Form a Star
4. No Part of Me
5. Postcard
6. Raider Prelude
7. Remainder the Black Dog

Disc 2: Like Dust I Have Cleared from My Eye
1. Belle de Jour
2. Index
3. Track One
4. Raider II
5. Like Dust I Have Cleared from My Eye

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カテゴリー: STEVEN WILSON

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WHITE WILLOW / Terminal Twilight

2011,NORWAY

ノルウェーのプログレッシブ・フォーク・バンドWHITE WILLOWの5年ぶりとなる6thアルバムTerminal Twilight。

2nd~4thアルバムに参加していた美声のシルヴィア・エリクセン(Vo)が復帰。サウンドも前作のコンテンポラリー・ポップス路線から、メロディックなプログレ・フォークに素朴で時にダークかつ混沌とした要素を溶け込ませた初期のイメージに近いものに回帰。

シンセによるゆったりとしたアルペジオが神秘的で妖しいムードを醸し出すオープニングや屈折した歌メロが初期のテイストを想起させる#1。終盤にようやくポジティブなメロディの木漏れ日が差し込み、ここまでの暗鬱と対比。
シルヴィアの可憐なボーカルをフィーチュアしたキャッチーなコンテンポラリー・フォーク#2。
色んなところに客演しているゲストのティム・ボウネス(NO-MAN)とバンドの共作でティム自ら枯れた哀愁の歌唱を聞かせるメランコリックなフォーク#3。
シンセの重層的なアンサンブルでシンフォニックに高揚するインスト・パートが圧巻。ボーカル・パートではシルヴィアの素朴で可憐な歌声が楽しめるアルバム前半のハイライト#4。
シンプルなアルペジオにフルートやシンセが絡むイントロ~ボーカル・パートのポジティブなドリーミー感、ヴィンンテージ風オルガンとシンセで少々アヴァンな不条理パートを盛り込みつつも仄かな叙情を感じさせるインスト・パートの対比が見事なプログレ・フォーク#5。
北欧フォークロア風メロディを紡ぐ掠れたメロトロン、シンセを中心としたアンサンブルによるドラマティックなインストゥルメンタル#6。
ドリーミー、叙情、暗鬱と様々な表情を見せるボーカル・パートを、ロックなドラムとメロトロンを始めとした鍵盤群のバックが支える#7。フルートとギターのアルペジオによる寂寥パートから、オルガンのグリッサンドと共になだれ込む激情パートへのドラマティックな場面転換など、起伏に富んだ13分超の長尺曲。
12弦アコギのアルペジオがGENESISっぽい、爽やかでどこか神秘的な余韻でアルバムを締めくくるインスト#8。

優しいメロディがもたらす全体的な暖かみや大作#5,#7でのインスト・パートの構成力、巧みなシンセの音使いなど、垢抜けたメジャー・クラスのアレンジとサウンドに独特の屈折テイストを絶妙に配合したキャリアの集大成にして最高傑作。

Track List

1. Hawks Circle the Mountain
2. Snowswept
3. Kansas Regrets
4. Red Leaves
5. Floor 67
6. Natasha of the Burning Woods
7. Searise
8. A Rumour of Twilight

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PAATOS / Breathing

2011,SWEDEN

スウェーデンのプログレッシブ・ロック・バンドPAATOSの4thアルバムBreathing。

2006年の前作Silence of Another Kind以降、ライブ・アルバムSensorsをベースのStefan Dimleが経営するレコード・ショップ/レーベルのMellotronenからアナログでリリース(2008年)、ギタリストのPeter NylanderにRicard Huxflux Nettermalm(Dr)、Petronella Nettermalm(Vo)夫妻が参加した新ユニットELEPHANT CULTURE結成と、新作のリリースこそ無いものの順調に見えたPAATOSでしたが、2008年11月に衝撃が。

何と、オリジナル・メンバーのStefan DimleとJohan Wallén(Key)の脱退がMyspaceのブログで発表されたのだ。
しかも、この記事がしばらくすると削除されてしまうという不可解な状況もあり、遠く極東の1ファンとしては一体何がPAATOSに起こっているのか解る術も無く前途が心配された状況が続きました。
そして2009年4月に改めてブログで2人の離脱を報告、と共に新作に向けて作業を開始しているという嬉しいニュースも。
しかしバンドはここからさらに沈黙。
しばらくの間オフィシャル・サイトまでもが「工事中」で閲覧できず。でもこれは、新作リリースと同時にサイトをリニューアルするのだな、と好意的に受け取ることもできた。

そしてようやく2010年末、新作が2011年初頭リリースであることがアナウンスされた。
レーベルは良質なプログレ・バンドを多数要するドイツのInsideOut MusicからオランダのGlassville Recordsに移籍。このあたりの契約問題もブランクが長かった要因かも。
メンバーは残った3人に新メンバーUlf Rockis Ivarsson(B)を加えた4人体制。
ジャズのバンドや映画音楽の制作などマルチな才能を発揮するPeter Nylanderが鍵盤にトロンボーン、はたまたバンスリ・フルートなる民族楽器までプレイし、専任鍵盤奏者の不在をカバーしています。意外な所ではゲストのチェロ奏者として、イングヴェイ・マルムスティーンのバンドに在籍したこともあるスヴァンテ・ヘンリソンもクレジットされています。

白夜を思わせる醒めた高揚感とメロトロンが絡むサビのメランコリックな叙情が交錯する#1。
マイナー調なのにPetronellaの歌唱が炭火のような温かさをもたらす#2。
穏やかなフォークから、サビとインスト・パートでは一転して悲哀に転ずる#3。
Petronellaの澄んだ美声が楽しめるPAATOSらしいメランコリック・チューン#4。
ピアノ、管、スキャット、チェロなどが断片的なフレーズを絡ませるインスト小品#5。
Ricardの鮮烈なドラミングをフィーチュアした新機軸のプログレッシブ・チューン#6。
ミステリアスなインスト・パートを内包したメランコリックなタイトル・ナンバー#7。
物悲しいフレーズを奏でるアンビエントなピアノを中心としたサウンドスケープをバックに、スウェーデン語で切々と歌われる#8。
意外性のある洒落たコード進行に乗って、瑞々しいメロディが次々に展開していく#9。
オルゴールの小品#10。
Petronellaがチェロでもがんばる、#2同様にマイナーな中に温かみを感じさせる#11。
PAATOSが時折聴かせるスピード感のあるカッコ良いナンバー#12。

長いブランクで心配された音楽性の変化もさほど無く、それどころかバンドが影響を受けたPORTISHEADやBJÖRKなどのテイストをメランコリックな世界に巧みに消化・昇華したお馴染みのPAATOSらしさに、#6や#9など新たなテイストも加えた会心作ですねこれは。
悲哀の中の醒めた感触(あるいはその逆も)とでも表現したらよいのか、彼らにしか成し得ない独特の個性にますます磨きの掛かったアルバムです。

美声ボーカル・ファン、女性ボーカル・ファン必聴作。

Track List

1. Gone
2. Fading Out
3. Shells
4. In That Room
5. Andrum
6. No More Rollercoaster
7. Breathing
8. Surrounded
9. Smärtan
10. Ploing My Friend
11. Precious
12. Over and Out

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IT BITES / Map of the Past

2012,UK

英国のプログレッシブ・ロック・バンドIT BITES再結成第2弾にして通算5thアルバムMap of the Pastは、バンドのキャリア初のコンセプト・アルバム。タイトル曲自体は昨年からライブで披露していたようなので、当時から構想はあったのかもしれません。

ラジオのチューニング・ノイズ~足踏オルガン風の素朴な伴奏から壮大なオーケストレーションに移行する序曲#1。
静・動の起伏、テンポの変化、鮮烈なシンセ・ソロなど、5分弱のコンパクトな中においしい要素が詰まった#2。
トリッキーなスネアの裏打ちが効いたポップかつプレグレッシブな#3。コーラスやカラフルなシンセが織り成す胸キュンなサビのアレンジがIT BITESらしい。
ジェントルなバラード#4。壮大な中間部での移動遊園地風(?)ペーソスのあるキラキラ・シンセのオブリガードがまたもやIT BITESというかジョン・ベック(Key)の真骨頂。
洒落ていながらキャッチーでアップ・テンポな#5。前作ではあえて前任者フランシス・ダナリーに似せていたかのような部分もあったジョン・ミッチェル(G/Vo)も、歌唱やスリリングなギター・ソロで個性を十分に打ち出しています。
ポルタメントがたっぷりかかった転調しまくりなシンセ・ソロが聴き所なミディアム・テンポの#6。
シタールの味付けが印象に残るポップ・チューン#7。オルガン・ソロがGENESIS風のコード進行。
シンフォニックなオーケストレーションを配した#8。屈折したムードがこれまたガブリエル期GENESIS風。
ブ厚いシンセがリードするイントロからボーカルにエフェクトを掛けたミステリアスな序盤、快活な7拍子へのリズム・チェンジ、ジョン・ベックお得意の浮遊シンセを交えたサビ前から壮大なサビへのドラマティックな移行、等々、場面転換の妙が光る#9。
アルバムを静かに締めくくるバラード#10と#11。

相変わらずの音色センスとさりげないが存在感のあるシンセを操るジョン・ベックを中心にして、ポップかつキャッチーながら、英国的屈折と翳りを適度に配合したIT BITESらしいサウンドは健在。特に#7~#9あたりの英国度は高く、アルバム最大のハイライトとなっています。

Track List

1. Man in the Photograph
2. Wallflower
3. Map of the Past
4. Clocks
5. Flag
6. The Big Machine
7. Cartoon Graveyard
8. Send No Flowers
9. Meadow and the Stream
10. The Last Escape
11. Exit Song

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RUSH / Clockwork Angels

2012,CANADA

カナダのプログレッシブ・ロック・バンドRUSHの19thアルバムClockwork Angels。

2010年のタイム・マシーン・ツアーで披露されていた#1,#2を含む、スチームパンクと錬金術に基づいたコンセプト・アルバム。

#4,#6,#9などでストリングス・セクションが付加されているものの、ギミックは最小限。ライブでの再現を想定したであろう、リフを中心に構築されたストレートな楽曲が中心となっている。
ただし、リフの音使いは比較的オールド・スクールでありながら、キャッチーな歌メロを軸に、広がりのあるバッキング・ギター、硬質なベースと重いドラムが一体となり、時折挿入される変拍子も交えてソリッドで開放的な現代的RUSHサウンドに昇華している所が素晴らしい。

思索風味が入った#1、スティックでのカウントからバンド一丸となり怒涛のヘヴィ・パートに突入する#3、エキゾチックなムードを交えた#4やスリリングな#10などのエネルギッシュなファスト・チューン等々、インテリジェンスとエモーションのどちらにも訴えるカッコ良さ。

#9に代表される抜群の抜けの良さを持つアレックス・ライフソン(G)のギター、リフで主導する#6やランニングするフレーズが印象的な#10でのゲディ・リー(B/Vo)のベース、様々なフィルとヘヴィなヒットで楽曲を牽引するニール・パート(Dr)のドラムと、個々のプレイにも思わず耳に残るフックが満載。

時刻で2112を暗示したカヴァー・アートはRUSHの他、近年のDREAM THEATER作品などの仕事でも有名なヒュー・サイム。

Track List

1. Caravan
2. BU2B
3. Clockwork Angels
4. The Anarchist
5. Carnies
6. Halo Effect
7. Seven Cities of Gold
8. The Wreckers
9. Headlong Flight
10. BU2B2
11. Wish Them Well
12. The Garden

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PANIC ROOM / Skin

2012,UK

英国ウェールズの女性ボーカル・シンフォPANIC ROOMの3rdアルバムSkin。
アン・マリー・ヘルダー(Vo)をはじめ元KARNATAKAのメンバーで結成されたこのPANIC ROOM。ケルティックなテイストを残すKARNATAKAと比べると、よりコンテンポラリーで若干ハードなエッジも。

7拍子のメイン・リフを軸に静動の起伏を付けたドラマティックなオープニング・ナンバー#1。切れ込んでくるギターがメタルのエッジなのは同系統バンドとの差別化か。まろやかなフレットレス・ベースとの対比もおもしろいです。
ALL ABOUT EVEの湿り気を帯びたゴシック風味を想起させる#2。
弦楽四重奏の厳かなイントロから、一転してモダンなシンセ・リフに移行する#3。クールなシンセ・リフ部とダイナミックにロックするサビ、ダブルトラッキングのギター・ソロに絡むストリングスなど、異なる要素の融合が巧み。
アコギのカッティングとストリングスがリードするノリの良いフォーク#4。
パーカッションとモーダルなメロディがエキゾチックなムードを醸し出す#5。渋いギターやエレピのソロ、終盤のストリングスが良いフックとなっている。
プログレ然としたシンセ・ソロが印象的なコンテンポラリー・チューン#6。
エレキの爪弾きとアン・マリーのボーカルによる3拍子のデュオ#7。
スネアのスウィングした裏打ちパターンが独特のグルーヴを生み出すフォーク#8。12弦のアルペジオとスキャットが幽玄な空間を生み出しています。
アン・マリーが最高のパフォーマンスを聴かせるタイトル・チューン#9。ウィスパー風のヴァースから切なく歌い上げる感動のサビまでパーフェクト。優しく包み込むストリングス、雫が滴るようなピアノのアルペジオも良い。
メタル風な単音リフ&ハーモニクスで幕を開けるハード・ロック・ナンバー#10。
ボーカルを際立たせた淡々としたヴァースから、ヘヴィ・ロック風なサビに移行する#11。

何か特別に変わったアイディアやアレンジがあるわけではない、やっていることは単なるメロディック・ロック。
どこかで聴いたことのある良くありそうなメロディなのに、なぜか胸を締め付ける独特の翳り。
その鍵を握るのはアン・マリー・ヘルダー。彼女の強弱や音域で表情を変える翳りのある美声と表現力抜群の歌唱が素晴らしい。テクニックや声量を誇示するような野暮なマネは皆無。息継ぎも生々しく収録した、あくまでも自然体の絶品歌唱が楽しめます。
また、弦楽カルテットが絶妙にアレンジの隙間を埋め、楽曲に気品と陰影を与えると共にアルバム全体の統一感ももたらしています。

Track List

1. Song For Tomorrow
2. Chameleon
3. Screens
4. Chances
5. Tightrope Walking
6. Promises
7. Velvet & Stars
8. Freefalling
9. Skin
10. Hiding The World
11. Nocturnal

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FLOWER KINGS / Banks Of Eden

2012,SWEDEN

ドラマーにフェリックス・レーマン(Dr)を迎えた再始動FLOWER KINGSの5年ぶりとなるアルバムBanks Of Eden。

25分超の大作#1から往年のFLOWER KINGS節が炸裂。
モーダルでミステリアスなメインの歌メロを終盤にはメジャー調に変化させる心憎い演出に加え、ロイネ・ストルト(G/Vo)やトマス・ボーディン(Key)のオルガンなど楽曲のカラーを決定する楽器群のトーンがオーガニックで生々しく、適度な空間的余裕とあいまって演奏そのものを純粋に楽しめるアレンジが素晴らしい。
エンディングはメロディをあえて解決する音で終わらせず、余韻を残して伏線を匂わせます。
イントロのプログレ然とした上り詰めるようなシンセの単音リフにギターが絡み、スペイシーなムードのボーカル・パートに移行する#2。ギター・ソロではナチュラル・ディストーションのトーンが活き活きしています。
ミステリアスなムードで7拍子中心に進行する#3。
シンセとギターによるメイン・リフ、ロイネの深みある歌唱とエモーショナルなギター・ソロなど、随所に顔を出す叙情的メロディと静動の起伏でドラマティックに仕上がった初期の叙情を彷彿させる#4。
#1のメイン・メロディを今度はマイナー調に変化させ壮大なスケールで展開する#5。#1の伏線をここで解決するというよくあるパターンながら、これだけのクオリティでやられると誰からも文句は出ないでしょう。

ボーナス・ディスクはシリアスな新作のカラーとは違った4曲を収録。
FLOWER KINGSらしいバラエティに富んだ秀作揃いで、歌にギターにロイネのカラーが前面に出ているのが嬉しく、大いに楽しめます。

ロイネの苦味を抑えた歌唱がイイ感じの、伸びやかなシンフォニック・ポップ#1。
リズムのアクセントを巧みに使ったキャッチーな#2。
メロウなインストゥルメンタル#3。
ジミヘン・スタイルなリフを軸にしたレトロなロックの意匠とメロトロンなどプログレな要素が融合した#4。

待望の新作は全体的にロイネのカラーが濃く、新加入のフェリックス・レーマンのドラミングも軽やかなフィルやボーナス#2冒頭の3拍子で4連を叩く意外性のあるフレージングなど、他メンバーを触発するバンドのエンジン役として貢献。

Track List

1. Numbers
2. For The Love Of Gold
3. Pandemonium
4. For Those About To Drown
5. Rising The Imperial

Bonus Disc
1. Fireghosts
2. Going Up
3. Illuminati
4. Lo Lines

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SHADOWLIGHT / Twilight Canvas

2012,UK

英国のプログレッシブ・ロック・バンドSHADOWLIGHTの1stアルバムTwilight Canvas。

ヴィンテージ・キーボードの古式ゆかしい響きやテクニカルなアンサンブルをフィーチュアした複雑な楽曲構成など、いわゆる懐古プログレ的な手法を前面に出すのでは無く、全体的にはボーカル・メロディを主軸にしたダーク寄りのオーソドックスでメロウなロック。
鮮烈な7拍子リフの#1、5拍子を自然に聴かせつつ静動の起伏を付けた#5のように、変拍子を目的では無く表現手段のひとつとして消化しているところに好感が持てる。

#4,#6,#7,#9などメロウな楽曲ではアンニュイとも言えるボーカルが、翳りを交えたキャッチーなメロディ・ラインに巧く溶け込み、エレピやオルガンなど派手さは無いが手堅い音色チョイスの鍵盤によるセンス良いプレイが支えてジワジワと叙情を醸し出している。
ところが、抜けの悪い声質に加えてボーカルパートの音量レベルが低く、ヘヴィ・メタルの影響が伺えるヘヴィなバッキング・リフのあるパートではその控え目というか若干弱いボーカルが紡ぐせっかくの良メロディが埋もれがちなのが少々残念。

シンフォニックなシンセ・ストリングスが活躍する#4の素晴らしいピアノ・ソロや#6のインスト・パートなど、陶酔感に浸れる音響表現はPINK FLOYDやPORCUPINE TREEにも通ずる英国らしさで、繰り返して聴きたくさせる力を持っています。

Track List

1. Dreaming Awake
2. Beauty Dies
3. Monochrome Dream
4. Winter
5. Different Light
6. Cutting Room
7. Black Swan
8. Reprise
9. 3am Forever
10. Evenfall

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カテゴリー: SHADOWLIGHT

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SILHOUETTE / Across The Rubicon

2012,NETHERLANDS

オランダのプログレッシブ・ロック・バンドSILHOUETTEの3rdアルバムAcross The Rubicon。

古代ローマのカエサルの故事にちなんだ壮大なタイトル(実際はルビコン川はローマ国境を示す単なる小川。物理的な意味合いよりも軍隊をローマ国境内に入れるという当時の法を破る重要な決断という象徴的な意味がある。)から連想される期待に応える、70年代のプログレ・バンドの如くロマンティックでシンフォニックなサウンド。

全編をシンセ・ストリングスの分厚いオーケストレーションが覆う中、レズリーの回転数変化にもこだわったオルガンや、おそらくサンプルながら要所で効果的に使用されるメロトロン、各楽曲のテーマ・リフレインを奏でる本物モーグのファットなトーンが印象的で、プログレ・マニアの心をくすぐります。
メロディも妙なヒネリを入れたり、ジャズ・ロック風に逃げて変にバリエーションを増やそうとはせず、ひたすら素直で叙情的な美メロによる直球勝負なのが潔くて好感が持てます。
70年代の様式美、80年代のキャッチーさ、ポンプ・ロックの過剰な壮麗さ、などなど様々な要素をロマンティックに集約。
8曲中3曲の11分超え長尺曲の間に小品群を配置した、アルバムの物語にすんなり没頭できる曲順構成もなかなか巧み。特に冒頭4曲の流れが完璧。#4でテーマ・メロディが少年クワイヤに継承される部分は感動で痺れます。
メンバー達のプログレ愛が滲み出た好作品。

Track List

1. Across The Rubicon
2. Breathe
3. Empty Places
4. When Snow's Falling Down
5. Anybody
6. Grendel Memories
7. Nothing
8. Don't Stop This Movie

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ANGLAGARD / Viljans Öga

2012,SWEDEN

スウェーデンのプログレッシブ・ロック・バンドANGLAGARD 18年ぶりのスタジオ3rdアルバムViljans Öga。ギターが一人抜けて5人となり、一部ゲストも参加している。

フルートを全面的にフィーチュア。感情移入できるリード楽器としてギター以上にメイン・メロディを奏でる機会が多く、メロトロンをバックにした静寂パートでの儚さ、ヘヴィな暗黒不条理リフと絡んだ時の狂気、など、起伏に満ちた楽曲のその時点での立ち位置を雄弁に表現。全曲インストゥルメンタルにもかからわず、聴き手のイマジネーションを刺激してきます。
ゲストのチェロや各種管楽器を交えた部分でのクラシカルな響きから、アヴァンギャルドというよりは北欧ならではの凍てついたエキゾチックさを漂わせた妖しい場面まで、それぞれ12~16分の長尺全4曲ながら、音楽的アイディアのレンジも広く予測不能の展開で全く飽きさせない。

楽器群は、リッケンバッカーと思しきバキバキなベース、幽玄なメロトロン、グリッサンドが唸るオルガン、そしてギターに管弦とオーガニックな響きがヴィンテージかつ時代を超越した不思議なムードを醸し、ANGLAGARDならではの独特の世界観が成立。
白眉は不条理リフでヘヴィかつスリリングに進行しながらチェロを交えた耽美なパートを織り交ぜ、一転してメランコリックなクライマックスを用意した#3。
KING CRIMSONのStarlessを想起させる暗黒的ドラマティックさに悶絶必至の名曲です。

Track List

1. Ur Vilande
2. Sorgmantel
3. Snårdom
4.Längtans Klocka

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