変拍子 のレビュー

TAIKA / Aware

2014,日本

日本のプログレッシブ・ロック・バンドTAIKAの3rdアルバム Aware。

6/8拍子での高橋在也(Pf)のピアノに絡む妙(Vo/Accordion)のアコーディオンというイントロからTAIKAらしさ満点の#1。
Dani(B)のベースが提示する7拍子パターンがリードするミステリアスな#2。曲調が徐々に激しさを増し、それに呼応して谷本朋翼(Dr)がスネアを入れてくるアレンジがカッコ良い。
ベースのハーモニクスと緩い感じのアコーディオンに煌びやかさを少々抑えたピアノのアルペジオが印象的な、TAIKAには珍しい明るい希望的なサビを持つ#3。勿論、7拍子に超絶ベース・ソロとTAIKAの器楽的な魅力も。
ゆったりとした3拍子でトライバルなタム回しがリードする前半から大きなスケールに展開する#4。
6/8拍子の典型的なTAIKAチューン#5。歌メロを継承しながら軽やかに発展させていくピアノ・ソロとそれに続くアコーディオン、静かなパートでの場面転換など多彩なフックで聴き手を引き込む。
寂寥感と優しさが同居したボーカル、柔らかいタッチのピアノ、和音も駆使したベース・ソロが珍しい4拍子に乗るTAIKA風バラード#6。
ダークな序盤から明るさと躍動感へとドラマティックに移行していく#7。2012年の皆既日食にインスパイアされた楽曲だそうで、なるほど納得。
高速5拍子を軸に展開する#8。ボーカルとシンクロしたドラム、間奏前のジャジーなリズム・チェンジ、ファズ・ベースの超絶攻撃的ソロなど聴き所満載のプログレッシブ・チューン。
間奏のオーバーダブしたスキャットや捻った歌メロなど、神秘的なイメージの#9。
ピアノが提示したモチーフにユニゾンで被せていくアコーディオン、静と動のドラマティックな対比、ピアノ・ソロのバックで徐々に手数を増していくリズム隊等々、理想的なTAIKA典型チューンの#10。

シンプルな楽器編成とムードから受ける第一印象を色でたとえると鈍色(にびいろ)といった感じのTAIKAではあるが、変拍子をさらりと聴かせてしまう高度なアレンジ、#8や#10に代表されるスタイリッシュな独特のグルーヴ感、繊細な妙のボーカルなど各要素が絶妙な配合で華を添え、このメンバーのTAIKAとしてでしか出し得ない独自の世界を醸成している。もはや孤高といっても差し支えないだろう。

妙によるライナー・ノーツはこちら

Track List

1. Alive
2. Gate of Abyss
3. 白き光芒
4. Red Ground
5. 風の標
6. Color to Remind ~ 水底の世界II ~
7. eclipse
8. Immortal Fate
9. Deep into the drowse
10. 渡り鳥

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カテゴリー: TAIKA

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BIG BIG TRAIN / Wassail

2015,UK

英国のプログレッシブ・ロック・バンド BIG BIG TRAINの2015年作EP Wassail。

イングランド西部に中世初期から伝わる伝統行事をテーマとした#1。フィドルやフルート、マンドリンが演出するトラッド風モーダルなメロディをフィーチュア。サビはBIG BIG TRAINらしく堂々たるシンフォニック。
繊細な12弦ギターとジェントルな歌唱及びコーラスによる仄かに叙情薫るキャッチーなヴァースから、テンポと拍子の大胆な変化で激情クライマックスへとドラマティックに展開する#2。GENESISの系譜を継承するBIG BIG TRAINならではの端正な英国風サウンドにストリング・セクションもマッチしている。
19世紀ロンドンの貧困層のひとつ 泥ひばりを題材にしペーソスを漂わせる、簡素なコーラス以外はほぼインストゥルメンタルの#3。序盤の9/8拍子から3拍子そして4拍子へと自然に拍子を変化させるセンスはさすが。
The Underfall Yardに収録された楽曲のスタジオライブ#4。こだまのように折り重なる多重コーラスが美しい。

直近のEnglish Electric 2部作で近代~現代英国の日常を生きる人々を温かく描写。今最も英国らしいプログレを聴かせるBIG BIG TRAINによる、新作フルアルバムへの期待を煽るEP。

Track List

1. Wassail
2. Lost Rivers of London
3. Mudlarks
4. Master James of St. George

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BAROCK PROJECT / Skyline

2015,ITALY

イタリアのプログレッシブ・ロック・バンドBAROCK PROJECTの4thアルバムSkyline。

爽やかな多声コーラスで幕を開ける#1。5拍子をベースにメロディアスな歌メロを乗せ、ブラスやストリングスを要所で効果的に使用し明朗かつ希望的に展開するFLOWER KINGS風シンフォニック・ロック。
オルガン中心でELPを彷彿とさせつつ、シンセが入る部分ではELPはELPでもEMERSON LAKE & POWELLのようなポップ性も伺わせながら弾むようなリズムで爽快に進行。非常にテクニカルでありながらそうとは感じさせないメロディとアレンジの妙が際立つクラシカルなインストゥルメンタル・チューン#2。
乾いたウェスタン風フォークを軸に、端正なクラシカル・パートやヘヴィなパート、シンフォニックなインスト・パートを内包する10分超の大作#3。NEW TROLLSのヴィットリオ・デ・スカルツィ(Vo/Fl)をゲストに招き、ヘヴィネスとクラシカルが融合したアレンジをバックにフルートのソロをフィーチュア。
ミステリアスなムードを演出するシンセの小技が効いたドラマティックな#4。
クールなフォーク・パートとクラシカルなパートが表裏一体となった#5。清涼感あるコンテンポラリーなパートからクラシカルな叙情への展開が意外性を伴いハッとさせられる。
語りかけるようなジェントルなボーカルをピアノ、アコギ、ストリングス・セクションが支える気品あるバラード小品#6。
洒落たジャジーなコード進行がフックとなった、ファンキーな中に少々ペーソスを効かせた#7。
STYXのような産業ロック的キャッチーさを持った歌メロやスリリングなプログレ・ハード風インスト・パートを内包。ストリングスによるクラシカルなデコレーションを施したスケールの大きな#8。
クラシカルでメランコリックなバラード#9。
中期GENESISや初期FLOWER KINGSのような突き抜ける爽快感を持ったイントロが印象的なシンフォニック・ロック#10。晩夏を思わせる寂寥感が心地良い余韻となっている。

全編に良質な歌メロが散りばめられており、テクニカルで壮麗な器楽要素が満載でありながら散漫にならずに芯の通った作品となっている。その歌メロもイタリア的な甘いものからクラシカル、コンテンポラリーなどバラエティに富んでおり、中心人物ルカ・ザッビーニ(Key/B)の音楽的素養の高さが伺える。
アルバム・タイトルから連想したと思しきシュールなジャケット・アートは、GENESISの作品でお馴染みのポール・ホワイトヘッドによるものでちょっと古臭いタッチが微妙。洗練された音楽性からはヒュー・サイムとかの芸風が合っている気がする。

Track List

1. Gold
2. Overture
3. Skyline
4. Roadkill
5. The Silence of Our Wake
6. The Sound of Dreams
7. Spinning Away
8. Tired
9. A Winter's Night
10. The Longest Sigh

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SPOCK’S BEARD / The Oblivion Particle

2015,USA

アメリカのプログレッシブ・ロック・バンドSPOCK’S BEARDの12thアルバムThe Oblivion Particle。

静と動の対比、ダイナミズムと各パートのタイトなアンサンブルで聴かせる典型的なSPOCK’S BEARDチューンの#1。
爽やかな3声コーラス、深遠なメロトロン、耳にひっかかる奇妙なリフなど様々な要素が違和感なく展開。アレンジの妙が冴える#2。
アコギとフルート風シンセの音色が印象的。アメリカンなポップさがの中に自然な拍子チェンジも交えたキャッチーな#3。
ジミー・キーガン(Dr)がリード・ボーカルを担当。シタールやマンドリンを使用したレトロなムードの中に不思議と未来感覚を合わせ持った#4。
マイナー調のメロディックな歌ものナンバー#5。
ドラマティックな切り返しや妖しいメロディに次々と展開していくインスト・パートなど、シアトリカルな要素が満載の#6。
ピアノのエチュード風フレーズから始まり、ミステリアスとコミカルが同居したSPOCK’S BEARDらしいリフレインを経てスケール感のあるキャッチーなシンフォニック・ロックに移行する#7。インスト・パートではシンセとギターのクラシカルなハーモニー・プレイで聴かせる。
スペイシーなスケール感を持ったミディアム・スローの思索系ナンバー#8。
KANSASのデヴィッド・ラグスデール(vln)が参加したスリリングなインスト・パートを内包したセンチメンタルなバラード#9。

テッド・レオナルド(Vo)とジミー・キーガンが加わった前作と同じメンツで制作。テッド・レオナルドは#2、#3を作曲するなど創作面でも存在感を確立。
キャッチーな歌メロと捻ったクセのあるアレンジというSPOCK’S BEARDらしさは相変わらずだが、全体的には普遍的なアメリカン・ロック成分が増えた印象。そんな中、#1のソロでのアグレッシブなアーミングや#7のトレモロを掛けたオブリガードなど、アラン・モーズ(G)が随所に個性を発揮。全編に渡って使用されるメロトロンとあいまって、SPOCK’S BEARDとしての記名性を高めている。

Track List

1. Tides of Time
2. Minion
3. Hell's Not Enough
4. Bennett Built a Time Machine
5. Get Out While You Can
6. A Better Way to Fly
7. The Center Line
8. To Be Free Again
9. Disappear

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THE TANGENT / A Spark In The Aether

2015,UK

アンディ・ティリソン(Key/Vo)率いる英国のプログレッシブ・ロック・バンドTHE TANGENTの8thアルバム A Spark In The Aether。The Music That Died Alone Volume Twoをサブタイトルとし、1stアルバムの続編であることを宣言。

シンセのテーマ・リフと7拍子を軸に進行する明るく躍動感あるオープニング・チューン#1。
イントロのミニマルなモチーフにコード・カッティングを絡めるオルガンがカンタベリーなようでUK風でもある#2。シンセが入ると一気に快活なシンフォニック・プログレへ展開。ヨナス・レインゴールド(B)のメロディアスかつドライブ感あるプレイがリード。ジャズ・ロック然としたインスト・パートでは、ハーモニクスとアーミングも交えてトリッキーなソロを聴かせるルーク・マシン(G)のインテンスなプレイが強烈なアクセントとなっている。
テオ・トラヴィス(Sax/Fl)のフルートが軽やかな装いをもたらす、リラックスした歌ものジャズ・ロック#3。
#3のテーマをスパニッシュ風アコギで引継ぎ、妖しいフルートからムーディなサックスのインプロヴァイズに移行するダークなインストゥルメンタル#4。
グルーヴィなメイン・テーマを中心に緩急と陰陽で彩った6パートからなる21分超の組曲#5。
#1のパート2。静寂からサックスやギターのソロ・パートを経て、より躍動感を増したテーマ・メロディをリプライズする#6。

アンディ・ティリソン独特の味わいの歌唱や随所に見せるカンタベリー・ミュージック由来の洒脱に、往年のプログレを彷彿させるシンフォニック感をまぶしたTHE TANGENTサウンドはもはや保証書付き。
現代プログレッシブ・ロック・バンドの中でも比較的安定した活動で常に水準以上のアルバムを制作するTHE TANGENTだが、今回は2011年のアルバムCOMMの制作やツアー・バンドで参加していたテクニカルでフラッシーなフレーズを聴かせる技巧派ギタリスト ルーク・マシンが復帰。全ギター・パートのアレンジやミックスにまで関与する活躍ぶりで、楽章形式でロック・オーケストラを展開した前作Le Sacre Du Travailから一転してのシンプルなロック回帰にフォーカスした新作に貢献している。

Track List

1. A Spark in the Aether
2. Codpieces and Capes
 a. We've Got The Music!
 b. Geronimo - The Sharp End Of A Legacy
 c. Trucks & Rugs & Prog & Roll
 d. A Night At Newcastle City Hall, 1971
 e. We've Got The Music! (Reprise)
3. Clearing The Attic
4. Aftereugene
5. The Celluloid Road
 a. The American Watchworld
 b. Cops And Boxes
 c. On The Road Again
 d. The Inner Heart
 e. San Francisco
 f. The American Watchworld (Reprise)
6. A Spark In The Aether (Part Two)

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DREAM THEATER / The Astonishing

2016,USA

DREAM THEATERの新作The Astonishingは、ジョン・ペトルーシ(G)による壮大なオリジナル・ストーリーを元にしたCD2枚組のコンセプト・アルバム。
アルバム発表後のツアーでは、アルバム丸ごと再現もアナウンスされている。

ミュージシャンやバンドがアルバムとして音楽をリリースすることの意義が薄まってきている、音楽がデジタル・コンテンツとしてファイル単位で購入・消費される現代。
音楽メディアの売上が右肩下がりの一方で、音楽を生で体験できるライブの動員は盛況だという。
一部のビッグなミュージシャンで、新曲を無料で配布しライブに集客する為のツールとして捉えるという動きもある。
そう、かつては『アルバムをリリースし、それをライブ・ツアーでプロモーション』というサイクルが、今や『新音源をプロモ的に使用、ライブ・ツアーに動員しグッズも合わせて大儲け』という図式にビジネス・モデルが変容してきている。

そんな潮流に沿って、コミックや小説あるいは映像作品と連動させたマルチ・メディア作品の一部として音楽をアルバムという形で世に問う、というフォーマットに挑戦する動きが出てきている。
DREAM THEATERの2016年新作The Astonishingもそんなムーブメントの中のひとつに数えることができる。
だが、DREAM THEATERの場合は、商売上手なレーベル Roadrunner Recordsのバックアップもあり、リリース前からWEB上で物語にまつわるマップや登場するキャラクターなどの視覚要素を情報発信する斬新さに加え、音楽についてもプラハ・フィルハーモニック・オーケストラを贅沢に使用する妥協の無さで一線を画している。

さて中身の方はというと、従来のプログレ・メタルな側面にオーケストラを導入したシンフォニックな側面が自然に融合、ドラマのワンシーンのようなSEも交えながら一気に描ききる手法が見事。CDのAct IとAct IIがアナログ・レコードでいうA面B面のように、丁度良いインターバルをリスナーに提供。トータル130分もの長大な音楽の旅をリスナーのスタイルに合わせて楽しめるようになっている。

まずはAct I。
物語の世界観を表すノイジーなSEの#1。
オーケストラからゴスペル風コーラスまで動員、重苦しいメロディから美麗メロディまで様々なテーマを提示、以降の物語の起伏を予感させる序曲#2。
北米プログレ・ハードなテイストを漂わせる#3。
フォーク・タッチの穏やかな#4。
軍靴と扇情的な演説のSEで始まるマイナー・キーのシリアスなナンバー#5。
不穏な空気を継承したミュージカル風#6。
マイルドなギターによるメロディアスなイントロからファンファーレを経てヘヴィに移行する#7。
壮大に盛り上がるバラード#8。
映画のサウンドトラックのようなストリングスを冒頭に配したバラード#9。終盤には#7のファンファーレのメロディがキーを変えて登場し再び不穏なムードへ。
スリリングに展開するミュージカル・ナンバー#10。
無機的なSEの#11。
軍靴SEと勇壮なファンファーレで戦いを暗示する冒頭からピアノ・バラードへ移行する#12。
コンテンポラリーなタッチのイントロとフックのあるメロディを持つ#13。
ピアノをバックに左右にパンニングされるリバーブたっぷりのボーカルで紡ぐ、ヘヴィなパートも内包した#14。
ジェイムズ・ラブリエ(Vo)のスウィートな歌唱とジョン・ペトルーシのエモーショナルなギター・ソロで酔わせるバラード#15。
神秘的なピアノと不穏なヘヴィ・リフがSEを交えて行き来する#16。
再び無機的なSEの#17。
穏やかな序盤からボーカル・メロディがアルバム冒頭のテーマをなぞりながらヘヴィに変化。バグパイプが奏でるメロディが希望を感じさせる#18。
アルバムのテーマ・メロディを巧みに融合したボーカル・パート。ギターとシンセの各ソロに続くハーモナイズ・プレイも出色の#19。フェードアウトで終了するのが意外な感じも。
オーケストレーションやクワイヤを総動員し物語前半を締めくくりつつAct IIへの期待もそそる中締めエンディング・チューン#20。メロトロンの音色が郷愁を誘う。

続いてAct II。
全体としては希望的ムードに包まれつつも、不穏なテーマが見え隠れするオープニング#1。
ヘヴィなギターのカッティングとツーバス連打がシンクロするリフ、ギター/ベース/シンセによるテクニカルなハーモナイズ・パートを配したインストもカッコ良い、メロディアスなメタル・チューン#2。
ガラスのように繊細な12弦アコギのアルペジオ、マイルドなシンセ、女性スキャットが神秘的なムードを醸成する前半からヘヴィなパートを挟み、雫のようなピアノで幕を閉じる#3。
ピアノとアコギにストリングス・セクションが絡み、ジェイムズ・ラブリエの歌声が伸びやかに響く美バラード#4。
オケとクワイヤがバンドのテクニカルなアンサンブルと見事に融合。スリリングなインスト・パートに被さる戦闘シーンのSEなどの仕掛けも含めて完成度の高いミュージカル的メタル・チューン#5。
不気味さを増した無機的SEの#6。
不条理リフと不穏なボーカル・メロディが不安を煽る#7。ラストの戦いに敗れたかのようなSEが次への期待をそそる。
ジョーダン・ルーデス(Key)によるインテンスなシンセ・ソロを配したダークなナンバー#8。
#7のラストは登場人物Faytheだったのか。むせび泣く人々のSEから始まる神々しいバラード#9。
ピアノとストリングス・セクションが包み込む、悲しくも美しいバラード#10。
郷愁を誘うフィドルがアクセントとなりクワイヤを中心に壮大に盛り上がる#11。
希望的メロディで満ちた、開放感あるメロディアスなハード・ロック#12。
ノイズ音の終焉を暗示するSE#13。
#1のポジティブなテーマが再登場。大団円を迎える#14。長尺アルバムのラストとしては意外とあさっりしているのが逆に好感。

演奏のベクトルがサーカス的な器楽要素よりも物語の進行に向けられ、感傷的な部分でのストリングス、戦いを暗示するブラスと、オーケストラのキャラクターを存分に活かしたアレンジとあいまって作品の完成度を高めている。

DREAM THEATERのコンセプト・アルバムというと、名盤 Metropolis PT2 : Scenes from a Memoryが想起される。しかし、Scenes from a Memoryがミステリアスな謎解きをリスナーに迫る知的好奇心をくすぐる現代劇だった一方で今作は中世風ファンタジーということで、同じことは繰り返さないというバンドとしてのプライドも覗く。
聴くほどに、この物語を生で味わいたいという欲求が高まってくる。つまり、この時点で既にDREAM THEATERの術中に嵌ってしまっていることになるわけで。
その一方でお腹いっぱいの反動か、Train of Thoughtのようなシンプルなアルバムも聞きたくなってくる不思議な効果もある。
どうころんでも勝者はDREAM THEATERということか。

Track List

Act I
1. Descent of the NOMACS
2. Dystopian Overture
3. The Gift of Music
4. The Answer
5. A Better Life
6. Lord Nafaryus
7. A Savior in the Square
8. When Your Time Has Come
9. Act of Faythe
10. Three Days
11. The Hovering Sojourn
12. Brother, Can You Hear Me?
13. A Life Left Behind
14. Ravenskill
15. Chosen
16. A Tempting Offer
17. Digital Discord
18. The X Aspect
19. A New Beginning
20. The Road to Revolution

Act II
1. 2285 Entr'acte
2. Moment of Betrayal
3. Heaven's Cove
4. Begin Again
5. The Path That Divides
6. Machine Chatter
7. The Walking Shadow
8. My Last Farewell
9. Losing Faythe
10. Whispers on the Wind
11. Hymn of a Thousand Voices
12. Our New World
13. Power Down
14. Astonishing

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FROST / Falling Satellites

2016,UK

英国の新感覚プログレッシブ・ロック・バンドFROSTの3rdアルバムFalling Satellites。
しばらく音沙汰が無かったが、ジェム・ゴドフリー(Key/Vo)はそのセンスと演奏力を買われてジョー・サトリアーニの2012年G3ツアーに参加したり、FROSTとしてスタジオ・ライブをリリースしたり、ジョン・ミッチェル(G/Vo)は個人のプロジェクトLONELY ROBOTでアルバムをリリースしたり、と忙しくしていた模様。

アルバムのイントロ的な小品#1。
無機的なシンセのシーケンス・リフとエモーショナルなサビが融合。これぞFROSTと思わず膝を打つ、心地よい疾走感を持った3拍子のスタイリッシュなナンバー#2。
DAWでの編集では無くシンセに搭載されたフレーズ編集機能を使用したと思われる#3。ハイテク機械の動作音や衝撃音などのSEやサンプリングした演奏の断片をデジタルで再構成し、ロックな躍動感を演出する手法が斬新。
キャッチーなメロディに耳が行きがちだが実は5拍子や7拍子など複雑に拍子が入れ替わる#4。
ゲストの女性ボーカルと煌びやかなシンセがムーディで幻想的な世界を醸し出すメロウな#5。
スタジオ・ライブ作The Rockfield Filesでいち早くお披露目されていた#6-a Heartstrings以降は組曲となっており、#6で提示された様々なモチーフが組曲を構成する各曲に登場する。
#6-a自体はThe Rockfield Filesでのライブ・バージョンのカッコ良さとキャッチーさはそのままに、サビでのシンセ・オーケストレーションが厚くなり、よりシンフォニックさを増した印象。スリリングなポリリズムがリスナーを幻惑する中間部インスト・パートも、ネイサン・キング(B)とクレイグ・ブランデル(Dr)のリズム隊がバンドに馴染み、ヘヴィさを増している。
終盤にロックなインスト・パートを持つ、ハワード・ジョーンズ風シンセ・ポップ・ナンバー#6-b。
クレイグ・ブランデルの手数王ドラミングが緩急と静動を巧みにリードする21世紀型プログレ・チューン#6-c。
#6-aのリフを軸にシンセのオーケストレーションを施した#6-d。前半のヘヴィでダークなムードから、テーマ・メロディを経て終盤は希望的パートや疾走歌唱パートに発展。
#6-aのテーマ・メロディを長い白玉にし、ブ厚く重ねたシンセで織り込んだシンフォニックなサウンドスケープ#6-e。
組曲のラストであるとともに、#1と対比させたタイトルでアルバムを締めくくるピアノ・バラード#6-f。

FROSTといえば、単なる装飾やソロに止まらずリフとして楽曲をリードするなどグイグイ来る芸風のジェム・ゴドフリーによるズ太いデジタル・シンセが最大の特徴だが、今回もこれは継続。また、機材マニアのジェム・ゴドフリーならではの味付けも施されており、現代的なプログレの旗手としての存在感は絶大。IT BITESのジョン・ベックも最新機材の使い手だったが、ジェム・ゴドフリーもその系譜を継承しつつダンス系のビートも取り入れて現在進行形のプログレッシブなロックを創造している。

Track List

1. First Day
2. Numbers
3. Towerblock
4. Signs
5. Lights Out
6.
a. Heartstrings
b. Closer To The Sun
c. The Raging Against The Dying Of The Light Blues
d. Nice Day For It.
e. Hypoventilate
f. Last Day

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BIG BIG TRAIN / Folklore

2016,UK

近世イギリスの市井の人々をテーマにした楽曲を綴った2作のEnglish Electricアルバムを経て、BIG BIG TRAINが9thアルバムに冠したタイトルはFolklore。

ストリングスと管による端正なイントロに続くエキゾチックなテーマが楽曲のカラーを象徴するタイトル・トラック#1。フォークロア風メロディを従来のBIG BIG TRAINらしい抒情メロディに融合。重厚なオルガンやプログレ然としたアナログ・シンセ・ソロなど器楽要素も盛りだくさんで、ニュー・アルバムの素晴らしいプレゼンとなっている。
アコギのアルペジオとフルートに導かれるメロウな歌唱パート、一転してテンポアップしてのカンタベリー風ジャズ・ロック的硬質なインスト・パートを持つ抒情プログレ・チューン#2。
優しく包み込むブラス・セクションと美しいコーラスに耳がいきがちだが、実は凝った変拍子を軸に進行するジェントルなナンバー#3。
優雅なストリングス・セクションをフィーチュアした小品#4。
柔らかいブラスと澄んだストリングスが絡み合う透明感溢れるイントロから、妖艶なアルペジオからのムーディな歌唱パートへ展開する#5。
フィドルと呼んだ方が相応しいヴァイオリンのメロディ、トラッドな質感のボーカル・メロディ、そして堂々たるサビに至るフォークロア・シンフォ#6。
中間部のインスト・パートやボーカル・パートでGENESISのヴァイブを感じさせる、起伏に満ちたアルバム随一のロック・ナンバー#7。
5拍子に乗って進行するスリリングなインスト・パートを内包した12分超のプログレ・チューン#8。
リラックスしたムードの歌モノ#9。

最も英国らしい抒情サウンドを持つBIG BIG TRAINがトラッドをも取り込み、もはや孤高の域に達した感も。
寓話や童話を題材に当時の英国事情を楽曲に投影していたGENESISの姿を彷彿させるものがある。

Track List

1. Folklore
2. London Plane
3. Along the Ridgeway
4. Salisbury Giant
5. The Transit of Venus Across the Sun
6. Wassail
7. Winkie
8. Brooklands
9. Telling the Bees

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THE WATCH / Seven

2017,ITALY

イタリアのGENESISフォロワーTHE WATCHの7thアルバムSeven。

ギター・ソロにおけるのっぺりしたトーンとシーケンス・フレーズがスティーヴ・ハケット本人かと思うほど特徴をコピー。奇妙なコード進行を持つ幽玄かつ抒情的な#1。
歌唱、歌メロ、バッキングのシンセ等、全てが怪しく進行しつつ、コーラスがどこか儚げなムードを演出する#2。
シンプルな歌モノにハケット風なエッジの立ったギターとメロトロンが加わり一気にGENESIS度が上がる#3。中盤のギター・ソロを経て終盤にシンフォニックにスケール・アップするアレンジも良い。
フルートとメロトロンの静謐パート、くぐもったエレピの音色のせいか軽快だが陰鬱なヴァース、シンセ中心の畳みかけ、等々ドラマティックに場面転換するシンフォニック・チューン#4。
アコギのカッティングをバックにしたメロウなナンバー#5。パーカッションやストリングス系シンセの使い方が上手く、シンプルだが単調にならない。
緩急や明暗でドラマティックな演出を施した#6。
何とご本人が12弦アコギでゲスト参加。スティーヴ・ハケットの1stソロVoyage of the Acolyte収録曲のカヴァー#7。終盤にシンセが入ってくる辺りはシンフォニック度マックスで感動的だが、意外とあっさりと終了するのも”らしい”感じ。
牧歌的なアコースティック・パートとエレクトリックなシンフォ・パートが同居する#8。7拍子のインスト・パートは元祖やフォロワーがさんざんやってきたパターンだが、THE WATCHがやると深みと説得力が一味違う。

最初の2,3回はそのあまりのアクの強さでアレルギーを起こしそうになるが、耳に馴染むとともに屈折したメロディや独特のコード進行がフックとなって耳から離れない。
GENESISを絶対的なルーツとしながらも独自路線を伺わせた前作から一転、再びピーター・ゲイブリエル在籍期GENESISの英国的な妖しい世界を再現。体に染みついてもうGENESISしかできなくなってしまったかのような、作曲、演奏、唱法。
もしGENESISがそのままの音楽性で存続していたらこんなアルバムを作っていた、と思わせるところが単なるモノマネを超越した職人バンドの矜持なのだろう。

Track List

1. Blackest Deeds
2. Disappearing Act
3. Masks
4. Copycat
5. It's Only a Dream
6. Tightrope
7. The Hermit
8. After the Blast

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PAIN OF SALVATION / In The Passing Light of Day

2017,SWEDEN

連鎖球菌感染症から復帰したダニエル・ギルデンロウ(G/Vo)率いるスウェーデンのプログレッシブ・ロック・バンドPAIN OF SALVATIONの9thアルバム。

ギターによる奇数音シークエンスがメインのリズムとシンクロしたりズレたりするポリリズム展開が気持ち悪くも心地よい#1。10分超えの長尺だが、メロトロンやオーボエを使用した静謐パートから怒涛のヘヴィ・パートへのドラマティックな移行、メロディアスなサビと魂を振り絞るような熱いダニエルの歌唱など、スリリングかつ感動的に聴かせる。
寂寥感溢れるピアノ・バラードから一転してヘヴィなリフがのたうち回る#2。
屈折したムードのヴァースとメロディアスなサビが対比、重低音リフとスクリームが強烈な印象のパワー・バラード#3。
くぐもったピアノと生々しいダニエルの歌唱で綴るメロウなバラード#4。
ポリリズムをフックにした静と動の起伏ある展開とキャッチーなコーラスが融合、初期のサウンドを彷彿させるプログレッシブ・メタル・チューン#5。
メロディアスなコーラス、重低音リフ、メロウ・パートなど様々な要素が絡み合う唯一無二のサウンドを持つ#6。
メロウネスにリズムのトリックを交えた序盤~中盤とエモーショナルなギター・ソロが舞う後半からなる#7。
エレピをバックに淡々としたヴァースからジワジワと盛り上げ、サビで一気にヘヴィに変化する#8。
オートハープがフォークな彩を加える郷愁を誘うバラード#9。
#9のムードを引継いだ温かみのあるプログレッシブ・フォークの前半からスケールの大きなロック・パートに移行する#10。

尺の長短を問わずしっかりと楽曲にドラマ性を持たせ、一筋縄ではいかないポリリズムでリスナーの好奇心を煽る。プログレッシブな感触ではあるが、初期の表層的なものとはまた次元の違う深みに到達した感がある。
生々しいサウンドは前2作の傾向を継承しながも、ダニエルの感性から自然と湧き出てきたものにSFや土着フォークロアなどキャリアを通じて得たエッセンスをそこかしこに滲ませた素晴らしい復活作。

Track List

1. On a Tuesday
2. Tongue of God
3. Meaningless
4. Silent Gold
5. Full Throttle Tribe
6. Reasons
7. Angels of Broken Things
8. The Taming of a Beast
9. If This Is the End
10. The Passing Light of Day

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FREQUENCY DRIFT / Letters To Maro

2018,GERMANY

幽玄なハープをフィーチュアしたドイツのプログレ/ポストロック・バンドFREQUENCY DRIFTの7thアルバム。

ドリーミーと情念の二面性を歌唱とアレンジで対比させた#1。
伸びやかで優美な歌唱と幽玄なハープのソロが耳を離さない#2。ゴシックなムードの中、エキゾチックな管楽器の音色がアクセントに。
コンテンポラリーなポップ性にハープや7拍子がもたらす幻想性や多層美声コーラスの清涼感を併せ持った本アルバムのベスト・トラック#3。
トリッキーなリズムで起伏を演出した#4。
抑えた美声から少々ラフな歌い回しまで様々な表情を見せる#5。
シンセによるシンフォニックなサウンドスケープ、ウィスパーなコーラスにゆったりとしたメロディが乗る#6。
オペラ風というかクラシカルというか、とにかく荘厳なメロディが強烈なフックとなった#7。中盤の弦をフィーチュアした幻想的なインスト・パートから一転してなだれ込む怒涛の終盤の数字のカウントアップがドラマティックな高揚感をもたらす。
ミュージカル風パートや格調高い美メロなど変幻自在の歌唱がバックのサウンドスケープにマッチした芸術度の高い#8。
性急なマリンバのリフがリード、静と動のアレンジに合わせたエモーショナルな歌唱が魅力的な#9。
印象的なメロディを軸に静謐から激情まで幅広く描き出す展開に引き込まれる#10。
神秘的な中に清涼感を含むサウンドスケープでアルバムを締めくくるインスト・チューン#11。

前作までどこか浮いた印象のあった中途半端にヘヴィなギターを大幅に削除したことが奏功。バンドの突出した個性であるハープを主軸にシンセやメロトロン、弦のサウンドで醸し出すダークでメランコリックなムードが増量している。
またもや交代となった看板女性シンガー。今作のIrini Alexia(Vo)はエンジェリック度は低いながらも前任者達の美声を継承しながら、ミュージカル風歌唱によるシアトリカルなアプローチがバンド・サウンドとの親和性が高く作品の世界観に深みを加えている。
起承転結が巧みなアレンジの向上と併せてドラマティック度が大幅にアップ。女性ボーカル メランコリック路線のトップに躍り出た。

Track List

1. Dear Maro (6:22)
2. Underground (5:02)
3. Electricity (4:52)
4. Deprivation (3:35)
5. Neon (6:09)
6. Izanami (5:09)
7. Nine (6:10)
8. Escalator (4:26)
9. Sleep Paralysis (6:03)
10. Who's Master? (9:16)
11. Ghosts When It Rains (3:05)

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SPOCK’S BEARD / Noise Floor

2018,USA

アメリカン・プログレッシブ・ロックバンドSPOCK’S BEARDの13thアルバムNoise Floor。
脱退したドラマーの穴をオリジナル・メンバーのニック・ディヴァージリオ(Dr)が埋めている。

メロトロンの掠れた音色やズ太いモーグ風シンセがレトロなムードを付加している快活な北米プログレ・ハード#1。
70年代サスペンス映画のテーマ曲のような趣の序盤からカラっと爽やかな中にメロウネスを含んだポップ・チューンに移行する#2。
アラン・モーズ(G)のアコギやハーモナイズさせたリード・ギターをフィーチュア。生の弦がクラシカルな色を添えるパワー・バラード#3。
シンセのテーマ・メロディがなんともSPOCK’S BEARDらしい#4。アコギとオルガンのリフレインが北米テイストを醸しながらテーマ・メロディを軸にした壮大なエンディングへと昇華する爽快なエピック・チューン。
クラシカルな弦セクションが効いている、BEATLESへの憧憬が顕著な甘酸っぱいバラード#5。
SPOCK’S BEARDらしいシンセのテーマがリードする#6。抑えた歌唱パートやエキサイティングなインスト・パートを擁し起伏を付けた展開で聴かせる。
清濁併せ持った展開でめくるめく進行、ピアノ、メロトロン、オルガン、シンセと鍵盤を総動員した奥本亮(Key)作によるインスト・チューン#7。
夕暮れの野外ステージが似合いそうなアリーナ・ロックの歌唱パートと予測不能なインスト・パートからなる#8。

SPOCK’S BEARDらしい突き抜け切らないイナたさは健在ではあるが、テッド・レオナルド(Vo)のストレートな歌唱を活かすためか、キメのインスト部などで少々小さくまとまり過ぎるきらいも。
もう少し大胆で変態なアレンジがあっても良いと思う。

Track List

1. To Breathe Another Day
2. What Becomes of Me
3. Somebody's Home
4. Have We All Gone Crazy Yet
5. So This Is Life
6. One So Wise" Ausmus
7. Box of Spiders
8. Beginnings

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DREAM THEATER / Distance Over Time

2019,USA

DREAM THEATERの14thアルバム Distance Over Time。

レーベルをINSIDEOUT MUSICに移籍しての第一弾。
アルバムごとに明確なテーマを持って制作にあたるDREAM THEATERらしく、前作の長編コンセプト・アルバムから一転して今作はトータル60分程度の尺にするというのが一つの意図だった模様。

メロウなアルペジオから畳みかける無慈悲なメタル・リフに場面転換するダークな#1。
ミステリアスな中にも微妙な音遣いでインテリジェンスを感じさせ、サビでは普遍的なメロディで感動を提供する#2。
オールドスクールなリフからスラッシーに移行しつつ、後半のギター・オーケストレーションではベタな泣きが意外な#3。
RUSHを彷彿させるカラっとした北米プログレ・ハードの序盤から、構築美とエモーションが融合したギターソロを含むメロウな後半へ展開する#4。
トライバルで粗暴なムードのリズムが目新しい#5。
バンド一体となって変拍子で押しまくるパートとメロディアスなサビが融合した#6。
どこかオリエンタルなムードのモチーフを執拗に繰り返す超絶変態プログレ・ナンバー#7。かといってゴリゴリ一辺倒ではなくメロディアスなサビや後半のエモーショナルなインスト・パートにキャッチーさを残すのもDREAM THEATERらしい。
ピアノとメロウなギターがリードする静謐な美バラード#8。
何かが起こりそうな序盤から漂う大作ムードはそれなりだが、アルバム総尺60分の縛りからか、展開していく各要素が収束するカタルシスが彼らにしてはイマイチな#9。
第2期DEEP PURPLE風をダウン・チューニングで再現したかのようなパーティ・ナンバー#10。

坂本龍一が所有していた郊外のスタジオにメンバーが集合。半ば合宿のような感じで作曲を進めたとあって、リフの元ネタやアレンジに各メンバーのアイディアが民主的に取り入れられているらしい。前作では2枚組の長編ストーリーをほぼジョン・ペトルーシ(G)一人で書き上げた事を考えると方向性は真逆で、緻密なDREAM THEATERらしさの中に生々しいライブ感がいつになく増量されているのもバンドとしての絆がより深まったことの結果であろう。
アルバムのプロモーションにSNSを積極的に利用し、楽曲の背景を垣間見せる手法もインテリジェントなバンドらしく、より深堀りしたいファンの特性にマッチ。アルバムを引っ提げてのツアーではリリース20周年となるMetropolis PT2 : Scenes from a Memoryのアルバム全曲再現をアナウンスするなど、商売とファン・サービスが見事に融合している点も見逃せない。

Track List

1. Untethered Angel
2. Paralyzed
3. Fall into the Light
4. Barstool Warrior
5. Room 137
6. S2N
7. At Wit's End
8. Out of Reach
9. Pale Blue Dot
10. Viper King

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BAROCK PROJECT / Seven Seas

2019,ITALY

イタリアのプログレッシブ・ロック・バンドBAROCK PROJECTの6thアルバムSeven Seas。

ストリング・セクションを絡めて静と動を行き来するスケールの大きなシンフォニック・ロック・チューン#1。
ジャキジャキした7拍子のギター・リフがリードするキャッチーな北米プログレ・ハード風ナンバー#2。
一転してロマンティックなピアノが主導するヨーロピアン・テイストの#3。抒情的かつ印象的なモチーフを彩りを変えながら巧みに展開。シンセやオルガンによるスリリングな・インスト・パートを内包した構成力も見事。
徐々に盛り上がるドラマティックな構成にロックのダイナミズムとクラシックの端正さを融合したエピック・チューン#4。
バロック調のアコギとストリングスが端正な彩を加え、感傷的な中にも炭火のような温かさを持つ歌メロをフィーチュアした小品#5。
瑞々しいサウンドスケープから内省的な歌唱パートやアナログ風シンセが唸るインスト・パートを経て美しく感動的にエンディングへと展開する11分超の#6。
アコギをバックにしたジェントルな弾き語りからロック・パートに移行、スペイシーなシンセを交えて空間的な広がりを見せたかと思うとギター/シンセ/ベースのユニゾンで早いパッセージを聴かせる超絶パートで度肝を抜く#7。
イタリアらしい歌心ある美メロをアコギやピアノ、ストリングスがドラマティックに支えるバラード#8。
地中海的な明るさを持つポップ・チューン#9。
シンセを中心にエレクトリック楽器がリードするコンテンポラリーなロック・チューン#10。
アルバムのラストを飾る感動的なバラード#11。

冒頭の2曲を聴いた段階でだいぶ作風が変わったか?と思わせるも、#3以降からお馴染みのBAROCK PROJECT節が炸裂。トータルで見た場合、音楽性やスケールがさらに拡張していることに唸らされる。
クラシックの端正さや構築美に豪放なロックをモダンなセンスで融合し独自のプログレを推進。一人でピアノ・リサイタルもやっちゃう位の本物の音楽家ルカ・ザッビーニの才能に驚きっ放し。

– Luca Zabbini / keyboards, acoustic guitar, vocals
– Francesco Caliendo / bass
– Marco Mazzuoccolo / electric guitars
– Eric Ombelli / drums, percussion
– Alex Mari / lead vocals, acoustic guitar

Track List

1. Seven Seas
2. I Call Your Name
3. Ashes
4. Cold Fog
5. A Mirror Trick
6. Hamburg
7. Brain Damage
8. Chemnitz Girl
9. I Should Have Learned To
10. Moving On
11. The Ones

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PAIN OF SALVATION / Panther

2020,SWEDEN

ダニエル・ギルデンロウ(G/Vo)率いるスウェーデンのプログレッシブ・ロック・バンドPAIN OF SALVATIONの10thアルバムPanther。

シンプルだが印象的なシンセのモチーフと小刻みなビートが絡み合いスリリングに展開。ダニエル・ギルデンロウの絞り出すような歌唱が冷徹なSEと融合し独自のグルーヴを生む#1。
ドロ臭い音使いのリフだが、ダウン・チューニング(7弦ギター?)でスタイリッシュなヘヴィネスに仕上げた#2。
静寂の寂寥感とそれを打ち破る暴虐が対比する#3。
流れるようなピアノのリフレインをベースにメロウな歌メロで展開。サビではそれまでの張り詰めた緊張感が炭火のような温かさで溶かされる美しい#4。
シンセのシークエンス・フレーズにアコギやバンドが絡み大きなうねりを生む#5。
おそらくマンドリン等のアコースティック楽器によるインストゥルメンタル小品#6。
エレクトロニカのパターンにラップが乗る#7。
モーダルなトラッド風味が意表を突く#8。
郷愁をそそる歌メロを中心に、エモーショナルなギター・ソロや不穏なヘヴィ・パートを織り交ぜた13分超えのエピック・チューン#9。

歌唱やギター、ドラムスなどの有機的な熱情、シンセやエレクトロニカによる冷たい無情、これらが緻密な変拍子に乗って明暗や静動を描く。ギターのパワー・コードは、もはやサウンドスケープの一要素となり、主役はほぼほぼエレクトロニカだが不思議とヘヴィな質感があり唯一無二のPAIN OF SALVATIONサウンドになっている。
各曲ともテーマ・メロディや歌メロは意外と普遍的で、独創的な楽曲展開と斬新なアレンジの中に埋もれることなく全体としてはスタイリッシュかつキャッチーな印象を残す。

Track List

1. Accelerator
2. Unfuture
3. Restless Boy
4. Wait
5. Keen to a Fault
6. Fur
7. Panther
8. Species
9. Icon

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THE FLOWER KINGS / Islands

2020,SWEDEN

前作Waiting For Miracles同様、ザック・カミンス(Key)、ミルコ・ディマイオ(Dr)を含むラインナップでの2作目。カヴァー・アートはついにロジャー・ディーンが担当。

躍動感とロイネ・ストルト(G/Vo)の渋い歌唱で期待が高まるオープニング・チューン#1。
リラックスした7拍子でカラフルな桃源郷感を醸し出す#2。
ペーソス溢れるメイン・メロディを中心にQUEEN風ハーモナイズ・ギターも登場するシアトリカルな#3。
ロイネ・ストルトのジェントルな歌唱が味わえるほのぼの爽やかチューン#4。
ポジティブなムードに包まれたノリノリの5拍子プログレ・ポップ#5。
メランコリックなシンフォニック・バラード小品#6。
カッコ良いジャズ・ロック・インストゥルメンタル小品#7。
グルーヴィなシンフォニック・フュージョン#8。
中間部にプログレ然としたアナログ・シンセ・ソロやファンタジックなインスト・パートを配しつつも、クールネスと哀愁を兼ね備えた歌唱パートで聴かせる#9。
ロイネの粘る歌唱とギターをフィーチュアした穏やかなナンバー#10。
ワウ・ギターが歌いまくるインストゥルメンタル#11。

ヨナス・レインゴールド(B)のメロディアスなベース・ライン、ハッセ・フロベリ(Vo)の溌溂とした歌唱がリード。感傷的なサビを持つ#12。
ザック・カミンスのオルガンがELPのタルカスばりにグイグイ迫り、ミステリアスなムードで進行するインストゥルメンタル#13。
メロトロンを薄っすらと使用するセンスが洒落たプログレ・AOR・チューン#14。
スリリングなプログレ・ジャズ・ロック・インスト#15。
ゲストのロブ・タウンゼント(Sax)のソプラノ・サックスをフィーチュアした#16。
ロイネ・ストルトのコシのある・ギター・トーンとメランコリックなフレージングが楽しめる#17。
ギター・ソロのロングトーンがむせび泣くメランコリックな#18。
ベースがグルーヴをリードするAORチューン#19。
シンフォニックにデコレートされたポップ・チューン#20。
スライド・ギターが幻想的ムードを醸し出す#21。

ジャケット・カヴァーのファンタジックな印象から往年のYESのような超大作をイメージするも、内容は短尺歌モノ中心で随所に印象的なフックを配しながらじっくり聴かせるタイプの落ち着いた楽曲集。DISC1は特にロイネ色が強く、往年のテイストが感じられる。
各種鍵盤を操るザック・カミンスはインスト曲などで時折スゴ腕を見せるものの、全般的にアンサンブルに合わせた堅実な仕事。もっと暴れてもらって長尺曲で緊張と緩和のドラマを作ってくれても大歓迎なんですが。

Track List

DISC 1
1. Racing with Blinders On (4:33)
2. From the Ground (4:11)
3. Black Swan (5:58)
4. Morning News (4:06)
5. Broken (6:48)
6. Goodbye Outrage (2:25)
7. Journeyman (1:49)
8. Tangerine (4:13)
9. Solaris (9:32)
10. Heart of the Valley (4:42)
11. Man in a Two Piece Suit (3:29)

DISC 2
12. All I Need Is Love (5:54)
13. A New Species (5:56)
14. Northern Lights (5:45)
15. Hidden Angles (0:52)
16. Serpentine (3:53)
17. Looking for Answers (4:45)
18. Telescope (4:52)
19. Fool's Gold (3:18)
20. Between Hope & Fear (4:42)
21. Islands (4:15)

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JOHN PETRUCCI / Terminal Velocity

2020,USA

DREAM THEATERのギタリスト ジョン・ペトルーシ(G)の2ndソロ・アルバム。
2020年に全世界を襲った新型コロナ・ウィルスCOVID-19の影響はDREAM THEATERにも例外なく及び、アルバムDisance Over Timeのツアーが5月の日本を含む各地で中止に。ロックダウン(都市封鎖)等で空いた時間で新たに作曲したり過去のマテリアル等をまとめて制作。かつての盟友マイク・ポートノイ(Dr)、ジョンとはG3ツアーで共演しておりマイクともFLYING COLORSでバンド・メイトであるデイヴ・ラルー(B)をレコーディングに招いている。

神秘的なSEから北米プログレ・ハードの香り漂うリフに突入。快活なアップテンポと伸びやかなギターが心地よいオープニング・チューン#1。
ジョン曰くイタリアン・マフィア風のオープニングからタテ乗りでスリリングに展開する#2。リズム隊とシンクロする場面はDREAM THEATERを彷彿させるタイトさ。
タイトル通りポジティブなムードに溢れたハード・ロック。軽やかなロールや微妙なハイハットで彩を加えるドラミングもやはり相性の良さは抜群。メジャー・コードでここまで弾きまくって爽快感を与えるのも本家DREAM THEATERではあまり無いので新鮮。
いきなり強烈なシュレッドで幕を開け、雄大なソロ・パートやアル・ディ・メオラ風スタッカートを聴かせるアコギ・ソロを中間部に配し、緊張感あるモチーフを軸に展開する#4。
レイドバックしたブルーズで意外な表情を見せつつ終盤はシュレッドで爆発する#5。
DREAM THEATER風ダークでメタリックなリフにミステリアスなメロディが乗るプログ・メタル#6。
RUSHのようなスケールの大きなイントロを配し、テーマ・メロディの滑らかなトーン・コントロールが見事な#7。
スタジアムでのオーディエンスとの一体感を想起させるビッグなリフでリードするアメリカン・アリーナ・ロック#8。
7弦ギターを使用したヘヴィなリフでゴリゴリと進行、2本のギターによるハーモニーから激情ソロへの転換に鳥肌が立つ#9。

全編ギターだらけのインストゥルメンタルだが、メカニカルなプログ・リフ、エモーショナルなトーン・コントロール、整然としつつも速さが尋常でないシュレッドなど、様々な表情を見せつつも全てがジョン・ペトルーシ印という驚異の個性とキャッチーなメロディでリスナーの耳を釘付けにする。

Track List

1.Terminal Velocity
2.The Oddfather
3.Happy Song
4.Gemini
5.Out of the Blue
6.Glassy-Eyed Zombies
7.The Way Things Fall
8.Snake in My Boot
9.Temple of Circadia

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DREAM THEATER / A View From The Top Of The World

2021,USA

DREAM THEATERの15thアルバム A View From The Top Of The World。

ミステリアスかつヘヴィなリフ、メロウなパート、ギターとシンセによる超絶バトル等、DREAM THEATERのエッセンスを凝縮した#1。
ヘヴィながらメロディアスな歌唱パートとギターとシンセのスリリングなハーモニーをフィーチュアしたインスト・パートを持つ#2。
キャッチーな抒情メロディを軸に快活なパートや構築度の高いギターソロなどを交えドラマティックに聴かせる#3。
メカニカルなモチーフで緊張感を高めていき、メロウなサビで落差を演出する#4。ダーティなオルガン、幽玄なストリングス系など場面を彩る鍵盤群が効果的。
明朗なリフに近年のDREAM THEATERというかジョン・ペトルーシ(G)ではお馴染みのケルト風味を漂わせた北米プログレ・ハードの系譜に連なる#5。
8弦ギター導入が話題の#6。ことさらヘヴィネスを強調せずメロウネスとのバランス感覚が秀逸。
様々なパートを力技で繋ぎ合わせた感が逆に新鮮な20分超えの長尺チューン#7。

前作にともなう日本公演が中止になるなどCOVID-19の世界的影響で活動もままならない中でも彼らの創作意欲は衰え知らず・・、ではあるのだが、各曲が短尺傾向にあった前作では各楽曲の個性が際立っていたが、今作では長尺にシフトしたためか各楽曲内での展開がバラエティに富んでいる分、楽曲毎のフックが多少弱まった印象。
しかしながら、丸みを帯びたトーンにエモーショナル面での円熟味を感じさせつつ、8弦ギター導入や#1に見られる指板上をメカニカルに移動する構築されたフレーズなどに未だ研究熱心さを伺わせるジョン・ペトルーシの現役ギター・ヒーローぶりが眩しいし、充実したインストパートではギターもシンセも弾きまくってます。

Track List

1. The Alien
2. Answering the Call
3. Invisible Monster
4. Sleeping Giant
5. Transcending Time
6. Awaken the Master
7. A View from the Top of the World

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PORCUPINE TREE / Closure/Continuation

2022,UK

13年ぶりのリリースとなったPORCUPINE TREEの11thアルバム。

ベースのリフに導かれた硬質なムードを切り裂くヘヴィなギターが爽快な#1。
スティーヴン・ウィルソン(G/Vo/B)のソロに近い感触のメロディアスな歌唱パートと金属的な器楽パートが交互に展開する#2。
ドラムとシンクロしたヘヴィな不条理リフと妖艶なスキャットが印象的な#3。
英国っぽいメロディアスな歌ものを軸に、浮遊感ある深遠なサウンドスケープなどを交え感動を増幅させる#4。
様々な歌唱表現と変拍子に乗せた緻密なアレンジで静と動を聴かせる#5。
ミステリアスかつスペイシーな#6。
アコギがメランコリックなムードを醸成する前半から、軋む様なヘヴィ・ギターがアンサンブルをリードする後半へ移行する#7。

ベーシストが不在。スティーヴン・ウィルソン、リチャード・バルビエリ(Key)、ギャヴィン・ハリソン(Dr)によって制作。
アルバム・タイトルClosure/Continuationは閉鎖か継続か、どう転ぶかわからないバンドの将来に含みを持たせたものらしい。
スティーヴン・ウィルソンのソロではバラエティに富んだポップ寄りな作風でメインストリート感が眩しかったが、バンドPORCUPINE TREEではよりダークで深遠な世界を醸成。

Track List

1. Harridan
2. Of the New Day
3. Rats Return
4. Dignity
5. Herd Culling
6. Walk the Plank
7. Chimera's Wreck

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カテゴリー: PORCUPINE TREE

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