ヘヴィ・メタル のレビュー

OPETH / Watershed

2008,SWEDEN

OPETHの2008年9thアルバムWatershed。

彼らの魅力は何と言ってもギャップ。
不条理暴虐リフと70年代サイケ&プログレッシブ風味の奇跡的な共存。デス声とクリーンなプログレ声。そして予測不能な曲展開とふいに見せる叙情性。これらに加え、KeyのPerによるメロトロン・ハモンド・エレピ・アコピによるセピアな彩りが、OPETHの孤高性をフォロワー達の追随を許さぬレヴェルにまで高めています。
実際、#3,#4,#5あたりでのキーボードの使用法は際立って個性的で、これらの曲を唯一無二の存在に。勿論、Mikaelのソング・ライティングもキレキレです。
OPETH風フォークな#1が意表を突きながらも、次に来る怒涛の展開を逆に予想させ聴き手を身構えさせる絶好のウォームアップとなっている所が憎いですねー。
そして変態アグレッション&プログレな#3。これは誰にもマネできませんね。
続く暗黒叙情フォーク?の#4の奇妙なコード進行はALL ABOUT EVEあたりを彷彿させます。サウンドやバンドの格といった部分での広がりと奥行きを感じさせるアルバムです。

Track List

1. Coil
2. Heir Apparent
3. Lotus Eater
4. Burden
5. Porcelain Heart
6. Hessian Peel
7. Hex Omega

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MASTODON / Crack the Skye

2009,USA

アメリカはアトランタ出身のヘヴィ・メタル・バンドMASTODONの2009年4thアルバムCrack the Skye。

たった3音で人を不安な気分にさせる秀逸なリフで軽く「オッ」と思わせつつ、その後のめくるめく変拍子攻撃にさらされた頃には既にハマってしまっている#1をはじめ、現代的なヘヴィネスの意匠を巧みに纏った深遠な音楽がここにはありますね。
プログレッシブな薫り漂うメタルではありますが、これ見よがしなテクニックに走るわけでは無く、あくまでも楽曲展開の妙とリフの音使いで聴かせ切ってしまうところが凄いです。
例えば同じくプログレッシブなメタルだとOPETHなんかが思い浮かびますが、OPETHがメロトロンやハモンドといった機材の持ち味やアコギやクリーン・ヴォイスによる叙情フレーバーの挿入で陰影を浮かび上がらせているのとは対照的に、MASTODONはギター2本とリズム隊による轟音パート中心の外連味無い展開だけでここまでの起伏を表現しているのが素晴らしい。
メタル然としてカッコ良い#2などは良く聴けばかなり凝った方なのに、この#2が霞むくらいの濃厚な楽曲で満たされております。
4部構成の組曲#4は勿論、5分程度の#6にしてもエキゾチックな要素を巧く消化して楽曲のキャラを立たせた濃密な時間が味わえます。
#2を除いて中長尺な楽曲中心ながら、冗長なパートが全くといって良い程無いのも珍しいですね。アメリカのバンドだと思って甘く見てましたが驚きました。

Track List

1. Oblivion
2. Divinations
3. Quintessence
4. The Czar
I. Usurper
II. Escape
III. Martyr
IV. Spiral
5. Ghost of Karelia
6. Crack the Skye
7. The Last Baron

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THEATRE OF TRAGEDY / Forever is the World

2009,NORWAY

ゴシック・メタルのヴェテラン・バンドTHEATRE OF TRAGEDYの2009年7th。

フォロワー達がゴージャス&シンフォニックなデコレーション路線で成功して行く中、元々壮麗なアレンジやドラマティックな場面転換といった即効性の高い派手な要素よりも、淡々と美に耽る中にキラリと光る必殺フックでリスナーのハートを掴んできた彼らの個性が復活してきた印象です。グロウル・ヴォイスと不穏なムードで引っ張り、サビでのネル・シグランド(Vo)の美声で一気に突き抜けるゴシック定番チューン#1で軽くジャブ。凡百のバンドが安直にシンセ・ストリングスでやりそうなリフもギターで奏でる事でピアノのオブリガードを活かした#2。ギター、ピアノ、ストリングスを場面に応じて使い分けた#3、くぐもったピアノがリードしグロウル・ヴォイスの無い#4、等のメランコリック・チューンではネル嬢の歌唱が抜群に映えています。クリーン・ギターとパーカッシブなドラムに乗るパワー・バラード風な#5でも囁くような部分とサビでの声色の使い分けが見事。ノーマル男声ボーカルの序盤と対比させたサビでのネル嬢の歌唱が激萌えな#6。低音域でも存在感ある美声があることを証明する#7。適度に重厚なストリングスにマイルドな歌唱がたゆたう耽美なゴシック・バラード#8。サビのアレンジがキャッチーな彼らの王道ゴシック#9。ピアノのバックとネル嬢によるオーバーダブされたコーラスが美しく印象に残るラストの#10。これが加入後2作目となるネル嬢は、前任のリヴ・クリスティンのようなこの世の物とは思えないエンジェリック・ヴォイスこそ無いが、様々な曲調をこなす音域の広さと可憐なキャラクターの声質で確実にバンドを進化させています。バンドもネル嬢の個性を巧く引き出してますし。特にラスト3曲はかなりの充実度です。

Track List

1. Hide and Seek
2. A Nine Days Wonder
3. Revolution
4. Transition
5. Hollow
6. Astray
7. Frozen
8. Illusions
9. Deadland
10. Forever Is the World

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陰陽座 / 金剛九尾

2009,JAPAN

陰陽座の2009年9thアルバム金剛九尾。

斗羅(Dr)がバンドを脱退し、本名の河塚篤史でサポート・ドラマーとして参加。作曲は全て瞬火(B/Vo)のペンによるもの。

注目されたオープニング#1は意表を突いて、ライト感覚なサビを持つキャッチーな楽曲。サビで瞬火から黒猫(Vo)にボーカルがスイッチする瞬間の爽快感が、そう来るとは予想しつつも新鮮です。
続く#2は陰陽座らしいオールド・スクールなリフがリードするメロディアスなハード・ロック。
招鬼(G)と狩姦(G)による細かいフレーズのハーモニーで幕を開け、黒猫の滑らかな歌唱が乗るメタル・チューン#3。
サビでの黒猫のロング・トーンが瑞々しいメロウな#4。
キー=A、ボーカルは黒猫のみ、というフォーマットがお馴染みの忍法帖シリーズ#5。
瞬火の歌唱が映える#6。
と、ここまでは陰陽座スタンダード路線。
本アルバムのハイライトはここから。
対になったハードな#7とシズル感溢れる黒猫の歌唱が涙を誘うバラード#8で軽くジャブを入れて、組曲#9~11に突入。
メロディアスでキャッチーなサビで黒猫の表現力を改めて証明する#9。
変拍子を交えたプログレッシブでドラマティックな楽曲構成に瞬火の才能が光る9分超の大作#10。
和風なメタル・リフとギター・ソロで陰陽座の個性を発揮した#11。
そしていつも通りパーティ・ソングの#12で締め。全体的にリバーブが深めにかけられたプロダクションはメタルな攻撃性を殺いでいる反面、今回収録されたいつにも増してキャッチーでメロディアス路線な楽曲にはフィットしていますね。
そしてそれが黒猫の歌唱を引き立てるとともに、彼女をこの狭いフォーマットの中に閉じ込めておくのが惜しい、という気持ちにもさせるんですよね・・・ 。

Track List

1. 貘
2. 蒼き独眼
3. 十六夜の雨
4. 小袖の手
5. 孔雀忍法帖
6. 挽歌
7. 相剋
8. 慟哭
9. 組曲「九尾」~玉藻前
10. 組曲「九尾」~照魔鏡
11. 組曲「九尾」~殺生石
12. 喰らいあう

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HEAVEN AND HELL / The Devil You Know

2009,UK

ロニー・ジェイムズ・ディオ(Vo)期のBLACK SABBATHによるHEAVEN & HELL名義の2009年スタジオデビュー作The Devil You Know。

すっかりレイド・バックしちゃってる同年代のHR/HM系ミュージシャンを尻目に、過去の遺産にすがった集金ライブだけの活動に留まらず、新作を出してしまうというその現役バリバリな行為そのものが、この作品の最大のセールス・ポイントなのは間違いの無いところでしょう。
SABBATH風ドゥームとロニーの様式美が最高の科学反応を起こした荘厳な名盤Heaven and Hell や、ギーザー・バトラー(B)が曲作りに多大な貢献をし往年のおどろおどろしさと疾走感をもたらしたMob Rules のような絶対的な傑作とまではいきませんが、前述のセールス・ポイントがもたらす付加価値によって最後まで聴かせてしまうのがさすがといいますか。
やはり、リフ・マスター トニー・アイオミ(G)の邪悪なキレ味を持ったギター・ワークが耳を捉えて離しませんね。往年のマジックは無くなったが、回顧趣味に走ることなく、十二分に21世紀の今の音として勝負しているのがうれしいですね。

Track List

1. Atom and Evil
2. Fear
3. Bible Black
4. Double the Pain
5. Rock and Roll Angel
6. Turn of the Screw
7. Eating the Cannibals
8. Follow the Tears
9. Neverwhere
10. Breaking into Heaven

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DREAM THEATER / Black Clouds & Silver Linings

2009,USA

DREAM THEATERの2009年10thアルバムBlack Clouds & Silver Linings。

商売上手なRoadrunner移籍第2弾。何とビルボードのアルバム・チャート6位に!市場全体のアルバム・セールスが不振の中、アルバム・オリエンテッドなファンがこぞって購入した結果というのが背景にあるとは思うが、びっくりです。
長尺4曲を含む6曲構成で全体的に非常にメロディアスな印象。短い#2,#3ではキャッチーなDREAM THEATERらしさをコンパクトな楽曲にまとめるとともに、その他の大作ではそれぞれ違った個性でDREAM THEATERのプログレッシブ面を表現してます。
特に終盤。ジョン・ペトルーシ(G)のエモーショナルなフレーズが感動を呼ぶ、マイク・ポートノイ(Dr)が亡き父への想いを込めたスケールの大きな#5、ギターやポルタメントの効いたシンセのアルペジオを中心にプログレッシブに畳み掛ける序盤のインストパート、カッコ良い4拍子+5拍子による疾走パターンとヘヴィネス・パターンの対比でアレンジの冴えを見せるボーカルパートを持つ#6。この2曲は強力です。
とりわけ、メロディ・緊張感・プログレッシブな展開・メタル的なカタルシスを兼ね備えた#6は新たなマイ・アンセムになろうかという出来。

Track List

1. A Nightmare to Remember
2. A Rite of Passage
3. Wither
4. The Shattered Fortress
5. The Best of Times
6. The Count of Tuscany

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CATHEDRAL / The Guessing Game

2010,UK

英国のメタル/プログレッシブ/エクスペリメンタル・バンドCATHEDRALの2010年9thは怒涛のCD2枚組。

前作The Garden of Unearthly Delightsから顕著になりだしたプログレッシブ&サイケ風味が、いよいよアルバム全体を覆ってきました。もはや出自のドゥームやヘヴィネスも彼らにとっては音楽性の単なる一要素となり、BLACK SABBATH同様に(っていうか本家をマネて)これまでアルバム中の1~2曲で見せてきたメロウであったりグルーヴィであったり70年代風であったり、という実験的なテイストを各楽曲に練りこんだ芳醇な作りになっております。
勿論御大リー・ドリアン(Vo)のヘタウマ歌唱の限界もありますが、そこは、コーラスでDISC1#2及びDISC1#7に参加したMELLOW CANDLEのアリソン・オドネル(Vo)をはじめとした弦やシタール奏者などのゲスト陣、70年代マニアのレオ・スミー(B)のプレイするモーグ・タウラス、ARP、コルグPoli Six等ヴィンテージ・シンセの豊かなサウンドでカヴァー。
さらに、現代のリフ・マスター ギャズ・ジェニングス(G)のリフ・ワークもかなりの冴えを見せており、ヘヴィにドライヴするDISC1#2、引き摺るDISC1#6、典型的CATHEDRALタイプのDISC2#2、抜けの良いコード・ストロークがシャープなDISC2#3、ドゥーミーなDISC2#5、などなどバラエティに富みつつも強力なフックとなる逸品揃い。
又、ヘヴィなリフが溶け合ったDISC1#4、オートハープ等を隠し味にしつつ楽曲全体をリードするインストゥルメンタルDISC1#5などメロトロンも枯れた良い味を出しています。

売れ線狙いとは真逆の、ロックが最高にカッコ良かった70年代の「何やってもOK!」なムード満載のアルバムです。
ジャケット・アートはお馴染みデイヴ・パチェット。12面折のブックレットを広げると、いつもと同様の美しくも妖しく奇妙な異形の世界が広がります。

Track List

DISC 1
1. Immaculate Misconception
2. Funeral Of Dreams
3. Painting In The Dark
4. Death Of An Anarchist
5. The Guessing Game
6. Edwige's Eyes
7. Cats, Incense, Candles & Wine
DISC 2
1. One Dimensional People
2. Casket Chasers
3. Ghost Galleon
4. The Running Man
5. Requiem for the Voiceless
6. Journeys Into Jade

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SPIRITUAL BEGGARS / Return to Zero

2010,SWEDEN

マイケル・アモット(G)率いるスウェーデンのハード・ロック・バンドSPIRITUAL BEGGARSの2010年7th。

脱退したJBに代わり元FIREWIND、TIME REQUIEMのアポロ・パパサナシオ(Vo)が加入。前任者に負けず劣らずパワフルな歌唱からディープ・ヴォイスまで幅広くこなす実力者で、SPIRITUAL BEGGARSのオールド・スクールなタイプの音楽性にもぴったり。ペル・ヴィバリ(Key)の物悲しいモーグ風シンセをフィーチュアした静かなオープニング小品#1から、重くブルータルなリフの#2へ。定番の展開でありながらも、やはり心躍るものがありますね。ゆったりした流れに堂々としたアポロの歌唱が響き、中間部の厳かなペルのオルガンからワウを掛けた官能的トーンのギター・ソロに至る流れも感動的。アポロのプレゼンとしては申し分ない楽曲に仕上がってます。キャッチーなリフにリズムのフックを取り入れた#3。9thコードがクール。前作制作時から暖めていたアイディアに、マイケルの妻アンジェラ・ゴソウが作詞で協力して完成したという#4。ドゥーミーな単音リフがのたうつ超ヘヴィな前半、アップテンポにギアチェンジしカッコ良くドライヴする後半と、2度楽しめます。オーディエンス・ノイズを被せたライヴ向きのシンプルなシャッフル・ナンバー#5。トライバルなパーカッションとクリーンなギターをバックに、アポロの表現力の広い歌唱が郷愁を誘う異色のインディアン風ナンバー#6。UFOのDoctor Doctorを想起させる3連グルーヴの#7と、リフのネタ元がMSGのDesert Songであることが明白な#8。この辺はマイケル・シェンカー・タイム!終盤のギター・ソロではMSGのLet Sleeping Dogs Lie風フレーズまで登場。ワウ掛けてこのテンポで良い気分で浸って弾いていると勝手に出てきちゃうんでしょう。もう指が覚えてて。ジミヘン風グルーヴを持つメロディアスなナンバー#9。バッキングとソロでオルガンが効いてます、レズリーの回転数切り替えもバッチリ。デイヴィッド・カヴァーデールを彷彿させるアポロの歌唱に、サビのコード進行やメロディ、ペルが弾くジョン・ロードっぽいピアノやオルガンが70年代WHITESNAKEのヴァイブを感じさせる#10。ブルージーな#11、ピアノとメロトロンをフィーチュアしたバラード#12、とアルバム終盤はメランコリックに締めてます。70年代ハード・ロックの旨味を自分達流に消化する手法は相変わらず巧くて、もう感心してしまいますね。今回はいつにも増してモロなマイケル・シェンカー風もありますが、楽しんで作った結果として滲み出たものだと思うので微笑ましいです。ARCH ENEMYが売れて、SPIRITUAL BEGGARSの活動に割く時間がなかなか取れないようですが、次も期待しちゃいますね、これは。

Track List

1. Return to Zero
2. Lost in Yesterday"
3. Star Born
4. The Chaos of Rebirth
5. We are Free
6. Spirit of the Wind
7. Coming Home"
8. Concrete Horizon
9. A New Dawn Rising
10. Believe in Me
11. Dead Weight
12. The Road Less Travelled
13. Time to Live

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RATT / Infestation

2010,USA

RATTの2010年復活作Infestation。

邪悪なYou’re in Loveといった風情のリフに乗ってスティーヴン・パーシー(Vo)がダミ声で歌う#1。もうこれ1曲でKOですワ。左に元QUIET RIOTのカルロス・カヴァーゾ(G)、右にウォーレン・デ・マルティーニ(G)と明確にパンニングされた布陣による一発録りかのようなライブ感で、ギターがソロとバッキングの熱い火花を散らすこのオープニング・ナンバー。RATTはこの曲で宣言しているわけですね。「ギターを聴いてくれ!」と。最近のメタルって、やれデスだ、プログレッシブだ、ゴシックだ、なんて何かと理屈っぽいというか、言い訳がましいというか、根源的なロックのカッコ良さが忘れ去られているんじゃないでしょうか。ギタリスト2人がカッコ良いプレイでロックする。やっぱりコレですよ。ギター・バトルの後ハモってアーミングをキメる所なんか、Round and Roundみたいでトリ肌ですよ。
PVにもなった#2はRATTらしいキャッチーなナンバー。いかにも80年代風なブリッジ~サビのメロディーは他のバンドだとちょっと恥ずかしいですが、RATTの看板があると不思議とカッコ良いですね。
アメリカン・バンドなら避けられないファンキーなノリの#4も3rdの頃なら背伸びした風だったのが、今や大人のムードすら感じさせる余裕の出来。
ツイン・リードのハーモニーが美しい#5。
センスの良い音使いが光るウォーレンのソロがカッコ良い、Luck of Communicationみたいなリフの#6。
左右チャンネルのギター・バトルから高速ハーモニーに移行するギター・ソロをフィーチャーした#9。
この辺りはギター・キッズなら要チェック・ポイントです。
全体的にアップテンポの楽曲中心の溌剌とした印象で、健在ぶりを見せ付けた快作です。
ストレートにロックするカルロス、モーダルなフレージングを織り交ぜた流麗なウォーレンというギタリスト2人の個性が際立つソロも聴き所です。

Track List

1. Eat Me Up Alive
2. Best of Me
3. A Little Too Much
4. Look Out Below
5. Last Call
6. Lost Weekend
7. As Good as it Gets
8. Garden of Ede
9. Take a Big Bite
10. Take Me Home
11. Don’t Let Go

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陰陽座 / 鬼子母神

2011,JAPAN

妖怪ヘヴィ・メタルを標榜する陰陽座の10thアルバム鬼子母神。

瞬火(B/Vo)書き下ろしの戯曲「絶界の鬼子母神」をベースにしたコンセプト・アルバム。
初期から組曲を手掛けてきた陰陽座というか瞬火からすると意外だが、コンセプト・アルバムというスタイルは10作目にして初の試み。

従来のアルバムではお約束とも言えたキー=Aで歌は黒猫(Vo)単独の「忍法帖」シリーズやラストを締める黒猫の萌え声パーティ・ソングなどの楽曲を排除、毎回 瞬火が担当するカヴァー・アートの題字を書道家の武田双雲に依頼、さらに別売りで戯曲「絶界の鬼子母神」を書籍出版するという異例づくしの展開でバンドの意気込みが伝わってきます。

内容も期待に違わぬ素晴らしい出来。
物語のオープニングに打ってつけのアップテンポなハード・ロック#1~#2、巧みな拍子チェンジを交えたインテリジェントな展開を見せる至高のプログレッシヴ・メタル#8、#1と同様のピアノのテーマから怒涛の王道疾走メタルに移行し黒猫のメタル・クイーン歌唱が乗るメタル・ファンならガッツポーズ必至の#12といったメタル・チューンを軸に、#6,#11といった瑞々しい叙情バラードや、キャッチーな#7、黒猫のこぶしが効きまくった演歌スタイル歌唱とファンキーなグルーヴを融合させ物語の肝となる村の異様な風習の狂気を描く#5など、キャラの立った楽曲が揃い聴き手のイマジネーションを刺激します。

余韻を残さず突如終わるエンディングも逆にドラマティックさを演出、プロデューサー瞬火の仕掛けたワナにハマりっ放しの61分超大作。
パッケージ・メディアの売上が右肩下がりで、頼みの「サクッとダウンロード」でもカバーしきれない状態の音楽業界にあって、音楽を”作品”として聴かせようという真摯な姿勢が伝わってくる良い作品ですね。

Track List

1. 組曲「鬼子母神」~啾啾
2. 組曲「鬼子母神」~徨
3. 組曲「鬼子母神」~産衣
4. 組曲「鬼子母神」~膾
5. 組曲「鬼子母神」~鬼拵ノ唄
6. 組曲「鬼子母神」~月光
7. 組曲「鬼子母神」~柘榴と呪縛
8. 組曲「鬼子母神」~鬼子母人
9. 組曲「鬼子母神」~怨讐の果て
10. 組曲「鬼子母神」~径
11. 組曲「鬼子母神」~紅涙
12. 組曲「鬼子母神」~鬼哭

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OPETH / Heritage

2011,SWEDEN

OPETHの10thアルバムHeritage。

リリース前の試聴会からの噂が、グロウル・ヴォイスやブルータルなリフが無いアルバムという事で密かに期待していたが、やってくれましたよミカエル・オーカーフェルト(G/Vo)。
ミカエルが70年代ロックのコレクターであることは有名で、これまでのアルバムでも幽玄なアコギ・パートなどにヴィンテージ・ロックの薫りを漂わせてはいましたが、それをアルバム単位でやってしまったという感じ。
この路線、メロウかつ暗鬱なアルバムDamnationと似てはいますが、もっとバラエティに富んでいて躍動感もあるしロックしてもいる。何というか70年代ロック風なゴッタ煮感が良い。

メロウなピアノのソロ#1で静かに幕を開け、ガツーンと来るだろうなという予想通りの#2ではありますが、以前のような無慈悲で怜悧なリフでは無く、歪んだオルガンを絡めたオールド・スクールなテイスト。ギター・リフも相変わらず不条理系の奇妙な音使いですが、サウンドも今風なディストーションというよりはもっとウォームな感じ。幽玄パートやサイケ風なパートも絡めての起伏に富んだアレンジはさすがOPETH。
メロトロンの白玉とアコギをバックにミカエルの艶やかな美声が乗るメロウな序盤から、ヘヴィなパートを交えつつ神秘的なムードで展開する#3。
DEEP PURPLE風な#4は(多分)シングル・コイルの単音バッキングがまんまリッチー・ブラックモアな疾走チューン。OPETHらしい音使いのリフがアクセントになり、オールド・スクールな曲調に見事に融合しています。アコギ・パートに突入してそのままフェード・アウトする意外な展開はBLACK SABBATHのようでもあります。
マーティン・アクセンロット(Dr)のゴースト・ノートを活かしたグルーヴィなドラミング、ペル・ヴィヴァリ(Key)によるエレピのリフ、エキサイティングなフレドリック・オーケソン(G)のソロなど、ジャム的な要素をフィーチュアした不思議な浮遊感を持った#5。
静謐でメランコリックな序盤からメロトロンとアコギをバックに7拍子の歌唱パートに移行するプログレッシブ・フォーク#6。間を有効活用した枯れたギター・ソロも又絶品。現存するバンドでこのサウンドを出せるのはOPETHだけでしょう。
静かな序盤から独特の音使いによるリフを境にバンド・インする#7。妖しいパーカッションや吹き散らすフルートが70年代風暗黒ムードたっぷり。
マーティン・メンデス(B)のベースがリードする#8。メロトロンにフェンダー・ローズなどヴィンテージ・キーボード、テルミン風SEを要所に散りばめたコンパクトながら起伏あるナンバー。
OPETH風暗黒エレクトリック・フォークから、メロウなアコギ・パートを経て、抑えた泣きのギター・ソロで締める#9。
アコギのアルペジオをバックにしたマイルドなツイン・リードのハーモニーが美しい#10。

はっきり言って70年代風テイストはOPETHのオリジナルでは無いし、新鮮なアイディアというわけでも無い。
それでもこのアルバムが素晴らしいのは、そういった先人達のアイディアを吸収し我が物とした上でしっかりとOPETHの持ち味に融合させてしまっているところ。
特に、何でも詰め込み過ぎの昨今の音楽シーンにあって、「無音」を活かした音作りが巧み。
このあたりはミックスを担当したスティ-ヴン・ウィルソンからの影響かも。

ジャケット・アートはお馴染みのトラヴィス・スミス。サイケな色調が珍しいですね。右下の落ちかかった顔は本アルバムがラストとなるペル・ヴィヴァリでしょうか。ここ数作で良い仕事をしていただけに残念です。

Track List

1. Heritage
2. The Devil's Orchard
3. I Feel The Dark
4. Slither
5. Nepenthe
6. Häxprocess
7. Famine
8. The Lines In My Hand
9. Folklore
10. Marrow Of The Earth

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DREAM THEATER / A Dramatic Turn of Events

2011,USA

DREAM THEATERの11thアルバムA Dramatic Turn of Events。

バンドの創始者でありプロデューサー、スポークスマンでもあったマイク・ポートノイ脱退のニュースは衝撃的で意外だったが、後任を迎えてアルバム制作もするという報に接してまず感じたのは、「これで、下手なラップ調ボーカルを聴かなくて済む」という、後ろ向きな安堵感だった。

そして、新作発表が近づくにつれ期待感と共に不安感も起こってきた。マイク・ポートノイが一部のリフを書いたりといった事はあったようだが、メロディ面での才能はもう一人のプロデューサーであるジョン・ペトルーシ(G)やジョーダン・ルーデス(Key)が健在なので大丈夫として、曲の構成やコンセプトといった大局的な側面でのパワーダウンは避けられないだろうということ。確かに件の「ド下手ラップ」のように、強権的な手法が裏目に出たケースもあっただろうが、我々の気づかない部分で楽曲やアルバム構成にDREAM THEATERらしいプログレッシブな先取性やカッコ良さをもたらしていたのも実はマイク・ポートノイだったのかも知れない。

という前提で新作A Dramatic Turn of Eventsを聴きこんでみた。
まず感じるのは、手堅くまとめた安定感。
新加入のマイク・マンジーニ(Dr)のプレイ、Images and WordsやScenes from a Memoryを想起させるメロディアスなボーカル・パート、随所に見られるDREAM THEATERらしいテクニカルなアンサンブル、等々。どこにも破綻が無く非常にスムーズにDREAM THEATERの世界が展開されている。

しかし、スムーズすぎるが故にフックが少ない。
ボーカル・パートは確かにメロディアスだがほとんどがマイナー調のみでの展開で、例えば前作収録の名曲The Best of Timesのようなメジャー/マイナーの明暗があまり描かれていない為、メロディの良さがドラマティックに昇華しないのだ。また、インスト・パート以外ではミディアム・テンポが目立ち、リズム的な緩急もあまり感じられない。

これらの結果、手堅くまとまってはいるが意外性に乏しく新しさも感じられないのだ。
しかもまずいのが、#2のローファイ風ブレイク・ビートや#5におけるシャーマンのホーミー風SEなど、既に色んなバンドが取り入れてきた手垢の付いた手法をDREAM THEATERともあろうバンドが導入してしまっている事。
これにはもはや失望をも感じてしまった。

果たしてマイク・ポートノイが健在だとしたら、これらの要素はどうなっていたんだろうか。
DREAM THEATERもかつて70年代の名バンド達がそうだったように、自らが創り出した様式の中にはまり込んでいくことになるのか。

DREAM THEATERの新作ということでどうしてもハードルが高くなってしまうが、決して駄作な訳ではなく、アルバム随一のプログレッシブ・チューン#3のザクザクしたリフからの超絶インスト・パート、#4や#8でのジョン・ペトルーシの構築性とエモーションを兼ね備えたギター・ソロ、メロウなバラード#7でのジャエイムズ・ラブリエ(Vo)の表現力、#8の緊張感から開放される劇的なアレンジなどなど、さすがDREAM THEATERと唸らせるピンポイントでの聴き所が豊富なのは事実。
ただそれだけに、全体的な小ぢんまり感が残念。

Track List

1. On the Backs of Angels
2. Build Me Up, Break Me Down
3. Lost Not Forgotten
4. This is the Life
5. Bridges In The Sky
6. Outcry
7. Far From Heaven
8. Breaking All Illusions
9. Beneath The Surface

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EUROPE / Bag of Bones

2012,SWEDEN

スウェーデンのロック・バンドEUROPEの9thアルバムBag of Bones。
2004年の再結成からだと4作目。

イントロのワウを掛けたリフで予感させた通りのベーシックなブルーズ・ロック#1。ジョン・ノーラム(G)のギター・ソロはゲイリー・ムーア・フレーズも飛び出すエネルギッシュなフレージング。平凡な楽曲の中で鮮烈な印象を残している。
中近東メロディのフック入りミディアム・テンポのブルーズ・ロック#2。
緊張感ある攻撃的なイントロからフリジアン・メジャーを使った浮遊感のあるボーカル・パートを経てビッグなサビに至る#3。シタール風な音をまぶした中近東風な中間部トリップ・パートから抑えの効いたギター・ソロへ移行するインスト・パートを含め、アルバム中で最もアイディアが詰まった楽曲。
アコギのアルペジオとスライド・ギターをバックにしたシブい序盤、うっすら聴こえるトレモロを掛けた70年代風なエレピがトリップ感をもたらす#4。
ピアノが提示するリフがギターに引き継がれヘヴィに展開する#6。ヘヴィになってからのダーティなオルガンが良い感じ。
冒頭のオルガンのグリッサンドがカッコ良い。サビがメロディアスな#7。
LED ZEPPELINのフレーバーを感じさせるアコースティック・チューン#8。
定番リフに乗せた#9。ダイナミックなサビがWHITESNAKEのよう。
ハード・ロックンロールの#10。オルガンのチープなサイケ調オブリガードが良い。終盤のシンセ・ブラスのヒットは蛇足か。
メロウなバラードの#11。

寄る年波かそれともルーツへの回帰か、ブルージーなリフを軸にしたオーソドックスでオールドスクルールな楽曲が中心。ヘアバンドと揶揄されつつもMTVを席巻したかつてのEUROPEはもはや存在しない。

しかしさすがEUROPE。キャッチーなサビや円熟味を増したジョーイ・テンペスト(Vo)の歌唱にEUROPEらしい個性は健在。ツボを心得た起伏ある展開で、ここぞという場面で炸裂させる早弾きが効果的なジョン・ノーラムのギター・ソロ。主にオルガンをプレイ、グリッサンドやレズリーの回転数チェンジなどロック・オルガンの基本に忠実なプレイが好感なミック・ミカエリ(Key)など。脇を固めるプレイヤーも自然体でロックしている姿勢に今のバンドの良好な状態が伺えます。

Track List

1. Riches to Rags
2. Not Supposed to Sing the Blues
3. Firebox
4. Bag of Bones
5. Requiem
6. My Woman My Friend
7. Demon Head
8. Drink And A Smile
9. Doghouse
10. Mercy You Mercy Me
11. Bring It All Home

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カテゴリー: EUROPE

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CATHEDRAL / The Last Spire

2013,UK

既に解散を表明していたCATHEDRALのラスト・アルバム。

嵐、カラスの鳴き声、鐘の音にノイズを加えた不気味極まりないオープニングSEの#1。
超スローなヘヴィ・リフをベースにしたドゥーム・メタルを軸に、女性コーラスや何とも煮え切らない微妙なアコギ・ソロなどの静、テンポアップしての躍動パートによる動を配したCATHEDRALらしい12分超の大作#2。
ギャズ・ジェニングス(G)が次々と繰り出すリフがリードするオーソドックスなCATHEDRALチューンの#3。突如現れるヴィブラフォンのパートが絶妙のアクセントに。
ハイハットのカウントに乗った単音リフのイントロが熱いミディアム・スローの#4。ディレイを掛けたサビがフックとなり印象に残る。
重遅ドゥーム・メタルに幽玄なアコギ・パートと躍動パートを挿入した9分超の#5。
重遅ドゥームにチェロを絡めた前半、適当に弾いているとしか思えないシンセに掠れたメロトロン、更には妖しい女性コーラスも絡む変態プログレ・チューンと化す後半からなる#6。この、まとまりは無いがやりたいことを目いっぱい放り込んだ感じが、懸命にオリジナリティを模索していた70年代B級バンドのようなムードで良い。
#8のイントロSE的な#7。
叙情アコギからのメロウなツイン・リード、儚げなメロトロンなどの静寂パートを挿入した#8。

弦を微妙にベンドしての音程の不安定感により不穏で禍々しい空気を醸成する、ギャズ・ジェニングスの引き摺るようなヘヴィ・リフとブライアン・ディクソン(Dr)の重いグルーヴがアルバム全体をリードし、最初期のようなドゥーム・メタル感が満載。
そこに、70年代ロック・マニアでもあるリー・ドリアン(Vo)の嗜好を反映した、ここ数作共通のアプローチである70年代グルーヴをブレンド。キャリアの集大成とも言える内容になっている。

Track List

1. Entrance to Hell
2. Pallbearer
3. Cathedral of the Damned
4. Tower of Silence
5. Infestation of Grey Death
6. An Observation
7. The Last Laugh
8. This Body, Thy Tomb

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BLACK SABBATH / 13

2013,UK

BLACK SABBATHの19thアルバム13。
ビル・ワード以外のオリジナルメンバー、トニー・アイオミ(G)、オジー・オズボーン(Vo)、ギーザー・バトラー(B)に加え、RAGE AGAINST THE MACHINEのブラッド・ウィルク(Dr)でレコーディング。

リフマスター トニー・アイオミ自らが開拓し、フォロワー達によって模倣、拡大再生産されてきたリフの荒野にもはや未開地は残されていないようだ。

拍子やテンポチェンジによる展開の妙は健在ながら、往時のような破天荒な意外性も粗削りなやりっ放し感も無く、全て予定調和の範囲内。
最初とは全く別の惑星に着いたかのような唐突さこそ、彼らの魅力であり他のバンドと一線を画するユニーク性だと信じる自分にとって寂しい部分も。

また、長年の恩讐を乗り越えたリユニオンの背景に透けて見える、シャロンやレコード会社のドライなビジネス的計算などもチラつく。

でも多分本人達は純粋に楽しんだんだろう。
名曲にして全ての始まりでもある1stアルバム収録のBlack Sabbathの再解釈を試みたかのような#1、出自を物語るブルースハープがイカす#7など、ミュージシャンとしてどころか、人生そのものも最後の曲がり角を迎えた彼らが、青春時代を取り戻したような無垢な輝きを垣間見せてくれるのが唯一の救いだ。

アルバム最後を飾る鐘の音に込められたメッセージは何か。
誰しもが、これで最後だと感じるだろう。
でも、オジーにはNo More Tearsリリース後のフェアウェルツアーで一度騙されたからな。
多分、次もあるだろう(笑)

Track List

1. End of the Beginning
2. God Is Dead?
3. Loner
4. Zeitgeist
5. Age of Reason
6. Live Forever
7. Damaged Soul
8. Dear Father

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DREAM THEATER / Dream Theater

2013,USA

プログレッシブ・メタルの先駆者DREAM THEATERの12thアルバム、Dream Theater。

自らが切り開いたプログレッシブ・メタルというジャンル自体が既に爛熟し形式化して久しい中、DREAM THEATER自身もあれこれと模索をしつつもSystematic Caosのような自己模倣に陥ることもあった。しかし、ここ数作では妙なてらいを排した自然なスタイルでマイク・ポートノイの脱退という最大のピンチも乗り切り安定した活動を続けている。

マイク・マンジーニ(Dr)加入後2作目にしてバンド初のセルフタイトルということで注目された本アルバムもまたその流れに沿った原点回帰とも呼べる内容。プログレ・メタル云々以前に、むしろハード・ロックと呼称しても良いくらいのオーソドックスなスタイルの胸アツなリフやキャッチーなメロディを軸足にしている。

ミステリアスで大仰という良くあるタイプの序曲#1。
ギター・リフとドラムのタイトな16分ユニゾンが定番過ぎて意外な#2。しかし素直にカッコ良いし、アルバムの実質的なオープニングとしては最高の滑り出し。特にリズムのパターンを変化させてきた2コーラス目の疾走感がメタル王道で痺れる。ギター・ソロも構築度とスリルを兼ね備えたジョン・ペトルーシらしい素晴らしいプレイ。
#3は変拍子を織り交ぜた北米テイスト溢れるRUSHっぽいキャッチーなナンバー。メロウなパートでのジェイムズ・ラブリエの歌唱も2ndあたりのムードが漂う。
インスト#4はハイテク・アンサンブルとシンセやギターのソロが舞い踊る中、デレク・シェレニアンのプレイを彷彿させるダーティなオルガンが良い感じ。
静動のダイナミズム、開放感あるサビなどストレートでメロディアスなヘヴィ・バラード#5。
バスドラがリードするリフが印象的な#6。
彼らにしては短めの6分半に様々な展開を見せる#7。サビが非常にメロディアス。
清涼感あるサビを持つメランコリックなバラード#8。
22分超の大作#9はちょっと散漫な印象も。ロックな各パーツは邪悪なグルーヴに乗った序盤を筆頭にさすがの出来だが、ありきたりで冗長なシンフォック・パートはDREAM THEATERとしてやる必要性をあまり感じないし、組曲としての一体感もイマイチだ。このあたりに、もしかしたらファン目線を持ったプロデューサーだったマイク・ポートノイによる第三者的視点の不在が影響しているのかもしれない。

最初と最後のシンフォ・パートに蛇足感はあるものの、総合的な印象は無条件に感動した初期のムードに似ている。そういう意味でセルフタイトルは充分に納得のいくものだ。

Track List

1. False Awakening Suite
I. Sleep Paralysis
II. Night Terrors
III. "Lucid Dream
2. The Enemy Inside
3. The Looking Glass
4. Enigma Machine
5. The Bigger Picture
6. Behind the Veil
7. Surrender to Reason
8. Along for the Ride
9. Illumination Theory
I. Paradoxe de la Lumière Noire
II. Live, Die, Kill
III. The Embracing Circle
IV. The Pursuit of Truth
V. Surrender, Trust & Passion

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陰陽座 / 雷神創世

2014,日本

妖怪ヘヴィ・メタル・バンド陰陽座の12thアルバム雷神創世。

ドラムのビートが雷鳴のように轟くアルバムのイントロダクション的なオープニング#1。瞬火(B/Vo)メインの歌唱に黒猫(Vo)がハーモニーで加わっていく瞬火らしい演出が冴える。
黒猫のファルセットも交えた堂々たる歌いっぷりがメタル・クイーン然とした、ツーバス連打が牽引するメタル・チューン#2。
オールドスクールなハード・ロック寄りのリフを持つ#3。
スラッシーなリフ、瞬火のデス・ヴォイスとギタリスト達の掛け声で押し捲る、陰陽座男子チームのみによる硬質なメタル・チューン#4。
黒猫のコブシが絶品の演歌調歌唱をフィーチュアした#5。
黒猫の歌唱とキー=A(アルバム全曲ドロップDチューニングの為かここではキー=G)というフォーマットに則った忍法帖シリーズ#6。
ユーモラスな歌詞とそれに合わせたチャーミングな黒猫の歌唱が楽しめる招鬼(G)作曲のファンキーな#7。
シンガーとしても進境著しい瞬火の男っぽい歌唱と黒猫のクリアな歌声を対比させたメロディアスなハード・ロック#8。
メロウなパートでのファルセットを交えた透き通った美声、ロックなパートでのメタル・クイーン歌唱、不穏なパートでのおどろおどろしさ等、展開に合せて様々な表情を見せる黒猫の歌唱が素晴らしい12分超のエピック・チューン#9。
雅な和琴をイントロに配し、黒猫がしっとりとした美声を聴かせるバラード#10。
稲妻のようなツインリードのリフがフックとなり、静から動へ徐々に展開する起伏が見事なメタル・チューン#11。
メンバーの出身地愛媛弁で瞬火が歌う陰陽座定番のパーティ・ソング#12。

ドラマティックなオープニング、疾走メタル・チューン、復活した忍法帖シリーズ、黒猫のバラエティ豊かな表現力、そして締めのお祭りと陰陽座の定番パターンをハイクオリティ且つ抜群の安定感で綴る雷神創世。
メンバーの個性を各楽曲の随所に打ち出したプロデュース能力に加え、コンセプト・アルバムの次に2作品同時リリースという驚きのマーケティング戦略。
瞬火の才気はまだまだ尽きることが無いようだ。

Track List

1. 雷神(らいじん)
2. 天獄の厳霊(てんごくのいかづち)
3. 千早振る(ちはやぶる)
4. 人首丸(ひとかべまる)
5. 夜歩き骨牡丹(よあるきかわらぼたん)
6. 神鳴忍法帖(かんなりにんぽうちょう)
7. 天狗笑い(てんぐわらい)
8. 青天の三日月 Rising Mix(せいてんのみかづき)
9. 累(かさね)
10. 蜩(ひぐらし)
11. 而して動くこと雷霆の如し(しこうしてうごくことらいていのごとし)
12. 雷舞(らいぶ)

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陰陽座 / 風神界逅

2014,日本

妖怪ヘヴィ・メタル・バンド陰陽座の11thアルバム風神界逅。

クリーンなギターのカッティングとメロトロン・フルートの静かなイントロから、壮大で爽やかなシンフォニック・パートに発展する陰陽座としては珍しいタイプのオープニング・チューン#1。
#1からの入り方がメタル王道のカッコ良さを持つ疾走チューン#2。狩姦(G)による構築度の高いクラシカルなリックがカッコ良い。
#2とテンポやキーが同じで一瞬「続き?」と錯覚するも、ハード・ロック寄りなリフとキャッチーなサビに個性を持たせた#3。
瞬火(B)がシャウトするゴリゴリなヘヴィ・メタルに、黒猫(Vo)の和風コブシ歌唱で陰陽座らしいフックを加えた#4。
黒猫のフェミニンな歌声をフィーチュアしたバラード#5。
ブリティッシュ・ハード・ロックの古式に則ったツイン・リード・リフが牽引する、タイトルを具現化したスピード・チューン#6。
単音とハーモニクスを多用したリフに80年代アメリカンHR/HMの薫り漂う、瞬火の歌唱パートも含んだ忍法帖シリーズとしては異色の#7。
ムーディな序盤から3拍子へ変化し、さらに5拍子のパートも交えての複雑な展開をメロディアスにさらりと聴かせる、陰陽座らしいプログレッシブ・バラード#8。
メイン・ストリームでも充分通用するであろう、狩姦作曲のメロディアスなポップ・チューン#9。
シンセストリングスをバックに黒猫の美麗ソプラノが堪能できる、日本的な雅を感じさせるメロディも秀逸な黒猫作曲の雄大なバラード#10。
疾走チューンでありながら、黒猫、瞬火ともにメタル度を抑えたマイルドな歌唱で叙情を印象付けるドラマティックでメロディアスなメタル・ナンバー#11。瞬火歌唱パートに、1オクターブ上でユニゾンする黒猫の歌唱がうっすらとミックスされて神秘的な透明感を演出する手法は陰陽座ならでは。
黒猫の伸びやかでキュートな歌唱をフィーチュアした明るいポップ・ナンバー#12。

同時リリースの雷神創世が剛だとすると、本作風神界逅は柔か。
全曲レギュラー・チューニングによる煌びやかさは、時に疾風の如くあるいは爽やかな風のように、風をモチーフにした楽曲との相性が良く、瞬火のプロデュース能力の高さを改めて証明。
少々キャッチーながらそこは勿論妖怪ヘヴィ・メタルの範疇の話であり、メタル・ファンならガッツ・ポーズ間違いなしの#2、#11など楽曲群は珠玉揃い。
楽曲ダウンロード全盛の時代にあって、瞬火自ら手掛けるアートワークへのこだわりやクレジットでのちょっとした遊び心には、次もCDを買ってみたいと思わせる吸引力がある。
サウンド・プロダクションやギタリスト2人のプレイも、数作前と比較すると格段に向上している。

Track List

1. 風神(ふうじん)
2. 神風(かみかぜ)
3. 然れど偽りの送り火(されどいつわりのおくりび)
4. 一目連(いちもくれん)
5. 蛇蠱(へびみこ)
6. 飆(つむじかぜ)
7. 無風忍法帖(むふうにんぽうちょう)
8. 八百比丘尼(やおびくに)
9. 眼指(まなざし)
10. 雲は龍に舞い、風は鳳に歌う(くもはりゅうにまい、かぜはとりにうたう)
11. 故に其の疾きこと風の如く(ゆえにそのはやきことかぜのごとく)
12. 春爛漫に式の舞う也(はるらんまんにしきのまうなり)

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OPETH / Pale Communion

2014,SWEDEN

スウェーデンのプログレッシブ・メタル・バンドOPETHの11thアルバムPale Communion。

単音リフやダーティな音色のバッキングを奏でるオルガン、静かなピアノ、エンディングを神々しく飾るメロトロンなど、キーボードが場面転換をリードするOPETHではこれまでに無いテイストのオープニング・ナンバー#1。
ペダルポイント風単音リフに無国籍エスニックなメロディのサビが印象的な#2。
ミステリアスなパート、幽玄アコギ・パートなど様々に展開、後半はOPETHらしい邪悪な音使いのリフと叙情メロディのサビを巧みに融合した10分超の#3。
冷気漂うメロトロンの白玉にゾクゾクするダークなフォーク・チューン#4。
パーカッシブなエレピやオルガンなどキーボードが活躍するグルーヴィなインストゥルメンタル#5。
爽やかなフォークから始まり、2人のギタリストのバトル~メロディアスなツインリード、ヘヴィなリフにメロトロンと要素が盛りだくさんの#6。
ミステリアスなストリングスのリフがリードする深遠パートとヘヴィなリフのパートの対比で聴かせる#7。
KING CRIMSONのStarlessを想起させる、悲哀感たっぷりのストリングスをバックにミカエル・オーカーフェルト(G/Vo)のエモーショナルな歌唱が乗るドラマティックな叙情ナンバー#8。

デス・ヴォイスを一切排除して70年代王道ロックのテイストに接近した前作Heritageの路線を推し進め、より耽美でマニアックな領域に。
不条理・無慈悲なアグレッションから静謐・神秘的な側面までがこれまでのOPETHの幅広い音楽性だとすると、Pale Communionではレンジの幅はそのままに軸足をより静謐・神秘方面に傾けさらにそこに70年代ヴァーティゴ系のくすんだオルガン・ロック風味を加味した作風。また、これまでも曲中で経過的には使用されていたメジャー・コードを楽曲の印象を決めるラストで使用するなど、斬新とも言える変化が見て取れる。アルバムの基準を測る上で重要なオープニング・チューン#1のボーカル第一声がメロウなコーラスというのも意表を突いており、ミカエル・オーカーフェルトからすると「してやったり」というところだろう。
ペル・ヴィバリの頃よりも歪み度を幾分下げたヨアキム・スヴァルベリ(Key)のオルガンは、グリッサンドを多用するロックでダイナミックな前任者よりもむしろCRESSIDA寄りと言っても良いくらい堅実かつ多彩なプレイ・スタイルで音楽性の変化に対応。
ミックスはかつてのOPETH作品でも制作に関わった、ユニットSTORM CORROSIONでのミカエルの僚友スティーヴン・ウィルソンが担当。KING CRIMSONやYESなどのリミックス・ワークを通じてプログレ界レジェンド達の奥儀に触れたスティーヴンの起用も今作の方向性にマッチしている。
ジャケット・アートは勿論トラヴィス・スミス。

Track List

1. Eternal Rains Will Come
2. Cusp of Eternity
3. Moon Above, Sun Below
4. Elysian Woes
5. Goblin
6. River
7. Voice of Treason
8. Faith in Others

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陰陽座 / 迦陵頻伽

2016,日本

妖怪ヘヴィ・メタル・バンド陰陽座の13thアルバム迦陵頻伽(かりょうびんが)。

思わず「曲順を間違えたかな」と思わせる意表を突いたバラード風のオープニング・チューン#1。黒猫(Vo)のしっとりとした歌唱をフィーチュアしてメロウに聴かせる。
その#1が絶妙のフリとなって満を持した王道HM/HRでオチを付ける#2。#1の余韻の中、ハイハットのカウントがライヴを彷彿とさせるニクい演出がまさに瞬火(B/Vo)ならでは。マンネリを避けつつもメタル・ファンの心理を知り尽くした粋な計らいで早くも聴き手を引きずり込んでいく。
瞬火のヴォーカルや男性陣による咆哮に加え、低音チューニングでヘヴィネスを演出した序盤から黒猫歌唱の伸びやかなサビに至る#3。
和旋律、琴のオブリガードなど和風なエッセンスを加え、ハードながらも超キャッチーな#4。黒猫の瑞々しい歌唱が楽曲の美しさをより印象的にしている。毎回必ず収録されている「化粧品のCMでも使える楽曲」は、本アルバムではこの楽曲だ。
ワーミーペダルを活かしたトリッキーなサビがフックとなったヘヴィ・チューン#5。
黒猫のセクシーでかわいい歌唱が一度聴いたら耳から離れないファンキーかつグルーヴィな#6。
クラブでは無くディスコだった時代のグルーヴを陰陽座のフィルターで再構築。次々に韻を踏むサビが楽しいダンス・チューン#7。4thアルバム鳳翼麟瞳に収録の飛頭蛮(ろくろくび)の後日談とか。
問答無用のカッコ良さに思わずガッツポーズ!黒猫による扇情力抜群のメタル歌唱が感涙すら誘う珠玉の疾走メタル・チューン#8。
瞬火と黒猫の男女ツイン・ヴォーカルをフーチュアした妖しげなプログレ風ファンタジー・チューン#9。
黒猫の歌唱と瞬火のグロウルとの美醜や緩急など、対比する要素を融合したアレンジの妙が効いている#10。
黒猫の艶やかな美声が堪能できるバラード#11。
#8と並ぶ完成度のシンフォニック・メタル#12。瞬火が歌うサビのバックに流れる黒猫の透明感あるスキャットが繊細にして美麗。
ラスト・チューン#13は恒例のポップなパーティ・ソング。仄かに漂う抒情が新鮮。

コンセプト・アルバムの10th、2作同時リリースの11th,12thと、ここ数作はビジネスマン瞬火らしいマーケティング部分での話題も豊富だったが、本作は純粋に音楽のみで勝負。しかし、メタルにハード・ロックにポップに和風にディスコ!と、幅広い音楽性を軽やかに吞み込んで陰陽座として消化及び昇華させる手腕は見事で、全ての楽曲が水準以上の出来栄えとなっている。
変幻自在の表情を見せる黒猫の歌唱、記名性溢れる各々のソロと時に絶妙のハーモニーで楽曲に彩りとフックを持たせる招鬼(G)と狩姦(G)のツイン・ギター。そしてそれらメンバーの個性を適材適所に発揮させつつ自身も活かす敏腕プロデューサーにして全曲の創造主たる瞬火。
”陰陽座”は、もはや”信頼のブランド”と言っても過言ではないだろう。

Track List

1. 迦陵頻伽
2. 鸞
3. 熾天の隻翼
4. 刃
5. 廿弐匹目は毒蝮
6. 御前の瞳に羞いの砂
7. 轆轤首
8. 氷牙忍法帖
9. 人魚の檻
10. 素戔嗚
11. 絡新婦
12. 愛する者よ、死に候え
13. 風人を憐れむ歌

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