コンセプト・アルバム のレビュー

TRANSATLANTIC / The Whirlwind

2009,USA,UK,SWEDEN

ニール・モーズ(Key/ex.SPOCK’S BEARD)、ロイネ・ストルト(G/FLOWER KINGS)、ピート・トレワヴァス(B/MARILLION)、マイク・ポートノイ(Dr/DREAM THEATER)によるプログレ・プロジェクト・バンドの3rd。

ニール・モーズが聖書の中のテーマ「Whirlwind=旋風・つむじ風」について構想を練っていたデモを元に、メンバーのアイディアをプラスして完成させた78分近くに及ぶコンセプト・アルバム。オープニングの#1にいくつものテーマ・メロディが提示され、それらのメロディが切れ目無く繋がった後の楽曲に楽器や音色を換えて何度も登場する、という典型的なコンセプト・アルバムの形式で構成されています。しかし彼らが普通じゃないのは、そのテーマ・メロディの質と量。並みのバンドなら1枚アルバムが作れるくらいの強力なアイディアが4~5個あり、それが縦横無尽に張り巡らされて一気に聴けてしまう恐るべきクオリティ。
コードの独特なヴォイシングやメロディの端々にSPOCK’S BEARD風というかニール・モーズ節が感じられるのは当然として、ジャジーな部分や変態っぽい箇所、開放的に突き抜ける部分に初期FLOWER KINGSのフレイヴァーも感じられ、それらの要素が巧く溶け合っているのが素晴らしいです。音を重ね過ぎず、オルガンやアナログ・シンセ、メロトロンといったオーガニックなサウンドをセンス良く配したニール・モーズ。本家FLOWER KINGSでは何となくマンネリで生彩を欠くロイネ・ストルトも、ネバっこい歌唱と独特のコシのあるギター・プレイで活き活きしてますね。ツーバス連打や滑らかなロールでメタルっぽい興奮をもたらすマイク・ポートノイ。芯のしっかりしたトーンでソリッドに、かつメロディアスに底辺を支えるピート・トレワヴァス。など、個々のプレイもそれぞれの個性を出しながらも全体のサウンドの中で浮く事無く、必然性を持って楽曲に練り込まれてます。
ブルージーなギター・ソロのバックでのアルペジオがPINK FLOYDのCrazy Diamond風でニヤリとさせる#6。テーマ・メロディが充実のボーカル・パートを彩る#8~#10の流れ。アッチェレランドのネオクラ風ユニゾン・フレーズでスリリングに盛り上げる#11。壮大に大団円を迎える#12。などなど、勿体無い位においし過ぎるネタが満載の超優良盤です。

Track List

1. Overture/Whirlwind
2. Wind Blew Them All Away
3. On the Prowl
4. Man Can Feel
5. Out of the Night
6. Rose Colored Glasses
7. Evermore
8. Set Us Free
9. Lay Down Your Life
10. Pieces of Heaven
11. Is It Really Happening?
12. Dancing with Eternal Glory Whirlwind(Reprise)

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THE TANGENT / Comm

2011,UK

英国のプログレッシブ・ロックバンドTHE TANGENTの6thアルバム Comm。

タイタニック号が客船カルパチア号に送った遭難信号から現代のウィキペディアまで、コミュニケーション手段の様々な側面をテーマとしたコンセプト・アルバム。元IT BITESのフランシス・ダナリーからの影響が見て取れる若干21歳のルーク・マシン(G)が加入し、老獪なアンディ・ティリソン(Key/Vo)やテオ・トラヴィス(Sax/Fl)らと互角のインタープレイを披露。THE TANGENTに新鮮な息吹を注入しています。

ズ太いシンセのリフで幕を開け、ギターによる叙情的なテーマ・メロディ、シンフォニックなパートやハードなパートを織り交ぜた20分超の組曲#1。オブリガードでのさりげないスウィープ奏法やトーン・コントロールが見事なアコギ・ソロをキメるルーク・マシン、オルガンにシンセと変幻自在のプレイを聴かせるアンディ・ティリソンのプレイなど聴き所だらけの名曲。
ダークなムードの#2。ホールズワースやフランシス・ダナリーの系譜に連なるルーク・マシンの超絶変態フレージングが鮮烈なアクセントとなりつつ、朴訥なアンディ・ティリソンの歌唱とマイルドなテオ・トラヴィスのサックスでTHE TANGENTのテイストにまとめられています。
ジョナサン・バレット(B)のスムーズなフレットレス・ベースをフィーチュアしたメロウな#3。抑えたギター・ソロ、レズリーの回転をコントロールしたオルガンやペーソス漂うサックスなど味わい深い演奏が染み入ります。
オルガンのミニマルなリフにフルートが絡むカンタベリー・タッチの#4。お約束のファズ・オルガン単音ソロも登場。
叙情的なボーカル・メロディを中心に、静と動のダイナミズムを活かした起伏に富んだアレンジで構成した組曲の#5。

各パートが様々に表情を変えながら紡ぐアンサンブルと、確かなテクニックに支えられたギターやキーボードのツボを得たプレイが、静かなスリルを感じさせてくれる大人な作品です。名作!

ルーク・マシンは自身のプログレッシブ・メタル・バンドCONCRETE LAKE(PAIN OF SALVATIONからの影響モロ出しな微笑ましいネーミング。Tシャツも”BE”だし!)での作品リリースも予定している模様。
現代的なテクニックを活かした超絶技巧やアヴァンギャルドなフレージングから、少ない音数でセンス良く聴かせるプレイまで幅広くこなすこの男、今後注目されることになるかも。

Track List

1. The Wiki Man
2. The Mind's Eye
3. Shoot Them Down
4. Tech Support Guy
5. Titanic Calls Carpathia

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陰陽座 / 鬼子母神

2011,JAPAN

妖怪ヘヴィ・メタルを標榜する陰陽座の10thアルバム鬼子母神。

瞬火(B/Vo)書き下ろしの戯曲「絶界の鬼子母神」をベースにしたコンセプト・アルバム。
初期から組曲を手掛けてきた陰陽座というか瞬火からすると意外だが、コンセプト・アルバムというスタイルは10作目にして初の試み。

従来のアルバムではお約束とも言えたキー=Aで歌は黒猫(Vo)単独の「忍法帖」シリーズやラストを締める黒猫の萌え声パーティ・ソングなどの楽曲を排除、毎回 瞬火が担当するカヴァー・アートの題字を書道家の武田双雲に依頼、さらに別売りで戯曲「絶界の鬼子母神」を書籍出版するという異例づくしの展開でバンドの意気込みが伝わってきます。

内容も期待に違わぬ素晴らしい出来。
物語のオープニングに打ってつけのアップテンポなハード・ロック#1~#2、巧みな拍子チェンジを交えたインテリジェントな展開を見せる至高のプログレッシヴ・メタル#8、#1と同様のピアノのテーマから怒涛の王道疾走メタルに移行し黒猫のメタル・クイーン歌唱が乗るメタル・ファンならガッツポーズ必至の#12といったメタル・チューンを軸に、#6,#11といった瑞々しい叙情バラードや、キャッチーな#7、黒猫のこぶしが効きまくった演歌スタイル歌唱とファンキーなグルーヴを融合させ物語の肝となる村の異様な風習の狂気を描く#5など、キャラの立った楽曲が揃い聴き手のイマジネーションを刺激します。

余韻を残さず突如終わるエンディングも逆にドラマティックさを演出、プロデューサー瞬火の仕掛けたワナにハマりっ放しの61分超大作。
パッケージ・メディアの売上が右肩下がりで、頼みの「サクッとダウンロード」でもカバーしきれない状態の音楽業界にあって、音楽を”作品”として聴かせようという真摯な姿勢が伝わってくる良い作品ですね。

Track List

1. 組曲「鬼子母神」~啾啾
2. 組曲「鬼子母神」~徨
3. 組曲「鬼子母神」~産衣
4. 組曲「鬼子母神」~膾
5. 組曲「鬼子母神」~鬼拵ノ唄
6. 組曲「鬼子母神」~月光
7. 組曲「鬼子母神」~柘榴と呪縛
8. 組曲「鬼子母神」~鬼子母人
9. 組曲「鬼子母神」~怨讐の果て
10. 組曲「鬼子母神」~径
11. 組曲「鬼子母神」~紅涙
12. 組曲「鬼子母神」~鬼哭

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IT BITES / Map of the Past

2012,UK

英国のプログレッシブ・ロック・バンドIT BITES再結成第2弾にして通算5thアルバムMap of the Pastは、バンドのキャリア初のコンセプト・アルバム。タイトル曲自体は昨年からライブで披露していたようなので、当時から構想はあったのかもしれません。

ラジオのチューニング・ノイズ~足踏オルガン風の素朴な伴奏から壮大なオーケストレーションに移行する序曲#1。
静・動の起伏、テンポの変化、鮮烈なシンセ・ソロなど、5分弱のコンパクトな中においしい要素が詰まった#2。
トリッキーなスネアの裏打ちが効いたポップかつプレグレッシブな#3。コーラスやカラフルなシンセが織り成す胸キュンなサビのアレンジがIT BITESらしい。
ジェントルなバラード#4。壮大な中間部での移動遊園地風(?)ペーソスのあるキラキラ・シンセのオブリガードがまたもやIT BITESというかジョン・ベック(Key)の真骨頂。
洒落ていながらキャッチーでアップ・テンポな#5。前作ではあえて前任者フランシス・ダナリーに似せていたかのような部分もあったジョン・ミッチェル(G/Vo)も、歌唱やスリリングなギター・ソロで個性を十分に打ち出しています。
ポルタメントがたっぷりかかった転調しまくりなシンセ・ソロが聴き所なミディアム・テンポの#6。
シタールの味付けが印象に残るポップ・チューン#7。オルガン・ソロがGENESIS風のコード進行。
シンフォニックなオーケストレーションを配した#8。屈折したムードがこれまたガブリエル期GENESIS風。
ブ厚いシンセがリードするイントロからボーカルにエフェクトを掛けたミステリアスな序盤、快活な7拍子へのリズム・チェンジ、ジョン・ベックお得意の浮遊シンセを交えたサビ前から壮大なサビへのドラマティックな移行、等々、場面転換の妙が光る#9。
アルバムを静かに締めくくるバラード#10と#11。

相変わらずの音色センスとさりげないが存在感のあるシンセを操るジョン・ベックを中心にして、ポップかつキャッチーながら、英国的屈折と翳りを適度に配合したIT BITESらしいサウンドは健在。特に#7~#9あたりの英国度は高く、アルバム最大のハイライトとなっています。

Track List

1. Man in the Photograph
2. Wallflower
3. Map of the Past
4. Clocks
5. Flag
6. The Big Machine
7. Cartoon Graveyard
8. Send No Flowers
9. Meadow and the Stream
10. The Last Escape
11. Exit Song

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GAZPACHO / March of Ghosts

2012,NORWAY

ノルウェーのアート・ロック・バンドGAZPACHOの7thアルバムMarch of Ghosts。

航海史上最大の謎とされる漂流船メアリー・セレスト号の船員をはじめ、第一次世界大戦の退役軍人など様々なキャラクターの幽霊のストーリーを描いた各楽曲を束ねたコンセプト・アルバム。

幻想的なパッド系シンセにチェロを交えジワジワとファンタジックな空気を満たしていく序曲的な#1。
アルバム中に何度か顔を出すアルペジオのリフレインがトリップ感を醸し出す#2。
GENESISを彷彿させる冒頭の12弦アコギによるアルペジオ、イーリアンパイプを使用したケルト風のパートが印象的な#3。
欧風メランコリーを感じさせるヴァースから、情念が静かに燃える感動のサビに展開する#4。絶妙なオブリガードを挿入する悲哀に満ちたヴァイオリンが効いている。
#4を引き継いだトラッド風アコギ・パート、ゴシック・メタル風のサビ、ホルンをバックにした民謡風パートなど、各種要素を自然に溶け込ませた#5。
ストリングスとボーカル・パートが切なくも暖かい#6。
仄暗いムードで淡々と紡がれた#7。終盤は一転して、うっすらと狂気と邪気を織り交ぜた民謡風パートでアッパーに展開。
儚げなコーラス、ピアノ、ヴァイオリンが葬送曲のようなメランコリーを織り成す#8。
静かな前半から若干は激しさを帯びた後半に移行する#9。南洋風あるいは中近東風ともとれる無国籍な琴の響きにハッとさせられます。
オーラスの#11に向けての序章のような#10。
ヘヴィなバッキングで#2のボーカル・メロディをリプライズする#11。ドラマティックな盛り上がりを見せつつ、ラストはアルバム冒頭の幻想的なシンセで余韻を残したエンディングを演出。

パートI~IVのHell Freezes Overを要所に配置。さらに、時に前後の楽曲がシームレスに繋がってアルバム全体通して決して熱くならず儚げでかつ幽玄なムードで統一。そんな中、#3,#7,#9など、エキゾチックな要素が印象的なフックとなっている。
また、#1のアルペジオをさりげなくリフレインさせた#4,#11。同じボーカル・メロディを幽玄なバッキングの#2、ヘヴィなバッキングの#11で対比させたりと、定番な手法ながらなかなか巧み。

Track List

1. Monument
2. Hell Freezes Over I
3. Hell Freezes Over II
4. Black Lily
5. Gold Star
6. Hell Freezes Over III
7. Mary Celeste
8. What Did I Do?
9. Golem
10. The Dumb
11. Hell Freezes Over IV

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BIG BIG TRAIN / English Electric (Part One)

2012,UK

英国のプログレッシブ・ロック・バンドBIG BIG TRAINの7thアルバムEnglish Electric (Part One)。

緊張感あるギターのアルペジオ・リフから、小刻みなリズムをフックとするブリッジを経て開放的なサビに移行する#1。モチーフのメロディをベースにした終盤のシンセ・ソロがプログレの王道を行きつつ、フルートの陰影や重厚なストリングス・セクションが随所で効いた素晴らしいシンフォニックなオープニング・ナンバー。
リコーダーやバンジョーなどがもたらすほのぼのとした雰囲気に、かすかなペーソスを織り込んだ田園フォーク風ナンバーの#2。ボーカル・パート冒頭の歌い回しをはじめ、全体的にGENESISの小品っぽい上品な英国風味に仕上がってます。
ロマンティックなフルートにジャジーでクールなヴァース、一転してサビはストリングス・セクションをバックに叙情で覆い尽くす#3。清楚でリリカルなフルートからギター・ソロへ徐々に盛り上がるインスト・パートもドラマティック。
3+3+3+2、3+3+3+4に続き3+2、そしてサビは3拍子に移行。テンポは変わらずも、拍子の変化で緩急を付けた頭脳的なナンバー#4。ロジカルな構造に反して、親しみやすいボーカル・メロディ、中間部の叙情フルート、後半のドラマティックな盛り上がりなど、エモーショナルな聴感を残すあたり、ソングライティングはもはや名人芸。
ピアノにヴァイオリンが絡む清楚なヴァース、メロトロンをバックにした希望的なサビ、ニック・ディヴァージリオ(Dr)のドラミングが牽引する熱いパート、トランペットをはじめ金管がまろやかな印象を残す終盤など、起伏に富みつつも落ち着いたトーンで静かな感動を呼ぶ#5。
アコギのアルペジオ、バンジョーに滑らかなフィドル、アコーディオンなどによる淡い色調のフォーク・ナンバー#6。
#2の主人公(元炭鉱夫のジャックおじさん)が再登場し若い頃の経験を語る#7。テンポアップしたインスト・パートでのスタイリッシュなヴァイオリン・ソロがカッコ良い。
弾むようなパートと、メロトロンが軋むスリリングなインスト・パートに続く叙情ヴァイオリンによる明暗のコントラストが最高な#8。

近代の実話や身近な人物の逸話などをテーマに、ジェントルな重層コーラスや豊富な管弦ゲスト陣を活用してのドラマティックでシンフォニックなアレンジを施した英国テイスト満載の逸品。
暗くて湿っぽい工業地帯やのどかな田園風景など、英国の様々な情景が広がってきます。

Track List

1. The First Rebreather
2. Uncle Jack
3. Winchester From St Giles' Hill
4. Judas Unrepentant
5. Summoned By Bells
6. Upton Heath
7. A Boy In Darkness
8. Hedgerow

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THE TANGENT / Le Sacre Du Travail

2013,UK

アンディ・ティリソン(Key/Vo)率いるプログレッシブ・ロックバンドTHE TANGENTの7thアルバムLe Sacre Du Travail。
盟友テオ・トラヴィス(Fl/Sax/Cl)以外のメンバーを一新。ヨナス・レインゴールド(B)、ジャッコ・ジャクスジク(G)、ギャヴィン・ハリソン(Dr)に加え、BIG BIG TRAINのデイヴィッド・ラングドン(Vo)も参加。

タイトルは、ストラヴィンスキーの春の祭典(The Rite Of Spring)をもじったThe Rite Of Workをフランス語にしたもののようだ。

ティンパニ連打から管と木琴によるシーケンス・フレーズが続くオーケストラのようなオープニングに意表を衝かれつつも、ファンファーレのようなシンセ、メロウなサックスがいつものTANGENTのムードを漂わせる序曲#1。
管が織り成す厳かな雰囲気のイントロから、中間部でのデイヴィッド・ラングドンが歌うIT BITESみたいなムードが漂うキャッチーなパート、メランコリックなパート、カンタベリー風ジャズロック・パート、そして勿論シンセが唸るプログレ・パートなど、緩急・静動と場面転換で22分超を紡ぐ大作#2。
再び趣を変えた管主体のシーケンス・フレーズを冒頭に配置、ジャム風ドラム・パートから一気にプログレ・ワールドに突入する#3。インスト・パートでは、クロスオーバーやフュージョンといった表現がぴったりなレトロで新鮮なヴァイヴを醸し出している。
#1のシーケンスをピアノでリプライズしたものから壮大なパートまで盛り込んだ3分のインスト小品#4。
オルガンの軽快なリフに乗ってズ太いシンセが突き抜ける、爽快でキャッチーなプログレ・チューン#5。

従来のカンタベリー風味シンフォをベースに、クラシックのような楽章形式で各曲を関連させながらも際立たせ、全体としてよりスケールの大きなロック・オーケストラとも言える作風に。
プログレ然とした迸るシンセからフルート等の静謐な詩情まで、幅広い表情を確かなテクニックと味わい深い演奏で聴かせつつ、マニアックな部分とキャッチーなメロディも混在させる卓越したセンス。
現在、最も高品質なプログレ作品を生み出すバンド。

Track List

1. 1st movement: Coming Up On The Hour (Overture)
2. 2nd movement: Morning Journey & The Arrival
3. 3rd movement: Afternoon Malaise
4. 4th movement: A Voyage Through Rush Hour
5. 5th movement: Evening TV

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MAGENTA / The Twenty Seven Club

2013,UK

MAGENTAの6thアルバムTwenty Seven Club。

ケルティック・シンフォの傑作KOMPENDIUMでも手腕を発揮したロブ・リードの才能はまだまだ尽きる事の無いようで、本家MAGENTAの新作においてもドラマティックなシンフォニック・ロックを展開している。
アルバム・タイトルは27歳で他界したミュージシャン達の総称で、収録された各曲もそれぞれが故人をテーマにしたものになっており、あまりにもストレートな楽曲タイトルや#2でのクライベイビー、#6でのアコギのスライドギターなど故人のプレイのオマージュにもニヤリとさせられる。

ミステリアスな中近東ムードで幕を開ける#1(ジム・モリソン)。曲調が様々な表情を見せて変貌していき、軽やかな雰囲気のパートを盛り込みながら叙情的に盛り上げる展開の妙が楽しめる。タイトルは爬虫類に関心があったジム・モリソンにちなんで2013年に命名された4000万年前に生息していた巨大トカゲに由来している。
ワウを掛けたギターが主導し、ストリングス・セクションも絡め躍動感あるパートからダークなパートなどを経て大団円を迎える#2。(ジミ・ヘンドリックス)
悲しくくぐもったエレピがリードするバラード#3(ジャニス・ジョプリン)。
シンセが全編で活躍、静動の起伏を付けながら展開し、終盤の切ない叙情が胸に突き刺さる#4。(ブライアン・ジョーンズ)
ゆったりとしたテンポでスケール感あるアレンジで聴かせる#5。(カート・コバーン)後半はスライド・ギターの泣きにストリングス・セクションを絡め怒涛の叙情で畳み掛ける。
転調による場面転換で進行、オマージュとしてアコギのスライドがあしらわれたパートを持つ#6(ロバート・ジョンソン)。

テーマがテーマなだけにハッピーな感じは無いものの、故人の生前の活躍を髣髴させる躍動感あるパートや、魂を鎮めるような叙情パートなど才人ロブ・リードのストーリー・テラー振りにまたしてもやられたという感じ。

Track List

1. The Lizard King
2. Ladyland Blues
3. Pearl
4. Stoned
5. The Gift
6. The Devil at the Crossroads

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COSMOGRAF / The Man Left In Space

2013,UK

ロビン・アームストロング(G/Key/Vo)による英国のプログレ・プロジェクトCOSMOGRAFの4thアルバムThe Man Left In Space。

SPOCK’ BEARDのニック・ディヴァリージオやデイヴ・メロス、BIG BIG TRAINのグレッグ・スパウトン、元THE TANGENTのルーク・マシンなど、英米プログレ人脈のゲストを招いて制作。

イントロ的なSEの#1に続き、牧歌的な中にも英国ならではの蔭りとヒネリを滲ませたアコギのアルペジオから一転してLED ZEPPELINのような大きなグルーヴのヘヴィなギター・リフが飛び出しハッとさせられる#2。ローファイなマシン・ビートやさりげないオルガンのバッキングなど、PORCUPINE TREEあたりに倣ったのか70年代クラシックとコンテンポラリーなテイストを共存させたサウンド・デザインにもセンスを感じさせます。
パッド・シンセとギターによるサウンドスケープから、4人期のGENESISのようなシンフォニック・アンサンブルに展開するインストゥルメンタル・チューン#3。
枯れたギターが宇宙空間の寂寥感を感じさせるインストゥルメンタル・チューン#4。
前2曲の流れを汲んだSE中心のインストによる前半からドラマティックにボーカル・パートが登場する#5。
ダークで静かなボーカル・パートと鮮烈かつ流麗なルーク・マシンのギター・ソロを交互に配した#6。スウィープ・ピッキングなどの技を駆使しながらも、微妙なトーン・コントロールでエモーショナルな味わいを見せるルークの伸びやかなプレイが素晴らしい。
アコギとオルガンをバックにした切々とした歌唱、泣きのギター・ソロにグッとくる#8。
再びスペイシーな寂寥感を漂わせながらプログレ的なシンセ・ソロやミュージカル風な展開の妙を織り込みアナログ・レコードのスクラッチ・ノイズで幕を降ろす#9。

人生における成功と失敗についての探求をテーマに、ダークな色彩の中にもスリルや叙情を交えてアルバムを構成。
宇宙飛行士の交信音のようなSEが随所に挿入され、スペイシーなムードでコンセプト・アルバムとしての統一感を保ちながら音楽の旅に浸れます。

Track List

1. How Did I Get Here?
2. Aspire, Achieve
3. The Good Earth Behind Me
4. The Vacuum That I Fly Through
5. This Naked Endeavour
6. We Disconnect
7. Beautiful Treadmill
8. The Man Left In Space
9. When The Air Runs Out

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STEVEN WILSON / The Raven That Refused To Sing

2013,UK

スティーヴン・ウィルソンの3rdアルバムThe Raven That Refused to Sing。

このところ、KING CRIMSONを皮切りに、ELPやJETHRO TULLなどの旧作リマスターの仕事でも評価を上げ、自らの作品でパフォームするだけでなく新旧プログレ界の架け橋としての存在感も増す、現在のプログレ界で最も多忙で重要な人物であるスティーヴン・ウィルソン。

ニック・ベッグス(B ex.KAJAGOOGOO)、マルコ・ミンネマン(Dr)、テオ・トラヴィス(Sax/Fl)等、錚々たるメンツを集めてレーコーディングされた本作は、プロデュースをアラン・パーソンズに委ねた万全の体制。

疾走感のもたらすソリッドなスリルと静かなパートでのフルートやメロトロンの幽玄な叙情の2面性を持つ#1。
ストリングスも絡め、メロディアスで美しくメランコリックな#2。E-BOWを掛けたギターのフィンガリングのみと思しき滑らかなソロが曲にマッチして胸を熱くします。
各人のソロとそれに呼応するドラムやオルガンのバック陣によるジャムをフィーチュアした冒頭2分、ボーカル・パートでのロックの王道リック、そして王道リックから深遠なパートに移行する意外な展開など、並みのバンドやアーティストなら数曲分に相当するアイディアを贅沢に詰め込んだ#3。
ミステリアスなムードの中、静と動の起伏を巧くつけた#4。
心に染み入る弾き語りパートやメロトロンやスキャットが加わるインスト・パートなど、アコギのアルペジオをフィーチュアした前半から、フルートやクロマチックなフレーズが印象的なギター、サックスによるソロ・パートを挟み、ピアノのアルペジオがリードするボーカル・パートを経てダークに盛り上がる終盤へと展開するプログレッシブ・チューン#5。
ひたすら美しくそしてシンフォニックにもなる、ダークでファンタジックな#6。

ユニゾンやキメがハマった時のカタルシスなどバンドならではのアンサンブルの妙を感じさせる場面も多々あり、内省的な印象の強かったこれまでのソロ作とはまた違った味わい。
スティーヴン・ウィルソン自身、「音楽の旅」ができるアルバムを聴いて育った、とインタビューで語っていたが、本作はまさにその音楽の旅に浸れる傑作。
レジェンドに触れて得た様々な奥義を吸収、咀嚼してスティーヴン・ウィルソンとしてのフィルターを通して表現した、刺激的でいて懐かしくもある素晴らしい作品に仕上がってます。

Track List

1. Luminol
2. Drive Home
3. The Holy Drinker
4. The Pin Drop
5. The Watchmaker
6. The Raven That Refused To Sing

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BIG BIG TRAIN / English Electric (Part Two)

2013,UK

英国のプログレッシブ・ロック・バンド BIG BIG TRAINの8thアルバムEnglish Electric (Part Two)。

スリリングなパートとゆったりとした叙情パートの緩急がドラマティックな15分超の#1。後半、徐々に盛り上がる5拍子のリフレインが壮大なシンフォニック。美しいコーラスや甘美なストリングス、まろやかなブラス・セクションが英国らしい気品を湛えています。
柔らかな管が暖かく響く、センチメンタルな序盤から仄かな明るさを持つサビに移行する#2。
構築度の高いギター・ソロが印象に残る、GENESISの小品のような英国情緒を纏った#3。
どこかオリエンタルなムードに翳りを伴ったヒネリを加え、短い中にドラマを凝縮した#4。
バンジョーやフィドルによる軽快なフォークロア風味と叙情シンフォニックが融合した#5。
Part One 1曲目The First Rebreatherではボーカルやシンセによって奏でられたメロディを管弦の優しいタッチに趣を変えて挿入された#6。
静かなバラードからドマラティックに展開していく#7。アルバム2枚のラストを飾るに相応しい感動のリフレインが胸を熱くします。

前作のEnglish Electric (Part One)同様、蒸気機関車、造船業者、修道院の廃墟を保全する人、蝶の研究家など、近代~現代イギリスにまつわる実話や普通の人々をテーマにした楽曲で構成。管弦を導入した端正な音像と美しいメロディライン、ジェントルな歌唱から、それらの事象や人々にする優しい目線が感じられます。

Track List

1.East Coast Racer
2.Swan Hunter
3.Worked Out
4.Leopards
5.Keeper of Abbeys
6.The Permanent Way
7.Curator of Butterflies

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GAZPACHO / Demon

2014,NORWAY

ノルウェーの暗鬱シンフォ・バンドGAZPACHOの8thアルバムDemon。

ピアノと浮遊するシンセを中心に静かに進行する中、時折ハード・エッジなギターのパワーコードが鳴り響き、平坦になりがちな展開にダイナミズムを付加するメランコリックでファンタジックな#1。
中近東エスニック風味なメロディやタンゴ・パートの挿入、欧州的叙情を漂わせるアコーディオンなどの小技も効果的に使用し、全4曲というアルバム全体の流れに起伏を付けている小品#2。
こもったピアノとハミングによるメイン・テーマを反復し進行する繊細な前半からハードなタッチの後半へ移行するAパート、#1のパワーコードをリプライズさせたBパートで構成された、よりメロディに焦点を当てた#3。
琴のような音色のバンジョーによる7拍子のシーケンスにヴァイオリンの妖しげなオブリガードが絡むパート1、パート1を引き継ぎつつ枯れたギターやヴァイオリンによるフックを加えたパート2、ヘヴィネスを加えて静と動のレンジを広げたパート3により構成された#4。

儚げなボーカルと霧のようなパッド系又はストリングス・シンセを基調に、繊細で耽美なパートを中心に丁寧に紡いでいく。ダークな中にも暖かみを帯びたサウンドなのは、バンジョーやアコーディオン、ヴァイオリンといったオーガニックな楽器群の効果的な使用によるもの。
音圧ありきの昨今の音楽とは対極の、音を出すのではなく出さないことで存在感を高めるという逆説的なアイディアがおもしろい。

Track List

1. I've Been Walking Part 1
2. The Wizard of Altai Mountains
3. I've Been Walking Part 2
4. Death Room

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STEVEN WILSON / Hand. Cannot. Erase.

2015,UK

スティーヴン・ウィルソン(Vo/G/Key)の4thアルバム Hand. Cannot. Erase.。
前作The Raven That Refused To Singとほぼ同様のメンツで制作。
実在したJoyce Carol Vincentという女性の人生にインスパイアされたコンセプト・アルバム

美しいメロディを提示した、期待感で胸膨らむオープニング・インストゥルメンタル#1。
快活なギターのカッティングがリードする10分超の#2。ドラマを予感させる長いイントロを経てスティーヴンによる繊細な歌唱パートへ。時にうっすらとそしてクライマックスでは神々しく鳴り響くメロトロンが爽快。
歌メロを軸に静と動のダイナミクスで聴かせるキャチーな#3。ここでもメロトロンが活躍。
序盤に女性のモノローグを配し、マシンのリズムをベースに穏やかな音色群でデコレーションされたオケをバックに延々とサビを反復する#4。単純な繰り返しこそが完璧な生活という暗喩だろうか。反復の陶酔感とともにリスナーに魔法を掛けるかのような曲だ。
うって変わって生々しいピアノとボーカルで始まる#5。ミステリアスなアコギのアルペジオ・パート、ガスリー・ゴーヴァン(G)によるメロウなギター・ソロ、女性ボーカル・パートを交えながら徐々に盛り上がるドラマティック・チューン。
切迫感を煽るリフ、パーカッシヴなフェンダー・ローズ、エフェクトを掛けたボーカルをフィーチュア。緊張と緩和による落差が決定的なフックとなって強烈な印象を残す#6。
ベンダーを多用したモーグ・シンセサイザーのソロをフィーチュアしたインスト・チューン#7。
神秘的なコーラス・パートを内包する、アコギのアルペジオをバックにしたシンプルながら非常に英国的な小品#8。
屈折したメロウネスと暴虐のインスト・パートを兼備した初期KING CRIMSONを彷彿させる13分超のエピック・チューン#9。テオ・トラヴィス(Fl/Sax)の浮遊するフルートが神秘的な味わいを付加。
#1のテーマ・メロディから内省的で聴かせるボーカル・パートに移行、感動的なメロディで本編を締めくくる#10。
余韻を残しながらオープニングに回帰するかのようなインスト#11。

ストーリー・テリングを重視したためか、前作のような即興的な器楽要素は後退したものの、インスト・パートの深淵なダークネスやメランコリックな要素といったスティーヴン・ウィルソンらしさに加え、ボーカル・ラインはより親しみやすいメロディが増量。各国のチャート・アクションも好調なことからも伺えるように、単なるプログレの範疇から脱却しPINK FLOYDと同様のステージに進出した感のある作品。

Track List

1. First Regret
2. 3 Years Older
3. Hand Cannot Erase
4. Perfect Life
5. Routine
6. Home Invasion
7. Regret #9
8. Transience
9. Ancestral
10. Happy Returns
11. Ascendant Here On…

STEVEN WILSON / Hand. Cannot. Erase. のレビューを見る

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DREAM THEATER / The Astonishing

2016,USA

DREAM THEATERの新作The Astonishingは、ジョン・ペトルーシ(G)による壮大なオリジナル・ストーリーを元にしたCD2枚組のコンセプト・アルバム。
アルバム発表後のツアーでは、アルバム丸ごと再現もアナウンスされている。

ミュージシャンやバンドがアルバムとして音楽をリリースすることの意義が薄まってきている、音楽がデジタル・コンテンツとしてファイル単位で購入・消費される現代。
音楽メディアの売上が右肩下がりの一方で、音楽を生で体験できるライブの動員は盛況だという。
一部のビッグなミュージシャンで、新曲を無料で配布しライブに集客する為のツールとして捉えるという動きもある。
そう、かつては『アルバムをリリースし、それをライブ・ツアーでプロモーション』というサイクルが、今や『新音源をプロモ的に使用、ライブ・ツアーに動員しグッズも合わせて大儲け』という図式にビジネス・モデルが変容してきている。

そんな潮流に沿って、コミックや小説あるいは映像作品と連動させたマルチ・メディア作品の一部として音楽をアルバムという形で世に問う、というフォーマットに挑戦する動きが出てきている。
DREAM THEATERの2016年新作The Astonishingもそんなムーブメントの中のひとつに数えることができる。
だが、DREAM THEATERの場合は、商売上手なレーベル Roadrunner Recordsのバックアップもあり、リリース前からWEB上で物語にまつわるマップや登場するキャラクターなどの視覚要素を情報発信する斬新さに加え、音楽についてもプラハ・フィルハーモニック・オーケストラを贅沢に使用する妥協の無さで一線を画している。

さて中身の方はというと、従来のプログレ・メタルな側面にオーケストラを導入したシンフォニックな側面が自然に融合、ドラマのワンシーンのようなSEも交えながら一気に描ききる手法が見事。CDのAct IとAct IIがアナログ・レコードでいうA面B面のように、丁度良いインターバルをリスナーに提供。トータル130分もの長大な音楽の旅をリスナーのスタイルに合わせて楽しめるようになっている。

まずはAct I。
物語の世界観を表すノイジーなSEの#1。
オーケストラからゴスペル風コーラスまで動員、重苦しいメロディから美麗メロディまで様々なテーマを提示、以降の物語の起伏を予感させる序曲#2。
北米プログレ・ハードなテイストを漂わせる#3。
フォーク・タッチの穏やかな#4。
軍靴と扇情的な演説のSEで始まるマイナー・キーのシリアスなナンバー#5。
不穏な空気を継承したミュージカル風#6。
マイルドなギターによるメロディアスなイントロからファンファーレを経てヘヴィに移行する#7。
壮大に盛り上がるバラード#8。
映画のサウンドトラックのようなストリングスを冒頭に配したバラード#9。終盤には#7のファンファーレのメロディがキーを変えて登場し再び不穏なムードへ。
スリリングに展開するミュージカル・ナンバー#10。
無機的なSEの#11。
軍靴SEと勇壮なファンファーレで戦いを暗示する冒頭からピアノ・バラードへ移行する#12。
コンテンポラリーなタッチのイントロとフックのあるメロディを持つ#13。
ピアノをバックに左右にパンニングされるリバーブたっぷりのボーカルで紡ぐ、ヘヴィなパートも内包した#14。
ジェイムズ・ラブリエ(Vo)のスウィートな歌唱とジョン・ペトルーシのエモーショナルなギター・ソロで酔わせるバラード#15。
神秘的なピアノと不穏なヘヴィ・リフがSEを交えて行き来する#16。
再び無機的なSEの#17。
穏やかな序盤からボーカル・メロディがアルバム冒頭のテーマをなぞりながらヘヴィに変化。バグパイプが奏でるメロディが希望を感じさせる#18。
アルバムのテーマ・メロディを巧みに融合したボーカル・パート。ギターとシンセの各ソロに続くハーモナイズ・プレイも出色の#19。フェードアウトで終了するのが意外な感じも。
オーケストレーションやクワイヤを総動員し物語前半を締めくくりつつAct IIへの期待もそそる中締めエンディング・チューン#20。メロトロンの音色が郷愁を誘う。

続いてAct II。
全体としては希望的ムードに包まれつつも、不穏なテーマが見え隠れするオープニング#1。
ヘヴィなギターのカッティングとツーバス連打がシンクロするリフ、ギター/ベース/シンセによるテクニカルなハーモナイズ・パートを配したインストもカッコ良い、メロディアスなメタル・チューン#2。
ガラスのように繊細な12弦アコギのアルペジオ、マイルドなシンセ、女性スキャットが神秘的なムードを醸成する前半からヘヴィなパートを挟み、雫のようなピアノで幕を閉じる#3。
ピアノとアコギにストリングス・セクションが絡み、ジェイムズ・ラブリエの歌声が伸びやかに響く美バラード#4。
オケとクワイヤがバンドのテクニカルなアンサンブルと見事に融合。スリリングなインスト・パートに被さる戦闘シーンのSEなどの仕掛けも含めて完成度の高いミュージカル的メタル・チューン#5。
不気味さを増した無機的SEの#6。
不条理リフと不穏なボーカル・メロディが不安を煽る#7。ラストの戦いに敗れたかのようなSEが次への期待をそそる。
ジョーダン・ルーデス(Key)によるインテンスなシンセ・ソロを配したダークなナンバー#8。
#7のラストは登場人物Faytheだったのか。むせび泣く人々のSEから始まる神々しいバラード#9。
ピアノとストリングス・セクションが包み込む、悲しくも美しいバラード#10。
郷愁を誘うフィドルがアクセントとなりクワイヤを中心に壮大に盛り上がる#11。
希望的メロディで満ちた、開放感あるメロディアスなハード・ロック#12。
ノイズ音の終焉を暗示するSE#13。
#1のポジティブなテーマが再登場。大団円を迎える#14。長尺アルバムのラストとしては意外とあさっりしているのが逆に好感。

演奏のベクトルがサーカス的な器楽要素よりも物語の進行に向けられ、感傷的な部分でのストリングス、戦いを暗示するブラスと、オーケストラのキャラクターを存分に活かしたアレンジとあいまって作品の完成度を高めている。

DREAM THEATERのコンセプト・アルバムというと、名盤 Metropolis PT2 : Scenes from a Memoryが想起される。しかし、Scenes from a Memoryがミステリアスな謎解きをリスナーに迫る知的好奇心をくすぐる現代劇だった一方で今作は中世風ファンタジーということで、同じことは繰り返さないというバンドとしてのプライドも覗く。
聴くほどに、この物語を生で味わいたいという欲求が高まってくる。つまり、この時点で既にDREAM THEATERの術中に嵌ってしまっていることになるわけで。
その一方でお腹いっぱいの反動か、Train of Thoughtのようなシンプルなアルバムも聞きたくなってくる不思議な効果もある。
どうころんでも勝者はDREAM THEATERということか。

Track List

Act I
1. Descent of the NOMACS
2. Dystopian Overture
3. The Gift of Music
4. The Answer
5. A Better Life
6. Lord Nafaryus
7. A Savior in the Square
8. When Your Time Has Come
9. Act of Faythe
10. Three Days
11. The Hovering Sojourn
12. Brother, Can You Hear Me?
13. A Life Left Behind
14. Ravenskill
15. Chosen
16. A Tempting Offer
17. Digital Discord
18. The X Aspect
19. A New Beginning
20. The Road to Revolution

Act II
1. 2285 Entr'acte
2. Moment of Betrayal
3. Heaven's Cove
4. Begin Again
5. The Path That Divides
6. Machine Chatter
7. The Walking Shadow
8. My Last Farewell
9. Losing Faythe
10. Whispers on the Wind
11. Hymn of a Thousand Voices
12. Our New World
13. Power Down
14. Astonishing

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MAGENTA / Masters of Illusion

2020,UK

MAGENTAの8thアルバムMasters of Illusion。『魔人ドラキュラ』主演俳優の#1をはじめ、50~60年代ホラー映画の名優達を題材にしたコンセプト作。

凝ったリズムがボーカル・メロディにガッチリ噛み合ってポップな耳馴染みの良さを感じさせる。ロブ・リード(Key)らしいドラマティックなオーケストレーションやコーラスのアレンジとクリスティーナ・ブース(Vo)の美声で一気にMAGENTAワールドに引き込まれる#1。
モーダルな歌メロが浮遊し、アコギと柔らかな管楽器による穏やかで気品あるアレンジがRENAISSANCEを彷彿させる#2。
ポジティブで高揚感ある展開の中間部を持つ、サビメロが温かく優しさに満ちたバラード・チューン#3。
コンテンポラリーなムードとシンフォニックな要素をコンパクトにまとめたプログレ・ポップ・チューン#4。
感傷的な序盤からボーカルを引き立てるシンフォニックなパート、客演のピート・ジョーンズ(Sax)をフィーチュアしたシンセとの掛け合いを含む器楽パート、と場面転換しながら終盤はトロイ・ドノックリーのイリアン・パイプが仄かな郷愁を残す#5。
抒情的なテーマを奏でるマイルドなエレキ、YESを彷彿させるチャカチャカしたワウ・ギター、アコギなど各種ギターにオルガンやアナログ・シンセの鍵盤群など、バンド・サウンドを中心に長尺を紡ぐ16分超えのエピック・チューン#6。

全編を覆う端正な英国感と穏やかな温かみが心地よい秀作。

Track List

1. Bela
2. A Gift From God
3. Reach For The Moon
4. Snow
5. The Rose
6. Masters Of Illusion

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TRANSATLANTIC / Abusolute Universe

2021,USA,UK,SWEDEN

TRANSATLANTICの5thアルバムAbusolute Universe。

アルバム各所に織り込まれたモチーフを織り込んだ序曲#1。
軽快なイントロからあまりお上手とは言えない歌唱が飛び出す#2。サビでのニール・モーズ(Key/Vo)による歌唱が力強くさすがの上手さだけに落差が残念。
ロイネ・ストルト(G/Vo)の味わい深い歌唱とシンフォニックなオブリガード、サビのコーラスが印象的な#3。
エキゾチックなテーマ・メロディや全体のムードがロイネ主導と思われるFLOWER KINGS風桃源郷シンフォ#4。
変拍子とコード・チェンジで展開する熟練のインスト・パートを内包。#3のモチーフをメジャーに変換したメロディに導かれる開放的フォーク#5。
3連のリズムに乗せた英国風ロカビリー#6。
BEATLESやGENESISを彷彿させる端正で甘酸っぱいポップ・チューンにアルバムのテーマ・メロディを巧みに挿入した#7。
ハードボイルドなベース・ラインがリードする#8。
掻き鳴らしギター・ロック風イントロ、変幻自在なドラムがリードするインスト・パート、メロディアスな歌唱パート等からなる9分超の大作#9。
#2の別バージョンのような躍動感ある#10。
アコースティックな小品#11。
ミステリアスなムードとスリリングな切り替えしにロイネ色が濃い#12。
感傷的なバラードから入り、テーマ・メロディを交えて壮大に展開する#13。
#2のテーマの変奏で織り込まれた#14。
#16のイントロ的歌モノ小品#15。
よりスポンティニアスなインスト・パートで再構成した#8のリプライズ#16。
オルガンが躍動するトリッキーな変拍子パート、GENTLE GIANT風コーラス・パートを配し、アルバムのテーマをおさらいのように奏でる#17。
アルバムのメイン・テーマを雄大かつ壮大に聴かせて幕を閉じる#18。

ギターとシンセのフレージングが微妙にズレて各人の個性を演出しニヤリとさせるユニゾン・パート、ポップ・バンドのようなキャッチーなコーラス・ワークなどTRANSATLANTICらしい余裕と、一部で素人臭い歌唱が音楽の旅からリスナーを現実世界に引き戻す民主・平等路線の弊害が共存するお馴染みの作風。
ではありながら、要約版(モーズ、トレワヴァスが賛成)、拡張版(ストルト、ポートノイが賛成)、究極版と、収録楽曲及び全体の尺や歌唱者などが異なる3つのバージョンでリリースしてしまうところに絶対的リーダーが居ない不安も感じさせるが、この緩さもまた彼ららしさなのかもしれない。
いくつかのテーマが各楽曲を往来しながら最終的に大団円を迎える、というコンセプト・アルバムの典型パターンではあるが、弱いテーマ・メロディの繰り返しによるくどさ、この手法に対するリスナーの慣れもあってか爽快感はそれほどでもない。

Track List

1. Overture
2. Heart Like a Whirlwind
3. Higher Than the Morning
4. The Darkness in the Light
5. Swing High, Swing Low
6. Bully
7. Rainbow Sky
8. Looking for the Light
9. The World We Used to Know
10. The Sun Comes Up Today
11. Love Made a Way (Prelude)
12. Owl Howl
13. Solitude
14. Belong
15. Lonesome Rebel
16. Looking for the Light (Reprise)
17. The Greatest Story Never Ends
18.Love Made a Way

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